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平成16年長審第15号
件名

漁船龍昇プレジャーボート福山丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月5日

審判庁区分
長崎地方海難審判庁(藤江哲三、山本哲也、稲木秀邦)

理事官
平良玄栄

受審人
A 職名:龍昇船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:福山丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
龍 昇・・・両舷プロペラに損傷、左舷プロペラ軸に曲損及び左舷船首部船底に擦過傷
福山丸・・・船体が切断されて船体後部及び機関が海没し、のち廃船、船長が右肋骨骨折などの負傷

原因
龍 昇・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、龍昇が、見張り不十分で、錨泊中の福山丸に向かって至近のところで転針進行したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月3日23時30分
 長崎県平戸島東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船龍昇 プレジャーボート福山丸
総トン数 16トン  
全長 20.50メートル  
登録長   7.71メートル
3.90メートル 2.01メートル
深さ 1.36メートル 0.76メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
漁船法馬力数 180  
出力   29キロワット

3 事実の経過
 龍昇は、船体中央部に操舵室を有する2機2軸で舵2枚を装備した、主として刺網及び一本釣り漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(一級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士 平成2年3月免許取得)ほか2人が乗り組み、いさき釣りの目的で、船首1.0メートル船尾1.7メートルの喫水をもって、平成15年9月3日19時00分長崎県矢岳漁港北方約0.8海里の定係地を発して同県二神島沖合の海域に向かい、20時00分二神島灯台から355度(真方位、以下同じ。)0.8海里の漁場に到着して釣りを始めたものの、釣果がなかったので早めに操業を打ち切り、22時40分前示漁場を発して帰途に就いた。
 発航後、A受審人は、乗組員を休息させて自ら単独で操舵操船に当たり、長崎県的山大島東岸沖合から平戸瀬戸北口に向け南下し、やがて航行中の動力船の灯火を掲げて平戸瀬戸を通航したのち、23時23分少し過ぎ青砂埼灯台から276度0.3海里の地点に達したとき、針路を188度に定め、機関を全速力前進にかけ、24ノットの対地速力で、青砂埼灯台から188度4.3海里のところにある下忠六島を左舷側に航過したのち定係地に向けて針路を転じるつもりで、操舵室中央にある舵輪の後方に立って遠隔操舵により進行した。
 ところで、龍昇は、全速力前進で航行すると船首部が浮上し、舵輪の後方に立って前方を見ると、船首方各舷にそれぞれ約13度にわたって死角が生じ、この範囲を見通すことができない状況であったことから、船首死角を補う見張りができるように操舵室天井部に天窓が設けられていた。
 定針したとき、A受審人は、船首方を見通すことができない状況であったが、そのとき、付近に他船が見当たらなかったうえ、平素、この海域で夜間に錨泊して釣りをしている船を見掛けなかったこともあって、前路には航行の支障となる他船はないものと思い、その後、舵輪の前に備えたレーダーを3海里レンジとして作動させていたものの、福山丸の映像を見落としたまま、天窓から顔を出すなどして、船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、23時26分少し前青砂埼灯台から204度1.1海里の地点に達したとき、左舷船首1.5度1.7海里のところに、白色全周灯を掲げて錨泊中の福山丸が存在したが、このことに気付かなかった。
 間もなく、A受審人は、レーダーを一見して右舷船首方約3海里の画面上に数隻の映像を認め、その位置をレーダーの左舷側にあるGPSプロッターと照合したのち船首を左右に振って前方を見たところ、転針予定地点付近からその西方沖合の海域で、漁船が散在して魚群探索を行っていることを知ったものの、その灯火に紛れた福山丸を見落としたまま、漁船群が転針予定地点付近の海域で操業するようであればその西方沖合を迂回するつもりで、その後、レーダーとGPSプロッターを交互に見ながら長崎県平戸島東方沖合を南下した。
 23時27分半、A受審人は、青砂埼灯台から198度1.8海里の地点に達したとき、左舷船首3度1.0海里のところに、福山丸が掲げる白色全周灯の灯火を視認できる状況であった。しかしながら、同人は、レーダーとGPSプロッターを交互に見て転針予定地点付近の漁船群の動静を監視することに気を奪われ、依然として船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、福山丸が存在することに気付かず、もう少し漁船群に近づいて肉眼でその動静を確かめることにして進行した。
