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平成16年門審第42号
件名

旅客船ヴィーナス漁船第三漁栄丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月11日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治、清重隆彦、長谷川峯清)

理事官
尾崎安則

受審人
A 職名:ヴィーナス船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第三漁栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
ヴィーナス・・・船首部に塗装剥離及び小凹損
第三漁栄丸・・・左舷船首部の波切板が破損、船首甲板に損壊

原因
第三漁栄丸・・・見張り不十分、港則法の航法不遵守

主文

 本件衝突は、入航する第三漁栄丸が、防波堤の外で出航するヴィーナスの進路を避けなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月12日15時30分
 長崎県壱岐島郷ノ浦港
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船ヴィーナス 漁船第三漁栄丸
総トン数 163トン 3.9トン
登録長 22.26メートル 10.04メートル
機関の種類 ガスタービン機関 ディーゼル機関
出力 5,589キロワット  
漁船法馬力数   70

3 事実の経過
 ヴィーナスは、福岡県博多及び長崎県郷ノ浦、芦辺、厳原、比田勝の各港間に定期就航する軽合金製旅客船で、A受審人ほか4人が乗り組み、旅客173人を乗船させ、船首1.26メートル船尾1.53メートルの喫水をもって、平成15年7月12日15時25分少し前郷ノ浦港において、博多港に向かう発航準備を整えていた。
 ヴィーナスは、船底外板の船首部と同船尾部に昇降可能な水中翼、船尾船底部にウォータージェット推進機2機、翼走時の操舵装置として水中翼の角度調節装置、艇走時の速力可変及び操舵装置として各推進器にデフレクタ及びリバーサをそれぞれ装備し、船首部の操縦室でこれらを遠隔操縦して運航する構造になっていた。また、厳原港では水深の関係で水中翼を上げて寄港していたが、それ以外の水域では常時水中翼を下げた状態で運航しており、同状態での全長が27.36メートル、幅8.53メートル、水中翼下端から最大喫水線までの喫水が約5.4メートルであった。
 ところで、郷ノ浦港は、港則法適用港で、その港域は壱岐島の細埼から烏帽子埼まで引いた線及び陸岸により囲まれた海面であり、また、港界線の北方の港域内に、東側から順に海面上高さ約5メートルの南防波堤、中防波堤及び西防波堤が築造され、各防波堤間の開口部が港奥への出入口となっており、ヴィーナスは、南防波堤と中防波堤の間の水深約30メートル、幅約140メートルの開口部(以下「東側防波堤入口」という。)を常用基準経路としていた。
 15時25分A受審人は、操縦室の前側ほぼ中央部の操縦席に腰を掛け、翼走に必要な機関回転数が毎分1,700以上のところ、回転数毎分1,050として離岸操船を行い、同時27分郷ノ浦港鎌崎防波堤灯台(以下「鎌崎防波堤灯台」という。)から068度(真方位、以下同じ。)650メートルの地点で、針路を東側防波堤入口のほぼ中央に向く254度に定め、6.5ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵によって進行した。
 定針時、A受審人は、左舷船首3度1.1海里のところに入航態勢の第三漁栄丸(以下「漁栄丸」という。)ほか漁船2隻を初認し、その後同漁船群を監視していたところ、同漁船群とは東側防波堤入口付近で出会うおそれがある状況であったものの、郷ノ浦港では常日頃から港則法第15条に規定のいわゆる出船優先の原則が遵守されていなかったことから、同漁船群の通過を待つこととし、15時28分鎌崎防波堤灯台から066度450メートルの地点で、推力を0となるように操作すると同時に汽笛により長音1回を吹鳴したのち、惰力で進行した。
