(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月23日19時32分
備讃瀬戸東航路
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船阿州 |
漁船八幡丸 |
総トン数 |
690トン |
4.9トン |
全長 |
79.20メートル |
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登録長 |
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12.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
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漁船法馬力数 |
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15 |
3 事実の経過
阿州は、鋼材や建設残土の輸送に従事する船尾船橋型貨物船兼砂利運搬船で、A受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,935トンを載せ、船首4.0メートル船尾5.5メートルの喫水をもって、平成15年10月23日16時50分広島県福山港を発し、宮城県仙台塩釜港に向かった。
A受審人は、船橋当直を自らを含む乗組員3人による4時間交替3直制とし、出港操船に続いて単独の船橋当直にあたり、日没後は航行中の動力船の灯火を表示し、岡山県の本州南岸寄りの瀬戸内海を東行したのち大槌島と小槌島との間を通って備讃瀬戸東航路(以下「東航路」という。)に入り、19時19分少し過ぎ小槌島灯台から040度(真方位、以下同じ。)1,050メートルの地点に達したとき、針路を同航路に沿う077度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけ、折からの潮流に抗して11.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
A受審人は、操舵室左舷側に設置したレーダーを使用したり、同室を左右に移動するなどして見張りにあたり、19時23分半右舷前方に宇高東航路に向かって北上する2隻のフェリーの灯火を認め、その動静に留意して続航し、同時29分小槌島灯台から069度2.3海里の地点に差し掛かったとき、ほぼ正船首1,000メートルのところに八幡丸のトロールにより漁ろうに従事していることを示す緑、白2灯及びその下方に白色閃光灯を、緑灯の右方に白灯1個をそれぞれ視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、前示フェリーの動静に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、八幡丸の進路を避けることなく進行した。
19時32分少し前A受審人は、2隻のフェリーのうち後続船が阿州の正船首方を替わったとき、同方至近に八幡丸の灯火を初めて認め、急いで操舵を手動に切り替えて右舵一杯を取り、機関を停止したものの及ばず、19時32分小槌島灯台から070度2.8海里の地点において、阿州は、082度に向首したとき、原速力のまま、その左舷船首部が、八幡丸の右舷船尾に後方から9度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期にあたり、視界は良好で、衝突地点付近には1.8ノットの西南西方に流れる潮流があった。
また、八幡丸は、船体中央部に操舵室を、同室後方にネットローラー及び鳥居形やぐらをそれぞれ備えた底びき網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和50年12月一級小型船舶操縦士免許取得)が単独で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同月22日20時00分香川県高松漁港を発し、同時45分大槌島及び柏島間の東航路付近の漁場に至って操業を始めた。
ところで、B受審人が行う底びき網漁は、長さ25メートルの漁網の網口に長さ18メートルのビームを取り付け、ネットローラーから延出した2本の直径10ミリメートル水深の約4倍の長さのワイヤロープに直径35ミリメートル長さ40メートルの合成繊維製索をそれぞれ繋いだ曳索を漁網の両端に取って投網し、潮流に抗して0.2ないし0.3ノットの速力で5時間ばかり曳網したのち、ネットローラー及び水面から頂部までの高さ約6メートルの鳥居形やぐらを使って揚網し漁獲物を得るものであった。
B受審人は、前示漁場で操業を繰り返し、翌23日16時00分宇高東航路との交差部西側の東航路南端付近で投網して曳索を240メートル延ばし、折からの潮流に抗してゆっくりとした速力で、東方に向かって曳網を始め、日没後には操舵室上方のマストに上から順に緑色及び白色各全周灯並びに両色灯を表示したほか、白色全周灯と両色灯との中間に白色閃光灯を、マストとほぼ同じ高さのやぐら頂部に船尾灯の代用のつもりで60ワットの傘なし作業灯1個をそれぞれ点けて曳網を続けた。
19時00分B受審人は、小槌島灯台から071.5度2.65海里の地点に達したとき、やぐらの中央部及び下部に取り付けた150ワット及び200ワットの傘付き作業灯をそれぞれ点けて後部甲板を照らし、2本の曳索をいずれも50メートルばかり短縮したのち、針路を073度に定め、潮流を右舷船首から受けるようになって左方に28度圧流され、機関を4.0ノットの回転数毎分2,000にかけ、0.3ノットの速力で手動操舵により進行した。
B受審人は、操舵室中央の舵輪後方に置いたいすに腰を掛け、同室右舷前部に設置したGPSプロッタや宇高東航路を航行するフェリーの状況を見ながら操船にあたり、19時29分小槌島灯台から070.5度2.75海里の地点に差し掛かったとき、左舷船尾4度1,000メートルのところに阿州の白、白、紅、緑4灯を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、トロールにより漁ろうに従事していることを示す灯火を表示しているので、他船が後方から接近しても自船の灯火に気付いて進路を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことなく続航し、八幡丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、阿州は、左舷船首部外板に擦過傷を生じ、八幡丸は、右舷船尾部の外板、舷縁、甲板等に損傷を生じたが、のち修理された。また、B受審人が左膝捻挫を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、宇高東航路との交差部西側の東航路において、同航路に沿って東行中の阿州が、見張り不十分で、前路で漁ろうに従事している八幡丸の進路を避けなかったことによって発生したが、八幡丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、宇高東航路との交差部西側の東航路において、同航路に沿って東行する場合、他船の灯火を見落とすことがないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、右舷前方の宇高東航路を北上するフェリーの動静に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漁ろうに従事している八幡丸の灯火に気付かず、同船の進路を避けることなく進行して衝突を招き、阿州の左舷船首部外板に擦過傷を、八幡丸の右舷船尾部の外板及び舷縁などに損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に左膝捻挫を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、宇高東航路との交差部西側の東航路において、同航路の南端付近を東行して漁ろうに従事する場合、後方から接近する他船の灯火を見落とすことがないよう、後方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、トロールにより漁ろうに従事していることを示す灯火を表示しているので、他船が後方から接近しても自船の灯火に気付いて進路を避けるものと思い、後方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する阿州の灯火に気付かず、警告信号を行うことなく漁ろうを続けて阿州との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。