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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年函審第49号(第1)
平成16年函審第50号(第2)
平成16年函審第51号(第3)
件名

(第1)押船翔栄丸消波ブロック衝突事件(簡易)
(第2)押船翔栄丸ケーソン衝突事件(簡易)
(第3)押船翔栄丸防波堤衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年9月22日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(黒岩 貢)

副理事官
宮川尚一

(第1)、(第2)及び(第3)
受審人
A 職名:翔栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

(第1)
 
損害
左舷船尾部の排水口カバーが凹損

原因
運航基準の遵守不十分

(第2)
 
損害
船首端下部に凹損

原因
運航基準の遵守不十分

(第3)
 
損害
右舷船尾部の排水口カバーが凹損

原因
気象・海象(うねりの影響)に対する配慮不十分

裁決主文

 (第1)
 本件消波ブロック衝突は、運航基準の遵守が不十分で、同基準を超えるうねりが寄せる状況下、作業を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 (第2)
 本件ケーソン衝突は、運航基準の遵守が不十分で、同基準を超えるうねりが寄せる状況下、作業を中止しなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 (第3)
 本件防波堤衝突は、うねりの高まりにより作業を中止して待機する際、うねりの影響に対する配慮が不十分で、同影響を受ける防波堤先端内側で係留待機したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 (第1)
 平成16年2月6日08時00分
 北海道十勝港
 (第2)
 平成16年2月6日08時30分
 北海道十勝港
 (第3)
 平成16年2月13日10時00分
 北海道十勝港
 
2 船舶の要目
(第1)、(第2)及び(第3)
船種船名 押船翔栄丸
総トン数 19トン
全長 15.95メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 1,176キロワット

