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平成16年長審第26号
件名

漁船住栄丸モーターボートこすもすVI衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月31日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三、山本哲也、稲木秀邦)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:こすもすVI船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
住栄丸・・・操舵スタンドを圧壊、マストを折損及び船体右舷側後部外板に凹損、船長が脳幹挫裂により死亡
こすもすVI・・・船首部パルピットに凹損及び船首から船尾付近までの船底部に擦過傷

原因
こすもすVI・・・見張り不十分、各種船舶間の航法(避航動作)不遵守(主因)
住栄丸・・・見張り不十分、各種船舶間の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、こすもすVIが、見張り不十分で、漁ろうに従事している住栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、住栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月10日15時30分
 大村湾
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船住栄丸 モーターボートこすもすVI
総トン数 1.2トン  
全長 8.54メートル 7.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 36キロワット 110キロワット

3 事実の経過
 住栄丸は、主として一本釣り漁業に従事する、船体後部に操舵スタンドがあって、有効な音響による信号を行うことができる設備を有さないFRP製漁船で、B(一級小型船舶操縦士 昭和50年12月免許取得)が船長として同人の妻が甲板員として2人で乗り組み、あなごかご漁の目的で、船首0.3メートル船尾0.5メートルの喫水をもって、平成16年2月10日15時00分田島灯台から205度(真方位、以下同じ。)約1,200メートルの地点に当たる、長崎県西彼杵郡西彼町亀浦郷の定係地を発し、沖合の漁場に向かった。
 ところで、住栄丸の行うあなごかご漁は、長さ約400メートルの幹縄を1はえと称して3はえ使用し、餌を付けた120個のかごを折り畳んで船首甲板上に積み、機関を極微速力前進にかけて進行しながら1はえにそれぞれ40個のかごを取り付けて順次海中に投入し、翌朝揚収する方法で行っていた。また、幹縄の投入時は、縄の投入状況に合わせて船体を進めるので、操船者は、船首甲板上でかごの組み立てと幹縄への取り付け作業に当たる乗組員の作業状況と縄の張り具合を監視しながら速力を調整する必要があった。
 B船長は、15時10分田島灯台から140度1,220メートルの地点に達したとき、操業を開始し、甲板員を船首甲板で投縄作業につけ、自らは操舵スタンドの後方に立って操舵操船に当たり、漁ろうに従事している船舶が表示する鼓形形象物(以下「鼓形形象物」という。)を掲げないまま、針路を000度に定め、機関を極微速力前進にしたり、中立にしたりして行きあしを調整し、約1.9ノットの対地速力で、甲板員の作業状況と右舷側に投入した幹縄の張り具合とを交互に監視しながら手動操舵によりゆっくりと進行した。
 15時27分B船長は、田島灯台から084度770メートルの地点に達したとき、左舷船首45度1.2海里のところに、針尾瀬戸方向から大村湾奥に向かう態勢で急速に接近するこすもすVI(以下「こすもす」という。)を視認できる状況であったものの、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、こすもすの存在に気付かなかった。
 B船長は、その後も投縄作業を監視しながら続航し、15時29分少し前田島灯台から077度800メートルの地点に達したとき、左舷船首42度900メートルのところに、長崎県大村港に向かう態勢のこすもすを視認でき、その後その方位に変化がなく、互いに衝突のおそれがある態勢で接近することが分かる状況であった。しかしながら、同人は、投縄作業の監視に気を奪われ、依然として周囲の見張りを十分に行っていなかったので、こすもすの存在にも、また、その後同船が自船の進路を避ける措置をとらないまま接近していることにも気付かず、投縄を続けながら進行した。
