(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年4月5日20時35分
長崎県度島飯盛漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第二ふくみ |
総トン数 |
16トン |
全長 |
16.90メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
出力 |
561キロワット |
3 事実の経過
第二ふくみ(以下「ふくみ」という。)は、一本釣り漁業に従事する2機2軸のFRP製漁船で、A受審人(一級小型船舶操縦士昭和62年12月免許取得)が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.75メートル船尾1.50メートルの喫水をもって、平成15年4月5日17時00分長崎県飯盛漁港の定係地を発し、17時30分同県生月島北方1.0海里の漁場に至って操業にかかり、ヤリイカ数匹を獲たところで操業を終え、20時15分大碆鼻灯台から334度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点を発進し、定係地に向けて帰途に就いた。
ところで、飯盛漁港は、長崎県度島北東端の崎瀬鼻から北西方に向かって円弧状に湾曲した海岸と崎瀬鼻から西方900メートルにあるほぼ円形で南北長さが約300メートルの丸島との間に護岸を設けた北東方に開口した港で、丸島の南西側200メートル付近にほぼ丸島と同形の南東方に突出した岬(以下「岬」という。)があり、丸島と岬との間にほぼ南北方向に100メートル、東西方向に60メートルの辺で囲まれる長方形の水域で、アワビの養殖施設(以下「養殖施設」という。)が設置され、光達距離が約3.5キロメートルの黄色標識灯がそれらの東端及び西端の沖側にそれぞれ1個付設されていた。
A受審人は、これまで出入航の度に養殖施設近くを航行していたので、同漁場が存在すること及び黄色標識灯が設置されていることをよく承知し、夜間、度島西方から飯盛漁港に帰航するときには、崎瀬鼻灯台の灯光を針路目標として航行し、岬と丸島のいずれにも南東岸には全く明かりがなく、これらの背後にそれぞれ白色水銀灯の街灯が設置されていたことから、岬を過ぎて丸島の島影から転針目標とする飯盛漁港背後の街灯が視認できるようになったのち、左転して係留地に向けるようにしていた。
発進したのち、A受審人は、度島西端に向けて南東進し、20時30分崎瀬鼻灯台から238度2.0海里の地点において、同灯台をやや右舷船首方に見て針路を054度に定め、機関を全速力前進よりやや減じて17.5ノットの対地速力でレーダー及びGPSを停止したまま、手動操舵により進行した。
20時34分わずか過ぎA受審人は、崎瀬鼻灯台から243度1,550メートルの岬と並ぶ地点に至ったとき、ふと左舷船首方に陸岸の灯火を視認して飯盛漁港に向けようと転針することとしたが、あらかじめレーダーを作動させておき、これを活用するなど、船位の確認を十分に行わなかったので、これをとっさに転針目標の灯火と誤認して飯盛漁港港外に達したものと思い込み、針路を015度に転じ、同漁港の防波堤を照らすためサーチライトを点灯して続航した。
こうして、A受審人は、同ライトの照射で船首方の見張りが妨げられ、養殖施設の灯火及び同施設に向首していることに気付かないまま進行中、20時35分崎瀬鼻灯台から258度1,250メートルの地点において、ふくみは、原針路原速力のまま、養殖施設に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期であった。
衝突の結果、プロペラ等に養殖施設の側綱が絡んで航行不能となり、左舷プロペラ羽根及び同軸を曲損し、養殖施設の幹綱、側綱、アワビ籠及び浮子に損傷を生じたが、他船により養殖施設内から引き出され、のちいずれも修理された。
(原因)
本件養殖施設衝突は、夜間、長崎県飯盛漁港港外において、陸岸の灯火を視認して同漁港に向けようと転針する際、船位の確認が不十分で、同灯火を転針目標と誤認したまま転針し、飯盛漁港西側水域に設置された養殖施設に向首進行したことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、長崎県飯盛漁港港外において、陸岸の灯火を視認して同漁港に向けようと転針する場合、岬背後にも同じ様な灯火があったから、転針目標かどうか判断できるよう、あらかじめレーダーを作動させておき、これを活用するなど、船位の確認を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷船首方に視認した岬背後の灯火を転針目標と誤認して飯盛漁港港外に達したものと思い込み、船位の確認を十分に行わなかった職務上の過失により、養殖施設に向首していることに気付かないまま進行して養殖施設への衝突を招き、左舷プロペラ羽根及び同軸に曲損を、養殖施設の幹綱、側綱、アワビ籠及び浮子に損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。