 こうして、A受審人は、23時30分少し前、青砂埼灯台から194.5度2.6海里の地点に達し、原針路のまま進行すれば左舷船首32度190メートルのところに存在する福山丸の右舷側を約100メートル離して無難に航過する態勢であったとき、漁船群の動静を確かめようと思って左舵をとり、針路を150度に転じたところ福山丸を右舷船首方に見る態勢で同船に接近する状況となったが、船首死角に遮られてそのことに気付かないまま、同時30分わずか前、原針路に戻すよう右舵をとり、転針しながら福山丸に向かう態勢で続航中、突然衝撃を感じ、23時30分青砂埼灯台から193.5度2.7海里の地点において、龍昇は、その船首が、福山丸の右舷側後部に後方から45度の角度で衝突し、これを乗り切った。
 当時、天候は晴で風力1の東南東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、福山丸は、FRP製のプレジャーボートで、B受審人(5トン限定二級小型船舶操縦士・特殊小型船舶操縦士 昭和54年5月免許取得)が1人で乗り組み、あじ釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.6メートルの喫水をもって、同日18時00分長崎県長串漁港の定係地を発して同時15分前示衝突地点に到着し、水深約20メートルの海中に錨を投じ、錨索を船首から約50メートル延出して錨泊し、機関を中立運転として釣りを開始した。
 ところで、福山丸は、船体後部に機関室があってその前部甲板上に高さ約1.4メートルの風防の付いた操舵スタンドを設け、船体前部にはいけすがあって2枚のさぶたがかぶせられ、操舵スタンドといけすとの間のほぼ船体中央部に高さ約2メートルのマストを備え、その頂部に白色全周灯及び甲板上高さ約1.2メートルのところに両色灯を設備していたほか、約1.6メートルのところに、いけすの上部を照らす200ワットの作業灯を取り付けていた。
 B受審人は、いけすの前方に手製のいすを置いてこれに腰を掛け、時折立ち上がって周囲の見張りを行い、やがて日没となって白色全周灯を掲げ、持ち運び式発電機を駆動して作業灯と海中約5メートルに水中灯を点灯し、釣りを続けた。
 23時29分半わずか前B受審人は、付近を030度方向に流れる微弱な潮流によって船首が210度を向き、いすに腰を掛けて左舷後方を向き、釣りをしていたとき、右舷船尾36度430メートルのところを、白白紅の灯火を掲げた龍昇が、自船の右舷側を約100メートル離して無難に航過する態勢で南下していたが、操舵スタンドに遮られて同船を視認しないまま釣りを続けていた。
 23時30分少し前B受審人は、船首を210度に向けたまま錨泊していたとき、右舷船尾54度190メートルのところで龍昇が左転し、その直後にふと右舷後方を見たとき、龍昇の掲げるマスト灯2個と緑灯を初認し、自船の船尾方近くに向首する態勢で速い船が接近してくると思って同船を見ているうちに、同時30分わずか前同船が両舷灯を見せるようになったので衝突の危険を感じ、立ち上がったものの、どうすることもできず、とっさに右舷側に身を伏せて船体にしがみついた直後、福山丸は、船首が210度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、龍昇は、両舷プロペラに損傷及び左舷プロペラ軸に曲損並びに左舷船首部船底に擦過傷を生じ、福山丸は、操舵室付近で船体が切断されて船体後部及び機関が海没し、のち廃船とされ、B受審人が右第8肋骨骨折などの傷を負った。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、長崎県平戸島東方沖合において、南下中の龍昇が、見張り不十分で、前路で錨泊中の福山丸に向かってその至近のところで転針進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、単独で操舵操船に当たり、船首方に死角を生じた状態で長崎県平戸島東方沖合を南下する場合、前路で錨泊中の福山丸を見落とすことのないよう、天窓から顔を出すなどして、船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、定針したとき、付近に他船が見当たらなかったうえ、平素、この海域で夜間に錨泊して釣りをしている船を見掛けなかったこともあって、前路には航行の支障となる他船はないものと思い、レーダーとGPSプロッターを交互に見て転針予定地点付近の漁船群の動静を監視することに気を奪われ、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路に福山丸が存在することに気付かず、同船に向かってその至近のところで転針進行して衝突を招き、龍昇の両舷プロペラに損傷及び左舷プロペラ軸に曲損並びに左舷船首部船底に擦過傷を生じさせ、福山丸の船体を切断して同船を廃船とさせたほか、B受審人に右第8肋骨骨折などの傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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