 15時29分半わずか過ぎA受審人は、東側防波堤入口の手前約130メートルのところで行きあしが停止し、漁栄丸が船首少し左方200メートルになったとき、警告信号を行ったが、その後も同船が同入口を通過して自船に向首接近してくるのを認め、衝突の危険を感じ、同時30分わずか前、推力レバーを後進に操作したが及ばず、ヴィーナスは、15時30分鎌崎防波堤灯台から043度120メートルの地点で、原針路でほぼ行きあしが停止したままの船首部に、漁栄丸の左舷船首部が前方から60度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力4の北北東風が吹き、視程は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、漁栄丸は、一本釣漁業に従事し、幅2.34メートルで船体中央よりやや後部に操舵室を有するFRP製漁船で、平成13年2月に二級小型船舶操縦士(5トン限定)免状の交付を受けたB受審人が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.30メートル船尾1.15メートルの喫水をもって、同15年7月12日06時00分郷ノ浦港を発し、同港西方の漁場でイサキ約25匹を釣ったのち、15時ごろ同漁場を発し、機関を全速力前進にかけて16.5ノットの速力で、帰途に就いた。
 ところで、漁栄丸は、全速力で航行すると船首浮上により、操舵室左舷側に設置された操舵用の椅子に腰掛けた姿勢では、前方にその船幅分の死角が生じるため、同室内で立ち上がって天井に設けられた開口部から顔を出すなどして、同死角を補う見張りを行う必要があった。
 B受審人は、漁場発進時から操舵室天井開口部から顔を出して見張りを行いながら手動操舵により進行し、15時24分鎌崎防波堤灯台から253度1.6海里の地点に達したとき、針路を同灯台に向首する073度に定めて続航した。
 定針後、B受審人は、左舷船首方の烏帽子埼沖に自船と同様に郷ノ浦港の東側防波堤入口に向けて自船より遅い速力で進行中のいか釣漁船(以下「第三船」という。)及びその左舷船首方に同入口に向けて同航する漁船各1隻を認めたため、第三船の動向を監視しながら後続し、15時29分鎌崎防波堤灯台から253度410メートルの地点で、同船とほぼ並航する態勢となったため、同船の船尾方を航過してその左舷側を追い越すことができるよう、針路を同防波堤入口のほぼ中央部に向首する066度に転じた。
 ところで、B受審人は、長年、郷ノ浦港を根拠地として漁業に従事しており、同港を出入港する定期旅客船の運航模様もよく分かっており、15時過ぎにはヴィーナスなどが同港を発航することを知っていた。
 転針したときB受審人は、東側防波堤入口より少し港奥となる正船首方500メートルばかりのところに出航態勢のヴィーナスが存在し、同防波堤入口付近で出会うおそれがある状況であったが、第三船の動向が気になり右舷方を見ていて、前路の見張りを十分に行わなかったので、ヴィーナスの存在に気付かず、行きあしを止めるなどして防波堤の外で同船の進路を避けないまま続航した。
 その後、B受審人は、第三船が後方に替わったことや東側防波堤入口に向首したこと、また、発進時から立っていて疲れを感じてきたことから、椅子に腰を掛け、依然、船首の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、ヴィーナスに気付かないまま進行中、15時29分半わずか過ぎ同船が行った警告信号を聞き、立ち上がって船首方を見たとき、間近に迫ったヴィーナスを初めて認め、15時30分少し前右舵一杯をとったが及ばず、漁栄丸は、原速力のまま134度を向首したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、ヴィーナスは船首部に塗装剥離や小凹損を生じ、漁栄丸は左舷船首部の波切板が破損するとともに船首甲板の損壊を生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、郷ノ浦港において、出航するヴィーナスと入航する漁栄丸とが、防波堤の入口又は入口付近で出会うおそれがあった際、漁栄丸が、見張り不十分で、防波堤の外でヴィーナスの進路を避けなかったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、郷ノ浦港において、防波堤の入口に向け入航する場合、防波堤の内側から出航するヴィーナスを見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、同航中の第三船の動向が気になり右舷方を見ていて、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、ヴィーナスに気付かず、防波堤の外で行きあしを止めるなどして同船の進路を避けずに進行して衝突を招き、ヴィーナスに船首部の小凹損などを、漁栄丸に船首甲板の損壊などをそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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