3 事実の経過
(第1)、(第2)及び(第3)
(1)十勝港
 十勝港は、港域南部から北東方に延びる南防波堤、港域北部から東南東方に延びる外北防波堤等が築造された港湾で、南部が漁港区、北部が第2、第3及び第4ふ頭が並ぶ商業区となっており、近年、南防波堤基部の南側に外南防波堤等の港湾施設建設工事が行われていた。
(2)翔栄丸
 翔栄丸は、2機2軸の鋼製引船兼押船で、船首甲板上8.6メートルのところに主操舵室を有し、同甲板上2.15メートルの右舷側階段踊場に舵輪と機関遠隔操縦装置(以下「リモコン」という。)を備え、長さ57.0メートル幅22.0メートル深さ3.7メートルで積載重量2,000トンの非自航起重機船翔栄号及び作業船2隻とともに前示建設工事に伴う外南防波堤築造のためのケーソンの据え付け工事に従事していた。
 また、翔栄丸は、防舷材として、船首両舷に長さ25センチメートル(以下「センチ」という。)直径20センチの発泡スチロール性円筒形フェンダーを5個連ねたものを、船尾両舷に直径60センチ厚さ25センチのタイヤフェンダーをそれぞれ装備していた。
(3)ケーソン据え付け工事
 同工事は、建設中の外南防波堤先端に長さ15.0メートル幅9.7メートル高さ6.0メートルのケーソンを順次据え付けながら同防波堤を055度(真方位、以下同じ。)の方向に延長するもので、翔栄丸の主な作業は、翔栄号を同防波堤先端沖合まで押航するとともに同号を錨及び錨索で船固めする作業、別の作業船で曳航されたケーソンを外南防波堤と翔栄号との間に押航し、ケーソンを翔栄号の舷側に係留する作業、同防波堤先端に据え付けたケーソンを位置微調整のため押し付ける作業等であった。
 また、内部に砂利等を入れて据え付けを終えたケーソンは、最低低潮面から約2.5メートルの高さとなり、その移動防止のため、防波堤の断面が台形となるようケーソン両側に多数の20トン型消波ブロックを投入して固定された。
(4)船舶安全運航基準
 当時、翔栄丸の運航・船舶管理に当たっていたB社では、船舶安全運航基準(以下「運航基準」という。)の中で、作業台船等の曳航、押航時の作業中止基準を、風速毎秒10メートル以上、波高1.5メートル以上、視界200メートル以下と定めていた。
(5)発生に至る経緯
 (第1)
 翔栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、作業員5人を乗せ、ケーソン据え付け工事の目的で、海水バラストを積載し、船首尾とも1.8メートルの喫水となった翔栄号の船尾凹部に船首を嵌合させ、船首0.6メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、平成16年2月6日05時00分十勝港第2ふ頭を発し、外南防波堤建設工事現場に向かった。
 A受審人は、主操舵室で操舵操船に当たって05時40分工事現場に到着し、06時00分翔栄号を外南防波堤先端から50メートルの位置に同防波堤と直角になるよう145度を向首させて船固めを終え、作業員を同船に移乗させたのち、06時10分同船を離れ、作業船が曳航するケーソンの到着を待った。
 ところで、同月5日16時15分に帯広測候所から発表された波浪注意報は翌6日になっても継続し、押航開始当時から認められた東寄りのうねりは徐々に大きくなっており、07時50分ケーソンを曳航してきた作業船から曳航索を外し、次いで翔栄丸でケーソンを押航する準備にかかるころには波高1.5メートルから2.0メートルに達し、運航基準の作業中止基準を超えるようになった。
 A受審人は、うねりのある状態で押航するときには右舷側階段踊場のリモコンで操船することにしていたが、その場合、左舷側の見通しが悪いうえに操船が難しく、うねりで圧流されるおそれがあることも、大きく上下する船首端がケーソンの上端に衝突して損傷するおそれのあることも承知していた。
 しかしながらA受審人は、慣れた作業だから問題ないものと思い、運航基準を十分に遵守して作業を中止することなく、07時59分広尾灯台から161度490メートルの地点においてケーソンの側面に船首を付けて固定索をとらないまま発進し、針路を010度に定め、機関を極微速力前進とし、1.0ノットの対地速力で外南防波堤端と翔栄号の間に向け進行したところ、東寄りのうねりにより徐々に左方に圧流される状況となったが、左舷方の同防波堤が見通せず、このことに気付かないまま続航した。
 08時00分少し前A受審人は、ケーソンが外南防波堤先端を替わったとき、ひときわ大きなうねりを右舷方から受けて左方に寄せられたことから、左舵一杯として同防波堤先端両側に投入された消波ブロックを避けようとしたが及ばず、08時00分翔栄丸は、広尾灯台から160度470メートルの地点において、010度を向首したままその左舷船尾部が既設の外南防波堤先端南東側の消波ブロックに衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、波高1.5ないし2.0メートルの東寄りのうねりがあった。
 衝突の結果、翔栄丸は、左舷船尾部の排水口カバーが凹損したが、のち修理された。
 (第2)
 A受審人は、消波ブロックとの衝突による損傷が軽微であることを認めると、依然、慣れた作業だから問題ないものと思い、運航基準を十分に遵守することなく、押航作業を続けてケーソンを翔栄号の右舷側に係留し、次いで同号の錨索調整により外南防波堤先端にケーソンを据え付け、船首を325度として位置微調整のため同ケーソンを押し付けていたところ、同月6日08時30分わずか前翔栄丸は、大きな東寄りのうねりにより船首が押し上げられてケーソン上端を越え、08時30分広尾灯台から159.5度470メートルの地点において、船首の降下とともに船首端下部がケーソン上端に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、波高1.5ないし2.0メートルの東寄りのうねりがあった。
 衝突の結果、翔栄丸は、船首端下部に凹損を生じたが、のち修理された。
 (第3)
 翔栄丸は、A受審人が1人で乗り組み、作業員7人を乗せ、ケーソン据え付け工事の目的で、消波ブロック36個を積載し、船首尾とも1.8メートルの喫水となった翔栄号の船尾凹部に船首を嵌合させ、船首0.6メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、同月13日08時30分十勝港第2ふ頭を発し、外南防波堤建設工事現場に向かった。
 09時10分A受審人は、前示工事現場に到着し、09時30分翔栄号の船固めを終えて作業員を同号に移乗させたのち、消波ブロックの投入作業を開始しようとしたところ、発航時から認めていた南寄りのうねりが波高1.5メートルから2.0メートルに達するようになったため、作業を一旦中断し、待機することとした。
 A受審人は、外南防波堤先端に据え付けられたケーソンが、内部に砂利等を入れて沈められただけで、係留の支障となる消波ブロックが未投入であったことから、09時40分同ケーソン内側に係留するつもりで広尾灯台から153度440メートルの同防波堤先端付近に近づいたところ、同防波堤内側の海面も大きく上下し、うねりの影響を受けていることを知った。
 しかしながら、A受審人は、船体に防舷材を装備しているから大丈夫と思い、うねりに対し十分に配慮し、うねりの影響のない港奥の岸壁で係留待機するなど、適切な待機場所を選定することなく、09時45分船首を055度に向け、同ケーソン内側に右舷付けで係留した。
 翔栄丸は、ときおり船体を上下させながら係留中、10時00分少し前大きなうねりを受け、船体が押し上げられて防舷材が跳ね上がり、10時00分広尾灯台から154度430メートルの地点において、右舷船尾部が防波堤と衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、波高1.5ないし2.0メートルの南寄りのうねりがあった。
 衝突の結果、翔栄丸は、右舷船尾部の排水口カバーが凹損したが、のち修理された。

