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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年長審第21号
件名

交通船水星防波堤衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月26日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:水星船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
水 星・・・船首部を圧壊

原因
居眠り運航防止措置不十分

裁決主文

 本件防波堤衝突は、居眠り運航の防止措置が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年2月9日20時50分
 佐賀県唐津港
 
2 船舶の要目
船種船名 交通船水星
総トン数 8.5トン
機関の種類 ディーゼル機関
出力 419キロワット

3 事実の経過
 水星は、佐賀県松浦川の河口付近にある唐津城から南方へ約240メートルの同川西岸に設けられた、唐津港旅客乗下船桟橋(以下「城下桟橋」という。)を基地とし、08時から24時の間、主として沖合約1.5海里の高島にある宝当神社へ、宝くじの当選を祈願する参拝者の輸送に従事するFRP製交通船で、平成16年2月9日17時A受審人(一級小型船舶操縦士 平成15年8月免許取得)ほか1人がそれぞれ前直者と交替して乗り組み、その後、城下桟橋と高島漁港との間の参拝客の輸送に従事した。
 ところで、水星は、通常は約20ノットの全速力で航行するものの、高島漁港からの復航に乗客がないうえ城下桟橋にも交通船待ちの客がいない場合には、燃料節約のため約8ノットの半速力で航行していた。
 A受審人は、参拝客の輸送を数回繰り返したのち、20時35分高島漁港に到着して乗客を下船させたものの、乗船客がいなかったのでその旨を事務所に報告したところ、城下桟橋にも交通船待ちの客がいない旨の連絡を受けて半速力で航行することにし、乗客のないまま、船首0.50メートル船尾0.85メートルの喫水をもって、20時41分唐津港高島西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から058度(真方位、以下同じ。)150メートルのところに設けられた高島漁港の浮桟橋を発し、城下桟橋に向かった。
 発航後、A受審人は、甲板員を客室後部で休息させ、自らは操舵室舵輪後方のいすに座って単独で操舵操船に当たり、20時42分少し前西防波堤灯台を右舷側に20メートル離して通過したとき、機関を半速力前進にかけ、8.0ノットの対地速力で、唐津港内を南下した。
 ところで、A受審人は、約4年間漁船に甲板長として乗船したのち、平成15年4月から城下桟橋と高島漁港間を往復する他の交通船に船長として勤務し、平成16年1月末に職場を転じて2月2日から水星に船長として乗り組んだもので、勤務時間が以前の交通船では08時から17時の昼間労働であったが、水星では17時から24時に変わったので01時ごろ就寝するようにしたものの、08時ごろ目覚めるのでそのまま起床し、雑用などを行って昼間を過ごしたのち午睡をとらないまま17時から業務に就いており、生活のリズムが夜間労働にまだ慣れていない状況であった。
 20時45分A受審人は、西防波堤灯台から189度800メートルの地点に達したとき、針路を松浦川河口中央付近に設置された姉子ノ瀬標識灯の紅色灯と、同河口東岸にある東ノ浜2号防波堤(以下「2号防波堤」という。)の西端にある東ノ浜1号標識灯の黄色灯との中間当たりに向首するよう、191度に定め、同じ速力で進行した。
 定針して間もなく、A受審人は、低速力で航行するうちに気が緩み、海上は穏やかで付近に他船が見当たらなかった安心感と、生活のリズムが夜間労働の時間に慣れていないこともあって、急に眠気を催すようになったが、城下桟橋まで数分間なのでそれまでの間にまさか居眠りすることはあるまいと思い、速やかに休息中の甲板員を操舵室に呼んで2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとることなく、いすに座って手動で操舵を続けていたところ、間もなく居眠りに陥った。
 こうして、A受審人は、折からの北西風によって予定針路線より左方に圧流され、2号防波堤に向首接近する状況となったものの、依然居眠りを続けてこのことに気付かないまま続航中、突然衝撃を感じ、水星は、20時50分西防波堤灯台から189.5度2,200メートルの地点に当たる2号防波堤に、原速力のまま、191度を向いたその船首が衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
 衝突の結果、防波堤に損傷はなかったが、水星は、船首部を圧壊し、自力航行して佐賀県呼子港名護屋浦の造船所に回航され、のち、修理された。 

(原因)
 本件防波堤衝突は、夜間、唐津港内において、松浦川河口の城下桟橋に向け航行中、居眠り運航の防止措置が不十分で、2号防波堤に向首進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、唐津港内において、単独で操舵操船に当たり、高島漁港から松浦川河口の城下桟橋に向け航行中、海上は穏やかで付近に他船が見当たらなかった安心感と、生活のリズムが夜間労働に慣れていないこともあって、急に眠気を催した場合、速やかに休息中の甲板員を呼んで2人で当直に当たるなど、居眠り運航の防止措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、城下桟橋まで数分間なのでそれまでにまさか居眠りすることはあるまいと思い、居眠り運航の防止措置をとらなかった職務上の過失により、居眠り運航となり、風圧によって左方に圧流されながら2号防波堤に向首進行して衝突を招き、船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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