(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年8月3日10時00分
広島湾似島南岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第三晴栄丸 |
プレジャーボート(船名なし) |
総トン数 |
1.0トン |
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全長 |
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3.50メートル |
登録長 |
7.38メートル |
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機関の種類 |
電気点火機関 |
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出力 |
60キロワット |
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3 事実の経過
第三晴栄丸(以下「晴栄丸」という。)は、船外機を装備した一層甲板のFRP製漁船で、A受審人(平成15年11月一級小型船舶操縦士と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が単独で乗り組み、作業員1人を同乗させ、かき養殖作業に従事する目的をもって、平成14年8月3日06時20分広島港内の広島市中区江波南を発し、同時50分同市南区似島南岸沖合のかき養殖筏(以下「筏」という。)に至った。
ところで、かき養殖作業は、約70個の貝殻が連なる長さ約1メートルのU字型連を沖合の筏に数日間吊るして受精したかき種をつけた採苗連(さいびょうれん)を、いったん、かき種の成長を抑制する目的のため、潮汐の干満の影響を受ける浅い海面に設置されているかき養殖棚(以下「棚」という。)に移動して数ヶ月間吊るした後、再び沖合の筏に2年ないし3年間吊るしたのちに収穫するまでの一連のものであった。
A受審人は、筏から棚への1回目の採苗連移動作業を終え、似島203メートル山頂(以下「山頂」という。)から253度(真方位、以下同じ。)1,550メートルの地点の筏において、採苗連600キログラムを甲板上の高さが1.2メートルばかりの山型に積載し、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同乗させた作業員を休息させ、船尾甲板のいすに腰掛けて操舵に当たり、採苗連頂部と眼高とがほぼ同じ高さとなり、正船首方に死角が生じた状態で、2回目の同移動作業のため、09時54分似島南岸至近の棚に向けて発進した。
09時58分半A受審人は、山頂から253度1,030メートルの地点で、針路を052度に定め、機関を回転数毎分2,500にかけて5.0ノットの対地速力で進行した。
定針したときA受審人は、正船首250メートルのところに漂泊中のプレジャーボート(船名なし)(以下「B号」という。)を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、1回目の漁場移動のとき付近に他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、立ち上がって見張りを行うなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、B号を避けないまま、原針路、原速力で続航し、10時00分山頂から260度780メートルの地点において、晴栄丸の船首がB号の右舷前部に直角に衝突した。
当時、天候は晴で風はなく、潮候はほぼ低潮時であった。
また、B号は、オール2本を有する無甲板のFRP製手漕ぎプレジャーボートで、B指定海難関係人が単独で乗り組み、息子1人を同乗させ、船首尾とも0.2メートルの喫水をもって、同日07時00分似島南岸を発し、同時15分前示衝突地点付近に至り、漂泊して魚釣りを始めた。
B指定海難関係人は、船首を南東方に向け、200メートルばかり東方に流されては衝突地点付近に戻ることを繰り返しながら魚釣りを行い、09時50分同地点に三度戻り、船首部で船尾方を向いて魚釣りを再開し、同時58分半船首を142度に向けているとき、右舷正横250メートルのところに晴栄丸を視認でき、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、魚釣りを行っているときに他船を見かけなかったことから、通航船はないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、オールを使用して移動するなど衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続け、B号は同じ船首方向で前示のとおり衝突した。
衝突の結果、晴栄丸に損傷はなかったが、B号は右舷前部及び船首船底各外板に亀裂を生じ、B指定海難関係人及び同乗者が打撲傷などをそれぞれ負った。
(原因)
本件衝突は、広島湾似島南岸沖合において、漁場移動中の晴栄丸が、見張り不十分で、前路で漂泊中のB号を避けなかったことによって発生したが、B号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人等の所為)
A受審人は、広島湾似島南岸沖合において、単独で操舵に当たってかき養殖作業のため2回目の漁場移動をする場合、積荷の採苗連によって船首方に死角が生じていたから、前路で漂泊中のB号を見落とさないよう、立ち上がって見張りを行うなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、1回目の漁場移動のとき付近に他船を見かけなかったことから、前路に他船はいないものと思い、立ち上がって見張りを行うなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のB号に気付かず、これを避けないまま進行して同船との衝突を招き、B号の右舷前部及び船首船底各外板に亀裂を生じさせ、B指定海難関係人及び同乗者に打撲傷などをそれぞれ負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B指定海難関係人が、広島湾似島南岸沖合において、漂泊して魚釣りを行う際、周囲の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
B指定海難関係人に対しては勧告しないが、今後は見張りを十分に行うよう要望する。
よって主文のとおり裁決する。