(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月3日02時08分
来島海峡航路
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船カレッジアス エース |
漁船フ ユエン ユ エフ38 |
総トン数 |
56,439トン |
608トン |
全長 |
198メートル |
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登録長 |
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52.0メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
14,159キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
カレッジアス エース(以下「カ号」という。)は、船首船橋型の自動車運搬船で、C船長ほかインド人船員4人及びフィリピン共和国人船員16人が乗り組み、車両など5,618トンを積載し、船首8.40メートル船尾8.80メートルの喫水をもって、平成15年11月2日16時05分大阪港堺泉北区を発し、来島海峡経由予定で福岡県苅田港に向かった。
17時45分A受審人は、和田岬沖合において、交替で水先に当たる他の水先人とともにカ号に乗船し、21時45分から来島海峡を通過し終えるまでの予定で、所定の灯火を表示してカ号のきょう導にあたり、翌3日01時30分ごろ船長が在橋する状況で来島海峡航路に入り、当直の航海士を操船補佐に、甲板手を操舵にそれぞれ就け、折から南流時であったので西水道を通過した。
A受審人は、小島を左舷側に見て左転し、01時54分桴磯灯標から101度(真方位、以下同じ。)2.4海里の地点において、針路をできる限り四国側に近寄って航行する302度に定め、機関を全速力前進に増速し、潮流に抗し13.3ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
02時00分A受審人は、桴磯灯標から079度1.3海里の地点に達したとき、左舷船首23度2.5海里のところに、自船に向首中のフ ユエン ユ エフ38(以下「フ号」という。)が表示したマスト灯と両舷灯を視認できる状況となったが、追い越そうとする左舷前方の速力が遅い同航船と、船首方から右舷方にかけ連続して出現する東航船に気をとられ、航海士をレーダー監視に就けるなど、左舷船首方の見張りを十分に行わず、フ号の存在に気付かなかった。
02時03分A受審人は、桴磯灯標から050度1,700メートルの地点に達し、フ号が左舷船首30度1.6海里になっていたとき、依然見張り不十分で、同船ができる限り大下島側に近寄らないで来島海峡航路に入ろうとしていることにも、その後、同航路に入った同船と衝突のおそれがある態勢で接近していることにも気付かなかったので、警告信号を行うことなく、同時04分左舵を少しとり、同航路西口に向け左転を開始した。
02時05分左転中のA受審人は、船首方1.0海里のところに、フ号の両舷灯を初めて視認し、間もなく左舷灯のみを認めるようになり、同船が右転中で衝突の危険を感じたが、直ちに減速して更に四国側に近寄るなど、衝突を避けるための協力動作をとることなく、汽笛と発光信号で注意を喚起したものの、大下島側に近寄って航行する気配が認められず、同時06分汽笛で短音を連吹して左舵20度をとり、機関を微速力前進に減速し、続いて左舵一杯として機関を全速力後進としたが及ばず、02時08分桴磯灯標から340度1,500メートルの地点において、カ号は、230度に向首し、10.0ノットの速力になったとき、その船首部が、フ号の左舷側中央部に、前方から60度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、潮候は上げ潮の中央期にあたり、付近には微弱な東流があった。
また、フ号は、船尾船橋型の活魚運搬船で、B指定海難関係人ほか中華人民共和国人船員12人が乗り組み、2003年10月28日08時28分(現地時刻、以下、日本標準時とする。)中華人民共和国大連港を発し、渤海湾で一昼夜仮泊して鮮魚12.3トンを積載し、船首2.80メートル船尾4.20メートルの喫水をもって、来島海峡経由予定で神戸港に向かった。
ところで、B指定海難関係人は、1982年船長に昇格し、2001年中華人民共和国が発行した水産品を運搬する500トンから3,000トンまでの船舶の船長免許を受有し、主として中華人民共和国と大韓民国間の航海に従事していたところ、日本への航海は3回目にあたり、航程を短縮するため初めて瀬戸内海を航行することとしたものの、海上交通安全法などの航法に関する知識がなかった。
越えて11月3日00時15分B指定海難関係人は、安芸灘で昇橋して所定の灯火が表示されていることを確認し、一等航海士と甲板手を見張りに、二等航海士を操舵にそれぞれ就け、GPSを頼りに操船の指揮に当たって東航し、来島海峡西口に接近した01時51分桴磯灯標から266度1.7海里の地点において、針路を024度に定め、機関を半速力前進に減速し、潮流に乗じ6.5ノットの速力で、手動操舵により進行した。
