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平成16年門審第38号
件名

貨物船ヅェハイ108貨物船チンツァン2衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月5日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清、清重隆彦、寺戸和夫)

理事官
黒田敏幸

指定海難関係人
A 職名:ヅェハイ108一等航海士

損害
ヅェハイ108・・・船首部を圧壊
チンツァン2・・・右舷船尾部外板及び同部居住区を圧壊

原因
ヅェハイ108・・・動静監視不十分、船員の常務不遵守(前路に進出)

主文

 本件衝突は、ヅェハイ108が、動静監視不十分で、チンツァン2の前路に進出したことによって発生したものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月15日04時11分
 関門海峡西口六連島西水路
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船ヅェハイ108 貨物船チンツァン2
国際総トン数 4,083トン 3,984トン
全長 98.50メートル 107.20メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,160キロワット 2,205キロワット

3 事実の経過
 ヅェハイ108(浙海108、以下「浙海号」という。)は、中華人民共和国遼寧省大連港と大阪、神戸両港との間を2週間で1航海の定期コンテナ貨物輸送に従事し、2機2軸2舵を有する船尾船橋型の鋼製貨物船で、同共和国の国籍を有するA指定海難関係人及び船長Bほか同国籍の19人が乗り組み、コンテナ貨物2,565トンを積み、船首4.6メートル船尾5.7メートルの喫水をもって、平成16年1月12日19時30分大連港を発し、対馬海峡東水道、六連島と馬島の西方海域(以下「六連島西水路」という。)及び関門海峡をそれぞれ経由することとして神戸港に向かった。
 ところで、浙海号は、船橋当直体制として、00時から04時まで及び12時から16時までを二等航海士が、04時から08時まで及び16時から20時までをA指定海難関係人が、08時から12時まで及び20時から24時までを三等航海士がそれぞれ受け持ち、外洋航行時には各直に甲板部員1人を、内海航行時には同部員2人をそれぞれ配する4時間3直制が採られ、B船長が入出港時、視界制限時、狭水道通航時のほか必要に応じ、昇橋して操船指揮を執っていた。なお、同船長は、同月1日に浙海号に乗船し、これまでに関門海峡の通航経験が5回であった。
 越えて同月15日03時45分A指定海難関係人は、北九州市小倉北区藍島北方で昇橋し、法定灯火の表示を確認して二等航海士から当直を引き継ぎ、自ら操船指揮を執って甲板部員2人を操舵と機関室への連絡とにそれぞれ当たらせ、このころ関門航路入航後の同指揮を執るために昇橋したB船長とともに、六連島西水路に向けて東行した。
 03時49分A指定海難関係人は、六連島灯台から335.5度(真方位、以下同じ。)2.39海里の地点で、針路を190度に定め、機関を港内全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して9.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、操舵室左右両舷側に設置されたレーダーのレンジをそれぞれ1.5海里及び3海里として時々監視しながら、六連島西水路を手動操舵によって進行した。
 04時01分A指定海難関係人は、六連島灯台から286度1.36海里の地点に達したとき、右舷船尾8度800メートルのところに、チンツァン2(晴川2、以下「晴川号」という。)が表示する白、白、紅、緑4灯を初めて認めたが、同船が関門第2航路に向かう船舶であり、自船に後続して同じ針路模様で航行するものと思い、引き続き晴川号に対する動静監視を十分に行わないまま、操舵室前面の右舷側に自らが、左舷側にB船長がそれぞれ立ち、前路の見張りに当たって続航した。
 04時05分A指定海難関係人は、六連島灯台から261.5度1.43海里の地点に達したとき、針路を180度に転じ、同じ速力で進行した。また、同時06分同指定海難関係人は、関門海峡海上交通センター(以下「関門マーチス」という。)に、AS(藍島南)通報ラインの通過時刻等をVHF電話によって通報した。
 04時08分A指定海難関係人は、六連島灯台から245度1.56海里で、六連島西水路第5号灯浮標(以下「六連西5号灯浮標」という。)に並航する少し手前の地点に至ったとき、晴川号が、左舷船尾27度500メートルのところに接近していることを認め得る状況であったが、動静監視を十分に行っていなかったので、同船に気付かないまま、大瀬戸第1号導灯(前灯)及び同導灯(後灯)で明示される141度の針路線上に乗せて関門第2航路に入航するように、少しずつ左転することとして針路を160度に転じ、折からの潮流に抗して8.5ノットの速力で進行した。
 04時09分A指定海難関係人は、六連島灯台から240度1.58海里の地点で、六連西5号灯浮標に並航したとき、晴川号を、左舷船尾36度440メートルのところに視認することができる状況であったが、前示導灯の重視状況を目視で確認することに気をとられ、レーダー画面を見なかったこともあって、依然、同船の接近模様に気付かないまま、左舵10度を令し、ゆっくり左回頭しながら続航した。
 04時09分半A指定海難関係人は、左回頭しながら六連島灯台から238度1.58海里の地点に差し掛かり、船首が145度に向いたとき、左舷正横後40度370メートルのところに、晴川号の白、白、緑3灯を再び認め、同船が初認時と同じような距離を保って自船に後続してくると思っていたところ、左舷側間近に接近していることを知って驚き、舵を中央に戻すように令することを失念し、その後も左舵10度のまま、晴川号の前路に進出する態勢で左回頭を続けた。