(原因)
 (第1)
 本件消波ブロック衝突は、北海道十勝港において、ケーソンの据え付け作業に従事中、運航基準に記された作業中止基準を超えるうねりが寄せる状況となった際、同基準の遵守が不十分で、作業を中止することなくケーソンの押航を続け、うねりにより防波堤先端の消波ブロックに圧流されたことによって発生したものである。
 (第2)
 本件ケーソン衝突は、北海道十勝港において、ケーソンの据え付け作業に従事中、運航基準に記された作業中止基準を超えるうねりが寄せる状況となった際、同基準の遵守が不十分で、作業を中止することなく、防波堤先端に据え付けられたケーソンに船首を押し付けて位置微調整作業を続けるうち、うねりにより押し上げられた船首がケーソン上端に降下したことによって発生したものである。
 (第3)
 本件防波堤衝突は、北海道十勝港において、ケーソンの据え付け作業に従事中、うねりの高まりにより作業を中止して待機する際、うねりに対する配慮が不十分で、うねりの影響を受ける防波堤先端内側に係留待機したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 (第1)
 A受審人は、北海道十勝港において、ケーソンの据え付け作業に従事中、運航基準に記された作業中止基準を超える波高のうねりを認めた場合、同基準を遵守して作業を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、慣れた作業だから大丈夫と思い、運航基準を遵守して作業を中止しなかった職務上の過失により、ケーソンの押航作業を続けるうち、うねりにより防波堤周囲の消波ブロック方向に圧流され、同ブロックとの衝突を招き、左舷船尾部の排水口カバーに凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 (第2)
 A受審人は、北海道十勝港において、ケーソンの据え付け作業に従事中、運航基準に記された作業中止基準を超える波高のうねりを認めた場合、同基準を遵守して作業を中止すべき注意義務があった。しかるに、同人は、慣れた作業だから大丈夫と思い、運航基準を遵守して作業を中止しなかった職務上の過失により、ケーソンの押航後、防波堤先端に据え付けたケーソンに船首を押し付けて位置微調整作業を続けるうち、うねりにより押し上げられた船首がケーソン上端に降下してケーソンとの衝突を招き、船首端下部に凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 (第3)
 A受審人は、北海道十勝港において、ケーソン据え付け作業に従事中、うねりの高まりを認め、作業を中止して待機する場合、うねりに対し十分に配慮し、うねりの影響のない港奥の岸壁で係留待機するなど、適切な待機場所を選定すべき注意義務があった。しかるに、同人は、防舷材を備えているので大丈夫と思い、適切な待機場所を選定しなかった職務上の過失により、うねりの影響を受ける防波堤先端内側に係留中、大きなうねりとともに船体が押し上げられ、防舷材が跳ね上がって防波堤との衝突を招き、右舷船尾部の排水口カバーに凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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