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 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年門審第40号
件名

漁船伸永丸漁船裕心丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月24日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年、織戸孝治、寺戸和夫)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:伸永丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:裕心丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
伸永丸・・・沈没
裕心丸・・・プロペラ翼に曲損及び船首部船底外板に亀裂を含む擦過傷

原因
裕心丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
伸永丸・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、裕心丸が、見張り不十分で、漂泊中の伸永丸を避けなかったことによって発生したが、伸永丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月16日11時30分
 長崎県比田勝港北東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船伸永丸 漁船裕心丸
総トン数 4.99トン 4.9トン
全長   14.25メートル
登録長 10.80メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   404キロワット
漁船法馬力数 50  

3 事実の経過
 伸永丸は、船体後部に操舵室を設けたFRP製漁船で、昭和51年7月に四級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が単独で乗り組み、一本釣り漁を行う目的で、船首0.8メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年4月16日07時00分長崎県比田勝港を発し、同港北東方沖合の漁場に向かった。
 A受審人は、漁場で何度か釣場を変え、11時00分舌埼灯台から074度(真方位、以下同じ。)4.3海里の地点で、船首を東方に向けて機関を停止し、船首から合成繊維索に繋いだパラシュート形シーアンカーを投入し、同索を30メートルばかり延出して船首部に係止し、漂泊してあまだいの一本釣り漁を開始した。
 11時25分少し過ぎA受審人は、船尾甲板に座り、電動リール付きの釣竿2本を用いて釣りを行い、船首が090度を向いていたとき、右舷正横1.2海里のところに来航する裕心丸を視認でき、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、釣りに夢中になっていてその状況を見落としていた。
 11時29分少し前A受審人は、同方位500メートルのところに自船に向かって接近する裕心丸を初認し、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを知ったが、自船に用向きがあって接近するものと思い、警告信号を行わず、更に接近したものの、機関を始動して前進するなど、衝突を避けるための措置をとることなく、漂泊を続けた。
 11時30分わずか前A受審人は、裕心丸が右舷方至近に迫っても減速しないことから、衝突の危険を感じたが、どうすることもできず、11時30分舌埼灯台から074度4.3海里の地点において、伸永丸は、その右舷中央前部に裕心丸の船首が直角に衝突し、裕心丸が伸永丸に乗り上げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は下げ潮の中央期であった
 また、裕心丸は、船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、昭和59年9月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が単独で乗り組み、あまだいのはえ縄漁を行う目的で、船首0.87メートル船尾0.91メートルの喫水をもって、同月16日05時00分長崎県豊漁港を発し、比田勝港東北東方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、漁場に至り、2回の操業を行ってあまだい50キログラムを漁獲し、3回目の操業を2海里ばかり北方に移動したところで行うこととし、11時25分舌埼灯台から091度4.15海里の漁場を発し、針路を000度に定め、機関を半速力にかけ、15.0ノットの対地速力で、舵輪後方のいすに腰掛けて手動操舵によって進行した。
 ところで、B受審人は、自船が15.0ノットで航行するとき、船首浮上により、舵輪後方のいすに腰掛けた姿勢では、船首方の両舷にわたって約35度の範囲で水平線が見えなくなる死角を生じることから、平素、立った姿勢で操舵室の天井に設けた窓から顔を出して同死角を補う見張りを行っていた。
 11時25分少し過ぎB受審人は、舌埼灯台から090度4.15海里の地点に達したとき、正船首1.2海里のところに東方を向いた伸永丸を視認でき、その後同船が漂泊していることが分かり、同船に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが、漁場を発進する少し前の揚縄中に移動予定の北方を一瞥したとき、他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、立った姿勢で天井の窓から顔を出して見張りを行うなど、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま続航した。
 11時29分少し前B受審人は、舌埼灯台から077.5度4.25海里の地点に達したとき、正船首500メートルのところに伸永丸を視認できる状況となったが、いすに腰掛けたまま、依然、船首死角を補う見張りを十分に行っていなかったので、同船に気付かないまま進行中、同時30分わずか前、前方至近に直立した釣竿2本を認め、あわてて機関のクラッチを中立に操作したが、及ばず、裕心丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、伸永丸は裕心丸の船体の重みで水船となり、裕心丸はプロペラ翼に曲損及び船首部船底外板に亀裂を含む擦過傷を生じ、来援した僚船によって引き下ろされたが、伸永丸は間もなく沈没し、裕心丸はのち修理された。 

(原因)
 本件衝突は、長崎県比田勝港北東方沖合において、漁場を移動中の裕心丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中の伸永丸を避けなかったことによって発生したが、伸永丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、長崎県比田勝港北東方沖合において、南側漁場での揚縄を終えて北方の漁場へ移動する場合、船首方に死角を生じていたから、前路の他船を見落とさないよう、操舵室天井の窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、移動を開始する少し前の揚縄中に移動予定方向を一瞥したときに他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないと思い、いすに腰掛けたままの姿勢を続けて、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中の伸永丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、伸永丸を水船状態として沈没させる事態を、裕心丸にプロペラ翼の曲損及び船首部船底外板に亀裂を伴う擦過傷をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、長崎県比田勝港北東方沖合において、一本釣り漁を行いながらシーアンカーを投じて漂泊中、来航する裕心丸を認め、同船が衝突のおそれがある態勢で接近することを知った場合、警告信号を行い、更に接近したとき機関を始動して前進するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船が自船に用向きがあって接近するものと思い、警告信号を行わず、更に接近しても機関を始動して前進するなど、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、裕心丸との衝突を招き、両船に前示の事態及び損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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