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平成16年広審第21号
件名

貨物船第八大栄丸貨物船第八興陽丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月4日

審判庁区分
広島地方審判庁(道前洋志、吉川 進、黒田 均)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:第八大栄丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:第八興陽丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
第八大栄丸・・・船首部外板に亀裂
第八興陽丸・・・左舷後部外板に破口を生じて浸水、その後引船によって引航中、沈没

原因
第八大栄丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守
第八興陽丸・・・狭視界時の航法(信号、速力、見張り)不遵守

主文

 本件衝突は、第八大栄丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第八興陽丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Bの五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月6日21時57分
 瀬戸内海 安芸灘東部
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八大栄丸 貨物船第八興陽丸
総トン数 497トン 158トン
全長 70.40メートル 40.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 441キロワット

3 事実の経過
 第八大栄丸(以下「大栄丸」という。)は、船尾船橋型の砂利石材等運搬船で、A受審人ほか3人が乗り組み、管理土1,770トンを積載し、船首3.4メートル船尾5.1メートルの喫水をもって、平成15年5月6日08時10分兵庫県尼崎西宮芦屋港を発し、関門港に向かった。
 A受審人は、明石海峡、備讃瀬戸、備後灘、宮ノ窪瀬戸及び安芸灘を経由することとし、船橋当直を自らと甲板員C(指定海難関係人に指定されていたところ、死亡により同指定が取り消された。)、一等航海士及び機関長とによる単独3時間4直制とし、15時00分備讃瀬戸東航路通航中に当直に就き、18時00分同瀬戸北航路の西口を出たところで次直の機関長と当直を交替したが、瀬戸内海は霧の発生しやすい時期であったものの、平素から兄である機関長が船内を取り仕切っていたので任せておけばよいものと思い、視界制限状態となったときには船長に報告し、その旨を次々直のC甲板員にも申し送るよう機関長に対して指示を十分に行うことなく降橋した。
 21時00分C甲板員は、カヤトマリ鼻灯台沖合において、機関長から引き継いで当直に就き、法定灯火の点灯状況を確認し、その後霧のため視程が1海里ばかりに狭められた来島海峡航路の北方を西行した。
 21時42分C甲板員は、桴磯灯標から312度(真方位、以下同じ。)1.7海里の地点で、視程が0.5海里ばかりの視界制限状態となったが、その旨を船長に報告することなく、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく、針路を236度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて約1ノットの逆潮流に抗して9.0ノットの対地速力で、レーダーを見ながら更に視界が狭められる中を進行した。
 21時45分C甲板員は、右舷船首02度3.7海里のところに第八興陽丸(以下「興陽丸」という。)のレーダー映像を初めて探知してその動静監視を行ったところ、同時51分来島梶取鼻灯台(以下「梶取鼻灯台」という。)から351度2.1海里の地点に達したとき、右舷船首07度1.8海里のところに同映像を認めるようになり、興陽丸と著しく接近することを避けることができない状況となったが、同船とは右舷を対して航過できるものと思い、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止することなく続航した。
 21時57分少し前C甲板員は、右舷船首至近のところに右転中の興陽丸の紅灯を初めて視認し、急いで手動操舵に切り替えて右舵一杯としたが効なく、21時57分梶取鼻灯台から325度1.9海里の地点において、大栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首が興陽丸の左舷後部に前方から46度の角度で衝突した。
 当時、天候は霧で風はなく、視程は100メートルばかりであった。
 A受審人は、自室で休息していたときに衝突の衝撃で目覚めて昇橋し、浸水した興陽丸の乗組員救助など事後の措置に当たった。
 また、興陽丸は、船尾船橋型の液体化学薬品ばら積船で、B受審人ほか2人が乗り組み、苛性ソーダ300トンを積載し、船首2.30メートル船尾3.55メートルの喫水をもって、同日14時30分山口県徳山下松港を発し、岡山港に向かった。
 B受審人は、上関海峡及び平郡水道を経由し、20時30分クダコ水道を通過してから単独で船橋当直に就き、法定灯火の点灯状況を確認し、21時32分斎島89メートル頂から140度1.0海里の地点で、針路を052度に定めて自動操舵とし、機関を全速力前進にかけて約1ノットの順潮流に乗じて10.0ノットの対地速力で進行した。
 定針したころB受審人は、斎島にある民家の明かりの視認模様により、霧のため視程が1海里ばかりに狭められたのを認め、その後視程が0.5海里ばかりの視界制限状態となったが、霧中信号を行うことも、安全な速力とすることもなく、折から昇橋してきた甲板員を見張りに当たらせ、1海里レンジとしていたレーダーを見ながら、更に視界が狭められる中を続航した。
 21時51分B受審人は、梶取鼻灯台から302度2.2海里の地点に達したとき、右舷船首11度1.8海里のところに大栄丸をレーダーで探知でき、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、1海里レンジとしたままで、適宜レンジを切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しないまま進行した。
 21時52分B受審人は、正船首やや左方1海里のところに2隻の反航船のレーダー映像を探知し、同時54分梶取鼻灯台から315度2.1海里の地点で、その2隻との航過距離を離すため手動操舵に切り替えて徐々に右転を始め、同時57分少し前左舷船首至近のところに大栄丸の緑灯を初めて視認したが、何をする間もなく、船首が102度に向いたとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大栄丸は船首部外板に亀裂を生じたが、のち修理され、興陽丸は左舷後部外板に破口を生じて浸水し、任意座礁するため引船によって引航中、愛媛県津島北西沖合で沈没した。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、霧のため視界が制限された安芸灘東部において、西行する大栄丸が、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーにより探知した興陽丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しなかったことと、東行する興陽丸が、霧中信号を行わず、安全な速力としなかったばかりか、レーダーによる見張りが不十分で、大栄丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しなかったこととによって発生したものである。
 大栄丸の運航が適切でなかったのは、船長が船橋当直者に対して視界制限状態の報告について指示を十分に行わなかったことと、無資格の船橋当直者が視界制限状態の報告を適切に行わなかったこととによるものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、霧のため視界が制限された安芸灘東部を東行する場合、接近する大栄丸のレーダー映像を見落とさないよう、適宜レンジを切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーレンジを1海里としたままで、適宜レンジを切り替えるなどしてレーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、大栄丸のレーダー映像を見落とし、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止することもしないまま進行して大栄丸との衝突を招き、大栄丸の船首部外板に亀裂を生じさせ、興陽丸の左舷後部外板に破口を生じて浸水させ、任意座礁するため引船によって引航中に沈没させる事態に至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の五級海技士(航海)の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、次直の機関長に単独の船橋当直を行わせる場合、瀬戸内海は霧の発生しやすい時期であったから、視界制限状態時に自ら操船指揮を執ることができるよう、視界制限状態となったら報告し、その旨を次の当直者にも申し送るよう、機関長に対して指示を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、平素から兄である機関長が船内を取り仕切っていたから任せておけばよいものと思い、機関長に対して視界制限状態時の指示を十分に行わなかった職務上の過失により、無資格の次々直者から視界制限状態となった旨の報告を得られなかったので自ら操船指揮を執ることができず、興陽丸との衝突を招き、前示の事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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