 こうして、B船長は、こすもすが避航しないまま間近に接近したが、行きあしを止めるなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく続航し、同時30分わずか前投縄を終え、左舵一杯として定係地に向けてその場回頭中、目前に迫ったこすもすを認めてとっさに機関を中立としたが、及ばず、15時30分田島灯台から071度820メートルの地点において、住栄丸は、ほぼ原速力のまま180度を向いたその右舷側後部に、こすもすの船首部が後方から30度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、こすもすは、船内外機を備えたFRP製のモーターボートで、A受審人(一級小型船舶操縦士 平成9年8月免許取得)が1人で乗り組み、あらかぶ釣りの目的で、船首0.3メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同日07時00分長崎空港飛行場灯台から096度約2海里の地点に当たる大村港の定係地を発して寺島水道の釣り場に向かい、08時ごろ同水道に到着して付近を移動しながら釣りを行ったのち、14時50分寺島橋橋梁灯(C1灯)から021度0.8海里の地点を発進し、帰途に就いた。
 発航後、A受審人は、船体中央部右舷側の操縦席に座り、操舵操船に当たって寺島水道を北上し、佐世保港第3区から針尾瀬戸を通航したのち、15時20分田島灯台から315度3.4海里の地点に達して同瀬戸を出航したとき、針路を、大村湾北部にある野島を右舷側に約500メートル離して通過するよう、128度に定め、機関を毎分回転数3,200にかけ、22.0ノットの対地速力で、野島に並航したのち箕島大橋に向く135度に針路を転じるつもりで、手動操舵で進行した。
 定針したとき、A受審人は、針尾瀬戸を出航した安心感と前路に他船が見当たらなかったことから気を緩め、平素、付近の海域でこの時間帯に漁船やプレジャーボートをあまり見掛けなかったこともあって、前路には航行の支障となる他船はないものと思って続航した。
 A受審人は、15時27分田島灯台から334.5度1.0海里の地点に達したとき、右舷船首7度1.2海里のところに住栄丸が存在したものの、依然として前路には航行の支障となる他船はないものと思い、前方の見張りを十分に行っていなかったので、住栄丸の存在に気付かないまま、そのころ右舷船首約30度1,000メートルになった野島を見ながら進行し、15時29分少し前、田島灯台から009度900メートルの地点に達して野島に並航したとき、舵輪前部左側にあるGPSの画面の針路表示に合わせて針路を135度に転じ、手動操舵のまま続航した。
 転針したとき、A受審人は、右舷船首3度900メートルのところに左舷側を見せる態勢の住栄丸を視認でき、同船の船首甲板に乗組員がいて何か作業に当たっている様子やゆっくりとした速力で北方に進行している状況から、鼓形形象物を掲げていないものの、同船が漁ろうに従事していることや、その後その方位に変化がなく、互いに衝突のおそれがある態勢で接近することが分かる状況であった。しかしながら、同人は、前路に航行の支障となる他船はないものと思い込み、依然として前方の見張りを十分に行うことなく、そのことに気付かず、折から視界が良好で、陽光で照らされた箕島大橋周辺や上空の空模様がきれいに見えたので、その景色に見とれたまま進行した。
 こうして、A受審人は、右転するなどして漁ろうに従事している住栄丸の進路を避ける措置をとらないまま、右手で舵輪を操作しながら続航中、ふと船首近くに視線を落としたとき、至近に迫った住栄丸の操舵スタンドと船体右舷側前部を認め、とっさに舵輪を右に回した直後、こすもすは、原速力のまま船首が150度を向いたとき、前示のとおり衝突し、住栄丸を乗り切った。
 衝突の結果、住栄丸は、操舵スタンドを圧壊、マストを折損及び船体右舷側後部外板に凹損を生じ、こすもすは、船首部パルピットに凹損及び船首から船尾付近までの船底部に擦過傷を生じ、のちいずれも修理され、B船長は、病院に搬送されたが、脳幹(橋、延髄)挫裂による即死と検案された。 

(原因)
 本件衝突は、大村湾において、定係地に向け南下中のこすもすが、見張り不十分で、前路で漁ろうに従事している住栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、住栄丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、単独で操舵操船に当たり、定係地に向け大村湾を南下する場合、前路で漁ろうに従事している住栄丸を見落とすことのないよう、前方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、前路には航行の支障となる他船はないものと思い、折から視界が良好で、陽光で照らされた箕島大橋周辺や上空の空模様がきれいに見えたので、その景色に見とれたまま、前方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、住栄丸の存在と接近に気付かず、右転するなどして同船の進路を避けないまま進行して衝突を招き、住栄丸の操舵スタンドを圧壊、マストを折損及び船体右舷側後部外板に凹損を、こすもすの船首部パルピットに凹損及び船首から船尾付近までの船底部に擦過傷をそれぞれ生じさせ、住栄丸船長が死亡するに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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