(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月10日03時25分
備讃瀬戸東航路
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船興明丸 |
貨物船メリー スター |
総トン数 |
2,691トン |
3,997トン |
全長 |
99.99メートル |
107.02メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
2,942キロワット |
3,353キロワット |
3 事実の経過
興明丸は、船尾船橋型の油タンカーで、A受審人ほか10人が乗り組み、空倉のまま、海水バラスト約1,100トンを張り、船首2.13メートル船尾4.43メートルの喫水をもって、平成15年3月9日20時35分和歌山県和歌山下津港を発し、岡山県水島港に向かった。
翌10日02時00分A受審人は、香川県小豆島南方で昇橋し、所定の灯火が表示されているのを確認して操船指揮に当たり、二等航海士を操船補佐に、甲板員を操舵にそれぞれ就け、同時10分備讃瀬戸東航路に入り、同航路を西航した。
03時12分半A受審人は、小槌島灯台から061度(真方位、以下同じ。)2.5海里の地点において、針路を航路に沿う257度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗し11.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵により進行した。
03時19分A受審人は、備讃瀬戸東航路中央第2号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「備讃瀬戸東航路」を省略する。)を左舷側至近に航過し、小槌島灯台から046度1.3海里の地点に達したとき、左舷船首9度2.3海里のところに、東航中のメリー スター(以下「メ号」という。)が表示した白、白、緑3灯を初めて視認したが、このころ右舷前方0.5海里ばかりを先航する速力の遅い同航船(以下「第3船」という。)に注意を集中して続航した。
03時21分半A受審人は、第1号灯浮標を右舷正横に見る、小槌島灯台から033度1,800メートルの地点に達したとき、針路を航路に沿い、かつ、中央第1号灯浮標に向首する247度に転じたところ、ほぼ正船首1.4海里のところにメ号の両舷灯を視認できる状況になり、その後航路をこれに沿って航行していない同船と衝突のおそれがある態勢で接近したが、初認したとき灯火の見え具合から前路を右方に替わるものと思い、動静監視を十分に行わず、このことに気付かなかったので、警告信号を行うことも、減速して右転するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもしないまま進行した。
03時24分半A受審人は、ふと視線を船首方に転じたとき、同方至近のところに、メ号のマスト灯と両舷灯を認め、衝突の危険を感じて右舵一杯を令したが及ばず、03時25分小槌島灯台から345度1,020メートルの地点において、興明丸は、340度に向首したとき、原速力のまま、その左舷船尾部に、メ号の左舷船首部が、前方から25度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北東風が吹き、潮候はほぼ高潮時で、付近には微弱な東流があった。
また、メ号は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、指定海難関係人Bほか大韓民国人船員10人と中華人民共和国人船員2人が乗り組み、コンテナ178個を積載し、船首4.50メートル船尾6.20メートルの喫水をもって、平成15年3月9日06時10分大韓民国釜山港を発し、瀬戸内海経由で大阪港に向かった。
翌10日00時00分B指定海難関係人は、所定の灯火が表示されているのを確認し、甲板手とともに船橋当直に就き、船長の指揮で備讃瀬戸南航路を東航し、瀬戸大橋を通過したところで船長が降橋したのち、03時05分小瀬居島灯台から341度600メートルの地点において、針路を航路に沿う069度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に乗じ11.4ノットの速力で、手動操舵により進行した。
03時09分少し過ぎB指定海難関係人は、小瀬居島灯台から048度1,650メートルの地点で、同航船を避けるため針路を064度に転じ、同時20分半航路の中央付近に当たる、小槌島灯台から281度1,780メートルの地点に達し、いったん針路を航路に沿う070度に戻したとき、左舷船首2度1.7海里のところに西航中の興明丸と、その左方に第3船を初めて認め、両船の間隔が開いているように感じたことから、第3船を替わしてから左転し、興明丸と右舷を対して航過するつもりで、直ちに針路を066度に転じ、航路の中央から左の部分に向け航路をこれに沿わないで続航した。
03時21分半B指定海難関係人は、航路のほぼ中央に当たる、小槌島灯台から290度1,500メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首1.4海里のところに興明丸の両舷灯を視認し、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近しているのを知ったが、直ちに右転して航路の中央から右の部分を航行するなど、航路をこれに沿って航行している興明丸の進路を避けることなく進行した。
03時24分半B指定海難関係人は、第3船を左舷方100メートルばかりに替わし、予定どおり左転を始めたとき、船首方至近に迫っていた興明丸が右転していることを認め、あわてて右舵一杯を令したが及ばず、メ号は、135度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、興明丸は、左舷船尾部外板に破口を伴う損傷などを生じたが、のち修理され、メ号は、左舷船首部外板に凹傷などを生じた。
(原因)
本件衝突は、夜間、備讃瀬戸東航路において、航路をこれに沿わないで航行しているメ号が、航路をこれに沿って航行している興明丸の進路を避けなかったことによって発生したが、興明丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、夜間、備讃瀬戸東航路において、航路をこれに沿って西航中、左舷船首方に東航中のメ号の白、白、緑3灯を視認した場合、衝突のおそれの有無を判断できるよう、その動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、灯火の見え具合から前路を右方に替わるものと思い、メ号に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、メ号と衝突のおそれがある態勢で接近していることに気付かず、警告信号を行うことも、減速して右転するなど、衝突を避けるための協力動作をとることもせずに進行して衝突を招き、興明丸の左舷船尾部外板に破口を伴う損傷などを、メ号の左舷船首部外板に凹傷などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、夜間、備讃瀬戸東航路において、航路をこれに沿わずに東航中、西航中の興明丸と衝突のおそれがある態勢で接近しているのを知った際、航路をこれに沿って航行している興明丸の進路を避けなかったことは本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては、勧告しない。
よって主文のとおり裁決する。