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平成16年門審第51号
件名

貨物船良栄丸防波堤衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月4日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(長谷川峯清)

理事官
黒田敏幸

受審人
A 職名:良栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
良栄丸・・・左舷船首ブルワークに曲損及び球状船首に凹損
沖防波堤・・・コンクリートの欠損

原因
満載状態の運動性能に対する配慮不十分

裁決主文

 本件防波堤衝突は、満載状態の運動性能に対する配慮が十分でなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年12月2日07時35分
 鹿児島県上甑島里港
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船良栄丸
総トン数 129トン
全長 36.87メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 478キロワット

3 事実の経過
 良栄丸は、鹿児島県串木野港と同県甑島列島の里、中甑、鹿島、長浜、手打諸港との間において、毎週3便の生活雑貨定期輸送業務に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、宅配便、ビール、米、軽油、オイル等の生活雑貨57トンを積み、満載喫水をわずかに超える船首1.60メートル船尾2.65メートルの喫水をもって、平成15年12月2日05時30分串木野港を発し、里港に向かった。
 ところで、良栄丸は、平成4年の建造時に行った公試運転において、平均喫水が1.39メートルの状態で、旋回所要時間が左旋回で5度4.17秒、30度11.14秒、90度27.23秒、右旋回で5度3.96秒、30度8.12秒、90度24.38秒、旋回径が左右とも船の長さの1.5倍、及び転舵所要時間が中立から左舵一杯まで7.00秒、左舵一杯から右舵一杯まで12.81秒などの運動性能を有することが確認され、その成績書が船舶所有者に手渡されていた。
 A受審人は、船長として前示各港を結ぶ航路の運航に19年間従事しており、その水路事情に精通していたが、良栄丸の操縦性能については経験的に理解していたものの、公試運転成績書にあたって旋回及び転舵各所要時間などの確認を行っていなかった。
 また、里港は、同県甑島列島の上甑島東岸にあって東方に開口し、北側の東防波堤と南側の南防波堤との間の幅180メートルが出入口になっており、里埼灯台から327.5度(真方位、以下同じ。)1,000メートルの地点から187度方向に平均水面上高さ3.5メートル長さ90メートルで、出入口の東側沖合の南防波堤寄りに築造された沖防波堤と、前示東、南両防波堤とによって港内への波浪の進入が抑えられており、沖、東両防波堤間(以下「北水路」という。)が幅220メートル、沖、南両防波堤間(以下「南水路」という。)が幅125メートルになっていた。A受審人は、里港に入港するときには、各防波堤の海面上の高さが高く、南水路からでは港内の見通しが良くないことから、北水路を利用していた。
 こうして、A受審人は、発航後、里港の沖防波堤の北側に向けて直航し、07時29分半里埼灯台から081度990メートルの地点で、船首を295度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、乗組員を船首尾に各1人の入港配置に就かせ、自ら単独の船橋当直に就き、自動操舵によって進行した。
 07時33分半少し前A受審人は、里埼灯台から355度640メートルの地点に達したとき、沖防波堤北端の北方15メートル付近に至ったら港内に向けて左転するつもりで、手動操舵に切り換えて続航した。
 07時34分半少し前A受審人は、里埼灯台から334.5度870メートルで、沖防波堤北端を左舷船首5度165メートルに認める地点に差し掛かったとき、正船首方間近に浮流物を発見し、急いで左舵一杯として機関を半速力前進に落とし、9.0ノットの速力で、左回頭しながら進行した。
 07時34分半少し過ぎA受審人は、里埼灯台から332度900メートルの地点に達し、船首が270度を向いて沖防波堤北端を右舷船首24度120メートルに認めたとき、浮流物を右方に替わしたことから、同防波堤の手前で右に90度以上回頭していつものように北水路から入港することとしたものの、満載状態で左回頭中に左舵一杯から右舵一杯に転舵すると、その転舵所要時間に加え、左回頭から右回頭に切り替わるまでの時間及び90度以上右回頭するまでに要する時間がそれぞれ長くなり、西方への進出距離が伸びて同防波堤の手前で90度以上の右回頭が困難となり、沖防波堤に著しく接近するおそれのある状況であったが、長年同じ航路の運航に従事していて自船の性能はよく分かっているつもりであるから、沖防波堤の手前で90度以上右回頭ができるものと思い、満載状態の運動性能に対して十分に配慮することなく、このことに気付かず、そのまま左回頭を続けて元の予定針路線上に戻る措置をとるなどの判断ができないまま、左舵一杯から右舵一杯に転舵し、8.0ノットの速力で、左回頭が続く状態で続航した。
 07時35分少し前A受審人は、右舵一杯に転舵して間もなく、船首が沖防波堤南端に向く250度になったときに右回頭が始まったものの、意に反して回頭角速度が遅く、同防波堤に向かって回頭を続けているのを認めて衝突の危険を感じたが、気が動転して何もできずに進行中、07時35分良栄丸は、船橋が里埼灯台から326.5度935メートルの地点に位置し、船首が310度に向いたとき、同灯台から326度960メートルの地点において、原速力のまま、その船首が沖防波堤の中央部東側面に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の北風が吹き、潮候はほぼ低潮時であった。
 その結果、良栄丸は左舷船首ブルワークに曲損及び球状船首に凹損を生じ、沖防波堤はコンクリートの欠損を生じたが、のちそれぞれ修理された。 

(原因)
 本件防波堤衝突は、鹿児島県上甑島里港において、満載状態で入航中、同港沖防波堤の手前に発見した浮流物を避けるために左舵一杯で回頭し、同浮流物を替わし終えた際、同状態の運動性能に対する配慮が不十分で、左舵一杯から右舵一杯に転舵し、進出距離が伸びて同防波堤の手前で回頭しきれず、右回頭しながら同防波堤に向かって進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、鹿児島県上甑島里港において、満載状態で入航中、同港沖防波堤の手前に発見した浮流物を避けるために左舵一杯で回頭し、同浮流物を替わし終えた場合、同防波堤の手前で右に90度以上回頭して元の予定針路線上に戻るために、左回頭中に左舵一杯から右舵一杯に転舵すると、その転舵所要時間に加え、右回頭に切り替わるまでの時間及び90度以上回頭するまでに要する時間がそれぞれ長くなって進出距離が伸び、同防波堤の手前で90度以上の右回頭が困難となる状況であったから、沖防波堤に著しく接近しないよう、満載状態の運動性能に対して十分に配慮するべき注意義務があった。ところが、同受審人は、長年同じ航路の運航に従事していて自船の性能はよく分かっているつもりであるから、沖防波堤の手前で90度以上右回頭ができるものと思い、満載状態の運動性能に対して十分に配慮しなかった職務上の過失により、このことに気付かず、左舵一杯から右舵一杯に転舵し、同防波堤に向かって右回頭しながら進行して衝突を招き、良栄丸の左舷船首ブルワークに曲損及び球状船首に凹損を、沖防波堤のコンクリートに欠損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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