01時57分B指定海難関係人は、桴磯灯標から289度1.5海里の地点に達したとき、右舷船首76度3.3海里のところに、カ号が表示した白、白、紅3灯を初めて視認し、同船に向首するよう右転を始め、同時58分機関を微速力前進とし、4.8ノットの速力で続航した。
02時00分B指定海難関係人は、カ号をほぼ正船首方に見るようになって舵を中央に戻し、同時01分同船をほぼ船首方に見るよう少し左舵をとり、同時02分機関を全速力前進にかけ8.6ノットの速力としたところ、同時03分桴磯灯標から306度1.1海里の地点から053度の針路で、できる限り大下島側に近寄ることなく来島海峡航路に入る状況となり、その後、カ号と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付いたが、左転して大下島側に近寄るなど、同航路をこれに沿って航行している同船の進路を避けることなく、再び右転を命じた。
02時06分右転中のB指定海難関係人は、ほぼ船首方となったカ号が左転していることを知ったものの、直ちに機関を停止しないで右転を続け、至近になって衝突の危険を感じ機関を停止したが、フ号は、110度に向首したとき、ほぼ原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、カ号は、球状船首部外板に凹損と擦過傷を、フ号は、左舷中央部外板に破口等をそれぞれ生じた。
(原因等の考察)
本件は、夜間、南流時の来島海峡航路において、西航するカ号と東航するフ号とが衝突したものであるが、以下、原因等について考察する。
フ号は、事実の経過中に示したとおり、航路に入航してから衝突するまで、できる限り大下島側に近寄って航行していなかったので、海上交通安全法第20条第1項第2号に違反していることになる。
この場合、できる限り大下島側に近寄って航行していない船舶は、航路をこれに沿って航行している船舶とは認められず、航路をこれに沿って航行している他の船舶と衝突のおそれがあるときは、当該他の船舶の進路を避ける義務が生じることとなる。しかるに、カ号ができる限り四国側に近寄って航行しており、衝突のおそれがあったのであるから、フ号がカ号の進路を避けなかったことは、海上交通安全法第3条第1項に違反していることになるので、フ号に主たる原因がある。
ところで、これらの航法規定違反が生じた背景として、B指定海難関係人が、船長免許を所持していたものの、海上交通安全法などの航法に関する知識がなかったことは、誠に遺憾で、厳に慎むべきものであり、今後国際航海に従事する際には、船長として、寄港国の国内法を含めた諸法規に精通し、これを遵守することを自覚すべきである。
一方、カ号は、事実の経過中に示したとおり、航路に入航してから衝突するまで、できる限り四国側に近寄って航行していたものである。
しかし、A受審人は、追い越そうとする左舷前方の速力が遅い同航船と、船首方から右舷方にかけ連続して出現する東航船に気をとられ、レーダー情報の提供を航海士に求めるなど、その時の状況に適した他のすべての手段を利用して見張りに当たらなかったことから、フ号を特定できたのが衝突の3分前で、同船まで約1海里に接近したときであった。
このことは、B指定海難関係人のカ号初認模様やカ号の最短停止距離からしても、見張り不十分の指摘を免れることはできず、その結果、適切な時期に警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもできずに衝突に至ったものであるから、カ号に一因がある。
(原因)
本件衝突は、夜間、南流時の来島海峡航路において、東航するフ号が、できる限り大下島側に近寄って航行しなかったばかりか、同航路をこれに沿って航行しているカ号の進路を避けなかったことによって発生したが、西航するカ号が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、カ号のきょう導にあたり、南流時の来島海峡航路をこれに沿って西航する場合、同航路西口付近を航法に従わないで航行するフ号を見落とさないよう、航海士をレーダー監視に就けるなど、左舷船首方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、追い越そうとする左舷前方の速力が遅い同航船と、船首方から右舷方にかけ連続して出現する東航船に気をとられ、左舷船首方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、フ号の存在に気付かず、同航路をこれに沿って航行していない同船に対し、警告信号を行うことも、直ちに減速して更に四国側に近寄るなど、衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行してフ号との衝突を招き、カ号の球状船首部外板に凹損と擦過傷を、フ号の左舷中央部外板に破口等をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、南流時の来島海峡航路を東航する際、できる限り大下島側に近寄って航行しなかったこと及び同航路をこれに沿って西航しているカ号と衝突するおそれがあった際、カ号の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。