(海難の事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月2日16時10分
北海道小樽港北西方沖合
(北緯43度14.9分 東経140度57.7分)
2 船舶の要目等
(1)要目
船種船名 |
漁船勢作丸 |
モーターボートコウセイ |
総トン数 |
19トン |
7.9トン |
全長 |
23.67メートル |
9.67メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
603キロワット |
279キロワット |
(2)設備及び性能等
ア 勢作丸
勢作丸は、平成元年3月に進水した、いか一本つり漁業に従事するFRP製漁船で、船体中央に操舵室が設けられ、同室にはレーダー2基のほかGPSプロッター等が装備されていた。
また、船舶電話を備えていたが、通話不能になることがときどきあり平成15年2月にアンテナの位置を移動したものの、その後も使用できなくなることがあった。
イ コウセイ
コウセイは、沿海区域を航行区域とする最大搭載人員12人の一層甲板型FRP製モーターボートで、船体前部の操舵室とフライングブリッジに操舵スタンドがそれぞれ設置され、電気ホーン及びGPSプロッター等を装備していた。
3 事実の経過
勢作丸は、例年1月から6月初めまでいか漁を長崎県対馬沖合で行ったのち、漁場を移動しながら日本海を北上し、6月中旬に北海道小樽港に至り、同港を基地に出漁していた。
勢作丸は、A受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾2.3メートルの喫水をもって、平成15年7月2日15時40分小樽港を発し、積丹岬東方沖合の漁場に向かった。
A受審人は、15時58分日和山灯台から344.5度(真方位、以下同じ。)0.6海里の地点に達したとき、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.5ノットの対地速力とし、単独の航海当直に就いて自動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、ほぼ正船首1.7海里に釣船(以下「第三船」という。)を、同2.1海里にコウセイをそれぞれ認め、まもなく両船が漂泊中であることが分かり、接近したら両船の南側を通航するつもりで続航し、16時07分半少し前日和山灯台から289度1.9海里の地点に至り、第三船を避けるため針路を260度に転じた。
16時08分わずか前A受審人は、日和山灯台から288度2.0海里の地点で、針路を270度に戻したとき、コウセイが正船首700メートルとなり、その後同船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近したが、第三船を替わしたことからコウセイも替わるものと思い、船舶電話の修理を依頼するため、操舵室後方で電話帳を見て電話番号を探し始め、コウセイに対する動静監視を十分に行わなかったのでこれに気付かず、同船を避けることなく続航した。
こうして勢作丸は、コウセイに向首して進行し、16時10分日和山灯台から285度2.35海里の地点において、原針路、原速力のまま、その右舷船首部がコウセイの船首部に直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力2の北北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
また、コウセイは、B受審人が1人で乗り組み、自営会社の従業員1人を乗せ、かれい釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、同日15時00分小樽港内の小樽港マリーナを発し、高島岬西方沖合の釣場に向かった。
15時15分B受審人は、釣場に至って魚釣りを開始し、15時50分釣場を移動して前示衝突地点付近に至り、船外機を停止しチルトダウンした状態で漂泊を始め、同乗者が船尾右舷側から、自らは船尾左舷側からそれぞれ船尾方に向け竿を出して釣りを続け、15時58分半わずか過ぎ南方を向首しているとき、左舷正横2.0海里に勢作丸を初めて認めた。
16時08分わずか前B受審人は、船首が180度を向いているとき、左舷正横700メートルに勢作丸が自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近するのを認めたが、釣果を見に自船に向かってくるものと思い、警告信号を行わず、更に接近しても、機関を前進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとらずに漂泊を続けた。
16時09分半わずか過ぎB受審人は、勢作丸が左舷正横200メートルに迫り、危険を感じフライングブリッジに上がって同船に手を振り大声で叫び、機関を後進にかけたが及ばず、コウセイは、180度を向首したまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、勢作丸は、船首部右舷側に擦過傷を生じ、コウセイは、船首部を圧壊したが、自力で小樽港マリーナに帰港した。
(航法の適用)
本件は、小樽港北西方沖合において、漂泊中のコウセイに漁場に向け航行中の勢作丸が衝突したものであるが、以下適用される航法について検討する。
衝突した地点は、港則法等が適用されない海域であることから海上衝突予防法が適用されるが、漂泊している船舶と航行中の船舶に関する航法規定は存在しない。よって、海上衝突予防法38条及び39条の船員の常務で律することになる。
(本件発生に至る事由)
1 勢作丸
(1)A受審人が、コウセイの東方に存在した第三船を替わしたことからコウセイも替わるものと認識したこと
(2)A受審人が、コウセイに対する動静監視を十分に行わなかったこと
(3)A受審人が、コウセイを避けなかったこと
2 コウセイ
(1)B受審人が、釣果を見に勢作丸が自船に向かって来るものと認識したこと
(2)B受審人が、警告信号を行わなかったこと
(3)B受審人が、衝突を避けるための措置をとらなかったこと
(原因の考察)
勢作丸は、コウセイに対する動静監視を十分に行っていれば、漂泊している同船に衝突のおそれのある態勢で接近していることが分かり、余裕のある時期に同船を避けることが可能であったものと認められる。
従って、A受審人が、コウセイに対する動静監視を十分に行わなかったこと及び同船を避けなかったことは、本件発生の原因となる。
勢作丸において、A受審人が、第三船を替わしたことからコウセイも替わるものとの認識を持ったことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、第三船を替わした時点ではまだコウセイまで距離があり、衝突のおそれがないとは判断できず、動静監視を十分に行うべきであった。
コウセイは、B受審人が勢作丸を視認し、自船に向首して接近するのを認めているのであるから、警告信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもできたと認められる。A受審人は、同信号を聞けば衝突のおそれのある態勢でコウセイに接近していることに気付くことができ、同船を避け得たものと認められる。
従って、B受審人が、警告信号を行わなかったこと及び衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。
コウセイにおいて、B受審人が釣果を見に勢作丸が自船に向かって来るものと認識したことは、本件発生に至る過程で関与した事実であるが、本件と相当な因果関係があるとは認められない。しかしながら、接近する他船が自船の動静を必ず把握しているとは限らないことから、常に衝突を避けるための措置をとる準備を整えるべきであった。
(海難の原因)
本件衝突は、北海道小樽港北西方沖合において、航行中の勢作丸が、動静監視不十分で、漂泊中のコウセイを避けなかったことによって発生したが、コウセイが、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、北海道小樽港北西方沖合において、漁場に向け航行中、前路に漂泊中のコウセイを認めた場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、コウセイに対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、同船の手前にいた第三船を替わしたことからコウセイも替わるものと思い、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、コウセイを避けずに進行して衝突を招き、勢作丸の船首部右舷側に擦過傷を、コウセイの船首部に圧壊を、それぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、北海道小樽港北西方沖合において、漂泊して魚釣り中、勢作丸が自船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近しているのを認めた場合、機関を前進にかけるなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。ところが、同人は、釣果を見に自船に向かってくるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、勢作丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。
参考図
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