日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年仙審第31号
件名

漁船昭政丸遊漁船光明丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月1日

審判庁区分
仙台地方海難審判庁(原 清澄、勝又三郎、内山欽郎)

理事官
今泉豊光

受審人
A 職名:昭政丸漁ろう長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:光明丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
昭政丸・・・左舷船尾外板を圧壊
光明丸・・・船首部、後部船底外板及び推進器翼などを損傷

原因
光明丸・・・見張り不十分、各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
昭政丸・・・見張り不十分、警告信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、光明丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している昭政丸の進路を避けなかったことによって発生したが、昭政丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月5日15時00分
 福島県塩屋埼東方沖合
 (北緯36度58.6分 東経141度08.8分)
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船昭政丸 遊漁船光明丸
総トン数 12トン 5.4トン
全長 19.87メートル  
登録長   11.72メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 514キロワット 401キロワット

3 事実の経過
 昭政丸は、操舵室を船体のほぼ中央に有する、FRP製小型機船底引き網漁船で、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.25メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、航行中の動力船が表示する法定灯火を点灯して平成15年10月5日02時00分福島県江名港を発し、同県塩屋埼の東方沖合8海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで、操舵室から後方の見通し状況は、後部囲壁の船体中心線上床から約1メートルのところに、その下端を有する縦約90センチメートル(以下「センチ」という。)横約60センチの窓があって、その両側が約60センチ幅の壁となっており、また、操舵位置から後方の窓までの距離が約1.3メートルあり、操舵位置から後方を振り返って見たとしても、その視界が著しく妨げられる状況にあった。そこで、A受審人は、後方の見張りを行うときには、舵を自動にし、左右の出入口から顔を出して後方を見るか、後部の窓から顔を出して見るようにしていた。
 02時50分A受審人は、前示漁場に至って操業を始め、1回の操業に平均約3時間かけて網を引き、日出後からは法定の鼓形形象物を掲揚して操業を続けた。
 14時50分A受審人は、周囲の見張りを行って付近に他船がいないのを確認したのち、塩屋埼灯台から093.5度(真方位、以下同じ。)8.1海里の地点で、5回目の操業を行うことにし、針路を200度に定め、機関を微速力前進にかけ、約4.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)として網を入れ、舵を自動にして網の状態を見ながらえい網速力の調整を始めた。
 14時54分A受審人は、塩屋埼灯台から095度8.1海里の地点までえい網したとき、左舷船尾69度2.5海里のところに、西行する光明丸を視認できたが、後方から衝突のおそれがある態勢で接近する他船はいないものと思い、操舵室に他の乗組員を呼んで周囲の見張りを行わせず、また、自らもGPSプロッターの速力表示を見ながら、スロットルレバーでえい網速力を調整することに気を取られ、後方の見張りを行っていなかったので、接近する同船に気付かないまま進行した。
 14時58分A受審人は、塩屋埼灯台から096.5度8.0海里の地点に達したとき、光明丸がその方位に変化なく、衝突のおそれがある態勢で1,550メートルまで接近していたが、依然として速力の調整に気を取られ、後方の見張りを行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことができないまま続航した。
 昭政丸は、A受審人が接近する光明丸に気付かずに進行中、15時00分塩屋埼灯台から097度8.0海里の地点において、原針路のまま、その左舷船尾部に、光明丸の船首部が後方から62度の角度をもって衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の東南東風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、光明丸は、船体の船尾部に操舵室を有する、FRP製小型兼用船で、B受審人が1人で乗り組み、遊漁の目的で、釣り客8人を乗せ、船首0.3メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同日05時10分江名港を発し、同港の東方沖合22海里ばかりの釣り場に向かった。
 ところで、B受審人は、遊漁を行う営業時間としては、原則として05時00分を出航時刻とし、14時00分を釣り場を離れる時刻としてそれぞれ決め、光明丸の乗客定員が12名であったが、船内に余裕を持たせるため片舷4人とし、8人で釣りを行わせていた。
 06時21分B受審人は、前示釣り場に至って遊漁を始め、10時ころになって底引き網漁船が近くで操業したこともあってか、釣果がなくなったので、釣り場を適宜移動しながら遊漁を続け、その後、釣果があったことから、終了時刻を少し延長した。
 14時35分B受審人は、塩屋埼灯台から088度18.8海里の地点で遊漁を終えて帰港することにし、針路を江名港沖合に向く262度に定め、機関を全速力前進にかけて26.5ノットの速力とし、自動操舵により進行した。
 14時54分B受審人は、塩屋埼灯台から093.5度10.6海里の地点に達したとき、急に燃料の残油量が気になり始め、操舵室の床を開けて燃料タンクを確認したところ、その量が半量まで減っているのを認め、翌日も予約の釣り客がいたことから、着岸時に補給できるよう携帯電話で取引店に燃料油の注文を行ったのち、平素よりも燃料の消費量が多いように思えて気になり、いすから立ち上がって舵輪の後方にしゃがみ込み、燃料油の購入伝票を取り出し、前回の購入日の確認などを始めた。
 14時58分B受審人は、塩屋埼灯台から096度8.9海里の地点に達したとき、右舷船首7度1,550メートルのところに、衝突のおそれがある態勢で接近する昭政丸を視認することができたが、伝票を調べることに気を取られ、周囲の見張りを厳重に行っていなかったので、このことに気付かず、同船の進路を避けることなく続航した。
 こうして、光明丸は、B受審人が昭政丸の存在に気付かず進行中、原針路、減速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、昭政丸は、左舷船尾外板を圧壊し、光明丸は、船首部、後部船底外板及び推進器翼などを損傷したが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は、福島県塩屋埼東方沖合において、法定形象物を掲げて漁ろうに従事中の昭政丸と、遊漁を終えて帰港中の光明丸とが衝突したものであり、海上衝突予防法第18条の各種船舶間の航法を適用するのが相当である。

