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平成15年長審第50号
件名

貨物船第八菱華丸貨物船ラッキー プロスペロス衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月25日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(稲木秀邦、山本哲也、藤江哲三)

理事官
清水正男

受審人
A 職名:第八菱華丸一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
第八菱華丸・・・左舷船首ブルワークに凹損
ラッキー プロスペロス・・・右舷中央部外板に破口を伴う凹損

原因
ラッキー プロスペロス・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守(主因)
第八菱華丸・・・動静監視不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、ラッキー プロスペロスが、見張り不十分で、前路を左方に横切る第八菱華丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第八菱華丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年3月20日16時28分
 伊予灘釣島南西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八菱華丸 貨物船ラッキー プロスペロス
総トン数 743トン 1,369トン
全長 69.00メートル 73.30メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 1,471キロワット 1,176キロワット

3 事実の経過
 第八菱華丸(以下「菱華丸」という。)は、可変ピッチプロペラを備えた船尾船橋型の鋼製液体化学薬品ばら積船兼油タンカーで、A受審人ほか5人が乗り組み、パラキシレン1,500.3トンを積載し、船首4.2メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成15年3月20日15時50分愛媛県松山市西垣生(にしはぶ)泊地を発し、山口県岩国港へ向かった。
 A受審人は、3直4時間制の船橋当直を4時から8時及び16時から20時まで受け持っており、16時00分釣島灯台から154度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点で昇橋し、出港操船を終えた船長と交代して単独の航海当直に就き、同時16分釣島灯台から193度2.8海里の地点において、針路を310度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流によって5度ばかり左方に圧流されながら11.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵により進行した。
 定針時、A受審人は、左舷船首41度3.1海里のところに伊予灘推薦航路線に沿って東行中のラッキー プロスペロス(以下「ラ号」という。)を初めて視認し、前路を右方に横切る態勢で接近していることを知ったが、まだ距離が遠く、衝突のおそれがあればラ号が自船を避けてくれるから大丈夫と思い、衝突のおそれの有無を判断できるよう、コンパスの方位変化など、その後の動静監視を十分に行わないで、間もなく操舵室後部の海図台に赴き、前方に背を向けて書類の整理作業を開始した。
 その後、A受審人は、たまに海図台から後ろを振り向いて右舷方のみに気を配り、16時22分少し過ぎ釣島灯台から218度2.6海里の地点に達したとき、ラ号と方位が変わらず1.5海里のところに接近し、その後、同船の方位がわずかに右方に変わっているものの、明確な変化がないまま、衝突のおそれがある態勢で互いに接近中であったが、依然として海図台で書類整理を続け、ラ号に対する動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず続航した。
 16時26分A受審人は、釣島灯台から232度2.8海里の地点に達したとき、ラ号が左舷船首40度900メートルのところに接近したが、自船の進路を避けないで接近を続けるラ号に対して警告信号を行わず、更に間近に接近したものの、大幅に右転するなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく進行した。
 そのころ、上甲板にいた船長は、至近に迫ったラ号に気付いて急いで昇橋し、16時27分少し過ぎ釣島灯台から237度2.8海里の地点で、ラ号が左舷船首38度300メートルに接近したとき、右舵一杯、機関を中立全速力後進としたが及ばず、16時28分釣島灯台から240度2.8海里の地点において、菱華丸は、右旋回中、船首を020度に向けて約8.5ノットの速力となったとき、その左舷船首部がラ号の右舷中央部に後方から23度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の東風が吹き、視界は良好で付近には南西方に流れる約1ノットの潮流があった。
 また、ラ号は、鋼製貨物船で、一等航海士Bほか6人が乗り組み、空倉で、船首1.0メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同月19日17時00分大韓民国馬山港を発し、瀬戸内海を経由して兵庫県姫路港に向かった。
 B一等航海士は、3直4時間制の船橋当直を4時から8時及び16時から20時まで受け持っており、翌20日16時00分由利島の南方地点で昇橋し、同時16分釣島灯台から233度4.7海里の地点において、針路を043度に定め、機関を全速力前進にかけ9.5ノットの速力とし、自動操舵により進行した。
 定針時、B一等航海士は、右舷船首46度3.1海里のところに、自船の前路を左方に横切る態勢の菱華丸を視認することができる状況であったが、見張り不十分で、同船の存在に気付かなかった。
 その後、B一等航海士は、同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近したが、右転するなど同船の進路を避けずに続航し、16時28分少し前右舷至近に迫った菱華丸を初めて認め、手動操舵に切り替えて左舵を取ったが及ばず、ラ号は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、菱華丸は、左舷船首ブルワークに凹損、ラ号は、右舷中央部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じた。 

(原因)
 本件衝突は、伊予灘釣島南西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、東行するラ号が、見張り不十分で、前路を左方に横切る菱華丸の進路を避けなかったことによって発生したが、北上する菱華丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、伊予灘釣島南西方沖合において、東行するラ号を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、同船の方位変化を確認するなど、同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、まだ距離が遠く、衝突のおそれがあればラ号が自船を避けてくれるから大丈夫と思い、海図台に向かって書類の整理に気を奪われ、同船に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近していることに気付かず、衝突を避けるための協力動作をとらないまま進行してラ号との衝突を招き、菱華丸の左舷船首ブルワークに凹損、ラ号の右舷中央部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:20KB)





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