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平成16年広審第53号
件名

漁船金比羅丸貨物船ティンバー マジェスティック衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月31日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、高橋昭雄、吉川 進)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:金比羅丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
金比羅丸・・・船尾部を損壊、船長が腰椎捻挫等及び甲板員が頚椎捻挫等の負傷
テ号・・・船首部外板に擦過傷

原因
テ号・・・見張り不十分、追越し船の航法(避航動作)不遵守(主因)
金比羅丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、追越し船の航法(協力動作)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、金比羅丸を追い越すティンバー マジェスティックが、見張り不十分で、金比羅丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金比羅丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月6日12時43分
 愛媛県今治港東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船金比羅丸 貨物船ティンバー マジェスティック
総トン数 4.99トン 5,543トン
全長 16.6メートル 97.55メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   3,236キロワット
漁船法馬力数 15  

3 事実の経過
 金比羅丸は、底引き網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和50年7月一級小型船舶操縦士(5トン限定)免許取得)及び息子の甲板員Bが乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年2月6日11時25分愛媛県今治港を発し、同港東方沖合の漁場に向かった。
 ところで、金比羅丸が操業する今治港東方沖合の漁場は、来島海峡航路東口に設置された同航路第8号灯浮標の南方約300メートル付近から愛媛県比岐島南方沖合までの東西約4海里にわたる海域で、同東口と同県東部の新居浜港などとを結ぶ航路となっていた。
 A受審人は、来島海峡航路第8号灯浮標の南方約300メートル付近の漁場西端に至り、船尾から漁網を投入したのち、これに連結した長さ215メートルのえい網索を延出し、所定の漁ろうに従事していることを示す形象物を表示しないまま、11時40分比岐島南方沖合に向けてえい網しながら東行を始めた。
 東行を始めたとき、A受審人は、来島海峡航路東口を東西に出入りする数隻の船舶と数隻の同業船のほか周囲に他船を認めず、操舵室の椅子に座って前方を見ながら手動操舵にあたり、その後約15分毎にえい網索の状態を確かめるために振り返って東行を続け、B甲板員は同室の床に座り目を閉じてえい網終了まで待機した。
 12時30分A受審人は、比岐島灯台から271度(真方位、以下同じ。)1.2海里の地点で、針路を同島南方沖合に向く127度に定め、機関を回転数毎分2,500にかけ、折からの順流に乗じて2.7ノット(対地速力、以下同じ。)のえい網速力で手動操舵により進行した。
 ところが、12時38分A受審人は、比岐島灯台から257度1,670メートルの地点に達したとき、左舷船尾14度1.2海里のところに東行するティンバー マジェスティック(以下「テ号」という。)を視認し得る状況であったが、約15分毎にえい網索の状態を確かめるために振り返るだけで、後方の見張りを十分に行わなかったので、テ号が自船を追い越す態勢で接近する状況に気付かないまま進行した。
 A受審人は、その後テ号が自船の進路を避けないまま接近したが、依然見張り不十分でこれに気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、さらに間近に接近したとき機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもないまま続航し、12時43分わずか前えい網索の状態を確かめようと後方を振り返ったところ、至近に迫ったテ号を初めて視認し、左舵10度をとったが効なく、12時43分比岐島灯台から244度1,460メートルの地点において、金比羅丸は、原針路原速力のまま、その船尾にテ号の船首が後方から12度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、付近には2.4ノットの南東流があった。
 B甲板員は、衝突したあとも続航する同船の船尾に書かれた船名を読み、携帯電話で海上保安部に通報した。
 また、テ号は、船尾船橋型貨物船で、船長Cほか17人が乗り組み、空船で、船首2.0メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成15年2月4日09時00分(日本時刻)中華人民共和国常熟港を発し、愛媛県新居浜港に向かった。
 ところで、テ号は、上甲板船首尾線上の船首部及び船体中央部やや前方にデリックポストを設備しており、船体中央部やや前方のデリックポストには甲板上高さ約7.3メートルのところにウインチ操作台が左右両舷に張り出すように設けられ、空船時、船橋前部中央にあるレピータコンパスの後方に立って船首方を見ると、同操作台がほぼ水平線付近となり、これらの荷役設備によって正船首から各舷約4度の範囲がほとんど死角となっていた。
 C船長は、船橋当直を航海士と操舵手による2人体制で4時間交替の3直制として、関門海峡を経て瀬戸内海に至り、周防灘、伊予灘及び安芸灘を東行し、越えて6日11時47分来島海峡航路西口の少し手前で、来島海峡海上交通センターに位置通報を行ったのち操船指揮をとり、三等航海士を船位測定に操舵手を操舵にあたらせ、すぐに当直交替時刻となって二等航海士と次の操舵手とがそれぞれ前直者から引き継ぎ、南流に乗じて中水道を通航し、同航路東口のほぼ中央から来島海峡航路を出た。
 来島海峡航路を出たとき、C船長は、前路をいちべつして比岐島南方沖合に他船を認めず、徐々に右転して、12時33分比岐島灯台から305度3.1海里の地点で、針路を比岐島と愛媛県平市島との間に向く139度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの順流に乗じて16.7ノットの速力で進行した。
 C船長は、船橋前部中央にあるレピータコンパスの後方に立って見張りと操船指揮にあたり、12時38分比岐島灯台から294度1.8海里の地点に達したとき、右舷船首2度1.2海里のところに金比羅丸を視認し得る状況であったが、定針するときいちべつして他船を認めなかったことから、前路に他船はいないと思い、船橋ウイングに出るなどして甲板上の荷役設備による船首方の死角を補う見張りを十分に行わなかったので、金比羅丸の存在に気付かないまま続航した。
 C船長は、その後金比羅丸を追い越す態勢で接近したが、依然見張り不十分でこのことに気付かず、同船を確実に追い越し、かつ、十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行中、テ号は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 C船長は、衝突したことに気付かないまま続航して新居浜港に入港したところ、捜索中の巡視艇に発見されて前示衝突を知らされた。
 衝突の結果、金比羅丸は船尾部を損壊したが、のち修理され、テ号は船首部外板に擦過傷を生じた。また、A受審人が腰椎捻挫等を、B甲板員が頚椎捻挫等をそれぞれ負った。 

(原因)
 本件衝突は、愛媛県今治港東方沖合において、金比羅丸を追い越すテ号が、見張り不十分で、金比羅丸の進路を避けなかったことによって発生したが、金比羅丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、愛媛県今治港東方沖合において、底引き網をえい網しながら東行する場合、同沖合は来島海峡航路東口に近接し、同東口と同県東部の新居浜港などとを結ぶ航路であったから、後方から接近する他船を見落とすことのないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、約15分毎にえい網索の状態を確かめるために振り返るだけで、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、自船を追い越す態勢のテ号が自船の進路を避けないまま接近することに気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、さらに間近に接近したとき機関を停止するなど衝突を避けるための協力動作をとることもないまま進行してテ号との衝突を招き、金比羅丸の船尾部に損壊を、テ号の船首部外板に擦過傷をそれぞれ生じさせ、また、自身が腰椎捻挫等を、B甲板員が頚椎捻挫等をそれぞれ負う事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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