 04時10分B船長は、晴川号が至近に接近していることを初めて知り、衝突の危険を感じ、急いで右舵一杯、機関を全速力後進に命じたが、時すでに遅く、04時11分浙海号は、船橋が六連島灯台から234度1.54海里の地点に位置し、船首が035度を向いて5.0ノットの速力になったとき、同灯台から235度1.49海里の地点において、その船首が、晴川号の右舷船尾部に後方から75度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力4の北風が吹き、潮候は下げ潮の中央期に当たり、視界は良好で、衝突地点付近には微弱な北西向きの潮流があった。
 また、晴川号は、中華人民共和国と本邦との間において、鉱石、雑貨、鋼材等を3箇月で5航海の定期輸送に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、同共和国の国籍を有する船長Cほか同国籍の22人が乗り組み、ばら積みのドロマイト4,602トンを積み、船首6.3メートル船尾6.7メートルの喫水をもって、同月12日12時00分同共和国張家港(ツアンジャガン)を発し、水深が浅いために揚子江河口の長江口で約5時間潮待ちののち、壱岐水道、玄界灘、六連島西水路及び関門海峡をそれぞれ経由することとして岡山県水島港に向かった。
 ところで、晴川号は、船橋当直体制として、00時から04時まで及び12時から16時までを二等航海士が、04時から08時まで及び16時から20時までを一等航海士が、08時から12時まで及び20時から24時までを三等航海士がそれぞれ受け持ち、各直に甲板部員1人を、更に一等航海士には実習生1人をそれぞれ配する4時間3直制が採られ、C船長が入出港時、視界制限時、狭水道通航時、船舶輻輳時のほか必要に応じ、昇橋して操船指揮を執っていた。なお、同船長は、船長経験が8年で、これまでに何回も船長として夜間航海も含む関門航路通航経験があり、関門海峡の水路事情についてはよく知っていた。
 越えて同月15日03時30分C船長は、藍島北西方で関門海峡通峡に備えて昇橋し、同時40分二等航海士から操船を引き継ぎ、自ら操舵室前面左舷側に立って指揮を執り、このときに当直のために昇橋した一等航海士を同右舷側で見張りに、二等航海士を3海里レンジとした同室右舷側に設置されたレーダーによる見張り、VHF電話連絡及びテレグラフ操作に、甲板部員を操舵に、及び実習生を見学にそれぞれ当たらせ、法定灯火を表示し、六連島西水路に向けて東行した。
 03時56分半C船長は、六連島灯台から323.5度2.04海里の地点で、針路を185度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して11.0ノットの速力で、左舷船首方1,100メートルのところに同航中の浙海号の船尾灯を見ながら、六連島西水路を手動操舵によって進行した。
 04時01分C船長は、六連島灯台から302度1.52海里の地点に差し掛かり、左舷船首2度800メートルのところに浙海号の船尾灯を認めるようになったとき、針路を180度に転じ、折からの潮流に抗して10.5ノットの速力で続航した。
 04時08分C船長は、六連島灯台から252度1.36海里の地点に至り、浙海号を右舷船首27度500メートルのところに認めるようになったとき、同船が左転を始めたことによって減速したように見えたことから、同船との距離を保つように機関を半速力前進に減じ、折からの潮流に抗して9.0ノットの速力で、同じ針路のまま進行した。同時09分二等航海士は、関門マーチスに、AS(藍島南)通報ラインの通過時刻等をVHF電話によって通報した。
 04時09分半C船長は、六連島灯台から243.5度1.44海里の地点に達し、左回頭中の浙海号が、右舷船首15度370メートルのところに接近したとき、間もなく同船が大瀬戸第1号導灯(前灯)及び同導灯(後灯)で明示される141度の針路線上に乗って左転を終えることから、自船も同針路線上に乗るよう左転を始めることとし、左舵10度を令し、ゆっくり左回頭しながら、折からの潮流に抗して9.5ノットの速力で続航した。
 04時10分C船長は、早めに前示針路線上に乗せるつもりで左舵20度を令して左回頭しながら六連島灯台から240.5度1.47海里の地点に差し掛かり、船首が174度に向いたとき、右舷船首14度240メートルのところに接近した浙海号が、左転を終えるはずのところ、依然、左回頭を続けて自船の前路に進出する態勢で接近するのを認め、衝突の危険を感じ、左舵20度に引き続き左舵一杯を令するとともに、警告信号を繰り返し吹鳴したが、衝突を回避できないと感じ、同時11分少し前船体中央部に衝突されることを避けるために右舵一杯、機関を全速力前進にかけるよう令したものの、及ばず、晴川号は、船首が110度を向いて9.0ノットの速力になったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、浙海号は船首部を、晴川号は右舷船尾部外板及び同部居住区をそれぞれ圧壊したが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、関門海峡西口において、両船が六連島西水路を関門第2航路に向けて南下中、浙海号が、動静監視不十分で、同航路に向かうために左転した際、舵を中央に戻さないまま左回頭を続け、晴川号の前路に進出したことによって発生したものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、夜間、関門海峡西口において、六連島西水路を関門第2航路に向けて南下中、右舷船尾方に初認した晴川号に対する動静監視を十分に行わずに進行し、同航路に向かうために左転した際、同船が左舷側間近に接近していることを知って驚き、舵を中央に戻すように令することを失念し、そのまま左回頭を続けて晴川号の前路に進出したことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告しないが、航行中に他船を認めた際には、その動静を十分に監視するよう努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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