(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月5日15時00分
福島県塩屋埼東方沖合
(北緯36度58.6分 東経141度08.8分)
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船昭政丸 |
遊漁船光明丸 |
総トン数 |
12トン |
5.4トン |
全長 |
19.87メートル |
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登録長 |
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11.72メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
514キロワット |
401キロワット |
3 事実の経過
昭政丸は、操舵室を船体のほぼ中央に有する、FRP製小型機船底引き網漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.25メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、航行中の動力船が表示する法定灯火を点灯して平成15年10月5日02時00分福島県江名港を発し、同県塩屋埼の東方沖合8海里ばかりの漁場に向かった。
ところで、操舵室から後方の見通し状況は、後部囲壁の船体中心線上床から約1メートルのところに、その下端を有する縦約90センチメートル(以下「センチ」という。)横約60センチの窓があって、その両側が約60センチ幅の壁となっており、また、操舵位置から後方の窓までの距離が約1.3メートルあり、操舵位置から後方を振り返って見たとしても、その視界が著しく妨げられる状況にあった。そこで、A受審人は、後方の見張りを行うときには、舵を自動にし、左右の出入口から顔を出して後方を見るか、後部の窓から顔を出して見るようにしていた。
02時50分A受審人は、前示漁場に至って操業を始め、1回の操業に平均約3時間かけて網を引き、日出後からは法定の鼓形形象物を掲揚して操業を続けた。
14時50分A受審人は、周囲の見張りを行って付近に他船がいないのを確認したのち、塩屋埼灯台から093.5度(真方位、以下同じ。)8.1海里の地点で、5回目の操業を行うことにし、針路を200度に定め、機関を微速力前進にかけ、約4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として網を入れ、舵を自動にして網の状態を見ながらえい網速力の調整を始めた。
14時54分A受審人は、塩屋埼灯台から095度8.1海里の地点までえい網したとき、左舷船尾69度2.5海里のところに、西行する光明丸を視認できたが、後方から衝突のおそれがある態勢で接近する他船はいないものと思い、操舵室に他の乗組員を呼んで周囲の見張りを行わせず、また、自らもGPSプロッターの速力表示を見ながら、スロットルレバーでえい網速力を調整することに気を取られ、後方の見張りを行っていなかったので、接近する同船に気付かないまま進行した。
14時58分A受審人は、塩屋埼灯台から096.5度8.0海里の地点に達したとき、光明丸がその方位に変化なく、衝突のおそれがある態勢で1,550メートルまで接近していたが、依然として速力の調整に気を取られ、後方の見張りを行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことができないまま続航した。
昭政丸は、A受審人が接近する光明丸に気付かずに進行中、15時00分塩屋埼灯台から097度8.0海里の地点において、原針路のまま、その左舷船尾部に、光明丸の船首部が後方から62度の角度をもって衝突した。
当時、天候は晴で風力2の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、光明丸は、船体の船尾部に操舵室を有する、FRP製小型兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、釣り客8人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日05時10分江名港を発し、同港の東方沖合22海里ばかりの釣り場に向かった。
ところで、B受審人は、遊漁を行う営業時間としては、原則として05時00分を出航時刻とし、14時00分を釣り場を離れる時刻としてそれぞれ決め、光明丸の乗客定員が12名であったが、船内に余裕を持たせるため片舷4人とし、8人で釣りを行わせていた。
06時21分B受審人は、前示釣り場に至って遊漁を始め、10時ころになって底引き網漁船が近くで操業したこともあってか、釣果がなくなったので、釣り場を適宜移動しながら遊漁を続け、その後、釣果があったことから、終了時刻を少し延長した。
14時35分B受審人は、塩屋埼灯台から088度18.8海里の地点で遊漁を終えて帰港することにし、針路を江名港沖合に向く262度に定め、機関を全速力前進にかけて26.5ノットの速力とし、自動操舵により進行した。
14時54分B受審人は、塩屋埼灯台から093.5度10.6海里の地点に達したとき、急に燃料の残油量が気になり始め、操舵室の床を開けて燃料タンクを確認したところ、その量が半量まで減っているのを認め、翌日も予約の釣り客がいたことから、着岸時に補給できるよう携帯電話で取引店に燃料油の注文を行ったのち、平素よりも燃料の消費量が多いように思えて気になり、いすから立ち上がって舵輪の後方にしゃがみ込み、燃料油の購入伝票を取り出し、前回の購入日の確認などを始めた。
14時58分B受審人は、塩屋埼灯台から096度8.9海里の地点に達したとき、右舷船首7度1,550メートルのところに、衝突のおそれがある態勢で接近する昭政丸を視認することができたが、伝票を調べることに気を取られ、周囲の見張りを厳重に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく続航した。
こうして、光明丸は、B受審人が昭政丸の存在に気付かず進行中、原針路、減速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、昭政丸は、左舷船尾外板を圧壊し、光明丸は、船首部、後部船底外板及び推進器翼などを損傷したが、のちいずれも修理された。
(航法の適用)
本件衝突は、福島県塩屋埼東方沖合において、法定形象物を掲げて漁ろうに従事中の昭政丸と、遊漁を終えて帰港中の光明丸とが衝突したものであり、海上衝突予防法第18条の各種船舶間の航法を適用するのが相当である。
(本件発生に至る事由)
1 昭政丸
(1)A受審人が、えい網を始めたばかりで、えい網速力の調整に気を取られる状況にあったのに、他の乗組員を操舵室に呼んで見張りを行わせていなかったこと
(4)A受審人が、網を入れる前に周囲を確かめたところ、他船を認めなかったことから、他船はいないものと判断し、まさか後方から衝突されるとは思っていなかったこと
(1)B受審人は、同人に対する質問調書添付のレーダー図上に、船首輝線上の3海里付近に昭政丸を、その両側に貨物船を描いているが、昭政丸は、3ノットから4ノットの間のえい網速力で前進中であり、同船の針路模様からすると約600メートルの正横距離で無難に光明丸の前路を航過していくこと
(2)A受審人が、当廷でえい網を始める前に周囲を見たところ、同業船が1隻だけ存在していた旨を供述し、B受審人も本件が発生した付近では昭政丸しか確認していないこと
(3)B受審人が、燃料の残油量が3日分以上あるのに周囲の見張りを長時間放棄したり、レーダー画面の正船首方近距離に映った3隻の他船を失念することは極めて不自然であること