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平成16年広審第54号
件名

貨物船神栄丸かき養殖筏衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
蓮池 力

受審人
A 職名:神栄丸機関長 海技免許:五級海技士(航海)(履歴限定)

損害
かき筏・・・全損
神栄丸・・・損傷ない

原因
見張り不十分

裁決主文

 本件かき養殖筏衝突は、レーダーによる見張りが十分に行われなかったことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月22日23時00分
 広島県倉橋町奥ノ内湾
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船神栄丸
総トン数 199トン
登録長 55.08メートル
機関の種類 ディーゼル機関
出力 551キロワット

3 事実の経過
 神栄丸は、船尾船橋型鋼製貨物船で、A受審人と船長Bとの2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.60メートル船尾2.60メートルの喫水をもって、平成15年9月22日16時00分岡山県水島港を発し、自宅のある広島県倉橋島奥ノ内に向かった。
 ところで、倉橋島奥ノ内は、当時広島県広島港と兵庫県姫路港並びに山口県宇部及び小野田両港間のスクラップ輸送に当たって基地としていたところで、倉橋島北東部に位置し東方に開口した南西方に長さ約2.5海里奥入った湾で、湾奥には地元船主組合専用の浮き桟橋が設けられていた。湾内には多数のかき養殖筏が設置され、湾の中央部付近に幅が約500メートルで南西方に向かって湾口から約1,200メートルのところで南方に約400メートル屈曲し再び南西方に延びた水路(以下「水路」という。)が形成されていた。
 A受審人は、運航に当たって船橋当直を甲板の海技免許しか有しないB船長との単独3時間2直制で行い、自らは甲機いずれの海技免許をも受有して長年船長や機関長の経験を有していたので、出入航や狭水道等の操船も行うようにしていた。そして、基地としていた前示桟橋への入航着桟に際しては、同船長には船首尾の係船索の巻き出し等の着桟準備作業を行わせ、自らが操舵操船に当たり、夜間の入航時にはかき養殖筏と水路要所にあたる筏に取り付られた標識の赤色点滅灯(以下「標識灯」という。)とレーダー等を活用して水路を見定めるようにし、特に水路屈曲部を入航するときにはレーダースコープ上に明確に映るかき養殖筏の映像によって水路を確かめ得ることを知っていた。
 水島港出航後、A受審人は、適宜B船長と船橋当直を交替しながら三原瀬戸を経て西行し、22時ころ広島県猫瀬戸東口付近で交替してその後の船橋当直に就き、機関を全速力にかけて倉橋島奥ノ内に向かった。
 22時50分A受審人は、倉橋島奥ノ内湾東口にあたる情島127メートル頂(以下、単に「情島頂」という。)から022度(真方位、以下同じ。)1,400メートルの地点に至り、針路を水路に沿う247度に定め、機関を全速力にかけたまま11.5ノットの速力で同湾奥の専用浮き桟橋に着桟する予定で進行した。
 ところが、A受審人は、水路屈曲部に近づき水路に沿って南方に向け転針する際に、筏に取り付けられた他の標識灯と見間違えるなどして水路から逸れることのないようにレーダーによる見張りを十分に行わなかったので、転針目標とした水路左側端にあたる同屈曲部東側かき養殖筏北西端の標識灯を同水路右側端にあたる同屈曲部西側筏南東端の標識灯と見間違えて続航した。
 こうして、22時59分半A受審人は、情島頂から267度2,650メートルの地点に至り、左舷船首60度200メートルに水路屈曲部西側の筏南東端の前示標識灯を認めるようになり、依然としてこれを転針目標としていた東側のそれと見間違ったまま同灯を左舷側に航過して南方に屈曲した水路に沿うつもりで、針路を215度に転じたところ、水路屈曲部西側の養殖筏に向首するようになり、これに気付かないまま進行し、23時00分情島頂から263度2,700メートルの地点において、西側かき養殖筏に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 かき養殖筏衝突の結果、当該かき筏を全損したが、神栄丸は船体等にほとんど損傷を生じなかった。 

(原因)
 本件かき養殖筏衝突は、夜間、広島県倉橋島奥ノ内湾において、同湾奥の専用浮き桟橋に着桟予定で湾内のかき養殖筏で形成された屈曲した水路を入航する際、レーダーによる見張り不十分で、かき養殖筏の標識灯を見間違えて水路から逸れ筏に向いたまま進行したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、広島県倉橋島奥ノ内湾において、同湾奥の専用浮き桟橋に着桟予定で湾内のかき養殖筏で形成された屈曲した水路を入航する場合、筏に取り付けられた標識灯を見間違えるなどして水路から逸れることのないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、それまで多数回にわたる自宅に近い同湾奥に位置した桟橋への入航着桟で同水路を通り慣れしかも視界も良好であったので、標識灯等の目視に頼って水路を見定めようとし、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同標識灯を見間違えて予定の転針が行われず、水路から逸れたまま進行して、かき養殖筏への衝突を招き、神栄丸の船体等にはほとんど損傷を生じなかったものの、当該かき養殖筏を全損させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。





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