(本件発生に至る事由)
1 昭政丸
(1)A受審人が、えい網を始めたばかりで、えい網速力の調整に気を取られる状況にあったのに、他の乗組員を操舵室に呼んで見張りを行わせていなかったこと
(2)A受審人が、えい網速力の調整に気を取られ、後方の死角を補う見張りを行っていなかったこと
(3)A受審人が、レーダーを作動させて周囲の見張りを十分に行っていなかったこと
(4)A受審人が、網を入れる前に周囲を確かめたところ、他船を認めなかったことから、他船はいないものと判断し、まさか後方から衝突されるとは思っていなかったこと
2 光明丸
 B受審人が、自船が高速船であるのに、一定時間周囲の見張りを全く行っていなかったこと

(原因の考察)
 光明丸は、B受審人が26.5ノットの高速力で釣り場から帰港中、約6分間舵輪の後方でしゃがみ込んで周囲の見張りを放棄し、前路で漁ろう中の昭政丸に気付かず、同船の進路を避けなかった。同人が、前方の見張りを厳重に行っていれば、昭政丸を早期に視認でき、その動向を確認したのち、転舵するなどして、余裕のある時期に同船の進路を避けることができたと認められる。
 したがって、B受審人が、見張りを厳重に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 一方、昭政丸は、A受審人が、投網前に周囲を見張ったときには、光明丸は、まだ、4海里以上後方にあり、同船に気付かなかったとしてもやむを得ないところであった。しかしながら、同人がえい網速力の調整に忙しく、前方はともかく後方の見張りまで、できる状況ではなかったのであるから、速力の整定を終えるまで他の乗組員を操舵室に上げて周囲の見張りを行わせておれば、接近する光明丸に早期に気付き、同船に対して警告信号を行えたものと認められる。
 したがって、A受審人が、後方の見張りを行わず、かつ、後方の見張りが行えるよう、操舵室に他の乗組員を配置しなかったことは、本件発生の原因となる。

(主張に対する判断)
 B受審人は、14時54分ころ3海里レンジとしたレーダーで、船首方3海里付近に横一線となった貨物船と漁船を認めていた。しかし、燃料油のことばかりが気になって前路の船のことは失念してしまった旨を主張するが、以下の点から、これらを採用することはできない。
(1)B受審人は、同人に対する質問調書添付のレーダー図上に、船首輝線上の3海里付近に昭政丸を、その両側に貨物船を描いているが、昭政丸は、3ノットから4ノットの間のえい網速力で前進中であり、同船の針路模様からすると約600メートルの正横距離で無難に光明丸の前路を航過していくこと
(2)A受審人が、当廷でえい網を始める前に周囲を見たところ、同業船が1隻だけ存在していた旨を供述し、B受審人も本件が発生した付近では昭政丸しか確認していないこと
(3)B受審人が、燃料の残油量が3日分以上あるのに周囲の見張りを長時間放棄したり、レーダー画面の正船首方近距離に映った3隻の他船を失念することは極めて不自然であること

(海難の原因)
 本件衝突は、福島県塩屋埼東方沖合において、遊漁を終えて帰港中の光明丸が、見張り不十分で、漁ろうに従事している昭政丸の進路を避けなかったことによって発生したが、昭政丸が、見張り不十分で、後方から衝突のおそれがある態勢で接近する光明丸に対し、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、福島県塩屋埼東方沖合において、遊漁を終えて帰港する場合、塩屋埼沖合を目指して南北両方向に航行する船舶の多い海域であったから、前路で漁ろうに従事して南下中の昭政丸を早期に視認できるよう、周囲の見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、購入伝票で前回の燃料購入日などを調べることに気を取られ、見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する昭政丸に気付かず、同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、昭政丸の左舷船尾外板に圧壊を生じさせ、自船の船首部、後部船底外板及び推進器翼などに損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、福島県塩屋埼東方沖合において、底引き網漁を行う場合、衝突のおそれがある態勢で接近する光明丸に対し、早期に警告信号を行えるよう、後方の見張りも十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、えい網速力の調整に気を取られ、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、接近する光明丸に気付かず、同船に対して警告信号を行わないまま操業を続けて同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図1
(拡大画面:10KB)

参考図2
(拡大画面:10KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION