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平成16年広審第43号
件名

漁船第二 一栄丸モーターボートつる丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月3日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:第二 一栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:つる丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
第二 一栄丸・・・船首部外板に擦過傷
つる丸・・・左舷側外板に亀裂及び船外機に損傷等

原因
第二 一栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
つる丸・・・避航を促す音響を発する機具の不装備、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第二 一栄丸が、見張り不十分で、前路で漂泊していたつる丸を避けなかったことによって発生したが、つる丸が、避航を促すための有効な音響を発する機具を備えず、衝突を避けるための措置を取らなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年1月18日10時20分
 瀬戸内海西部 広島湾似島南東岸沖
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第二 一栄丸 モーターボートつる丸
総トン数 2.2トン  
登録長 7.86メートル 4.43メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火式船外機
出力   18キロワット
漁船法馬力数 45  

3 事実の経過
 第二 一栄丸(以下「一栄丸」という。)は、船体後部に操舵室を配したFRP製漁船で、A受審人(平成8年4月四級小型船舶操縦士免許取得)と父親との2人が乗り組み、たこ壷漁の目的で、船首0.03メートル船尾0.08メートルの喫水をもって、平成16年1月18日07時00分広島県美能漁港を発し、広島湾似島周辺海域に仕掛けた4個所のたこ壷設置地点を巡る予定で初めに同島北方沖の設置地点に至り、続いて同島東方に位置した峠島南側沖の設置地点さらに似島南東岸沖の3個所目の設置地点に至ってそれぞれ漁を行った。その後同設置地点付近に設けられたかき養殖棚の間を経て似島南東岸に著しく寄る針路で南下して同島南東端を付け回し、最後の設置地点である似島南岸沖に向かう予定であった。
 ところで、当時操舵室前部にあたる甲板上にはたこ壷漁具一式を載せた状態で、通常の航行速力としていた約20ノットの速力にすると、船首が浮上し立った姿勢での操舵者の目線の位置が船首上端から10センチメートル程度となり、前方の視野が狭められた状態であった。
 そこで、A受審人は、操船に際して操舵室右舷寄りの位置に立って左手で手動操舵を右手でスロットルハンドルを操作しながら見張りを兼ねて操船を行っていた。同乗していた父親には操舵室左舷寄りの位置に置かれたいすに腰掛けたままにさせて特に見張りを行わせることもなく、また回転する機関の騒音で会話もできない状況であった。
 こうして、10時18分少し前A受審人は、似島南東岸沖の3個所目の設置地点であるドウゲン石灯標から020度(真方位、以下同じ。)500メートルの地点を発進して、同時19分少し前同灯標から310度400メートルの地点に至り、針路を同島南東岸に接航する180度に定め、機関を通常の航行速力にかけ、増速に伴って船首部が浮上した状態のまま20.0ノットの高速力で手動操舵により南下した。
 ところが、定針したとき、A受審人は、船首方約650メートルのところに漂泊中のつる丸を認めることができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、そのころたまたま左舷前方に認めた遊漁船1隻の動向に気を取られ、しかも船首浮上で前方の視野が狭められた状態にも係わらず、船首方に対する見張りを十分に行わなかったので、前路で漂泊中のつる丸に気付かないまま続航した。10時20分わずか前同船に気付かないまま似島南東端付近に達し、同端を付け回して目的地に向かおうとして右舵を取るや船首部に衝撃を感じ、10時20分ドウゲン石灯標から220度500メートルの地点において、一栄丸は、その船首が220度を向首した状態でつる丸の左舷中央部に前方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好であった。
 また、つる丸は、FRP製和船型モーターボートで、B受審人(昭和53年1月四級小型船舶操縦士免許取得)ほか友人1人が乗り組み、釣りの目的で、船首0.2メートル船尾0.3メートルの喫水をもって、同日07時30分広島港元安川係留地を発し、似島東側沖及び同島東方に位置した峠島周辺の各釣り場を経てから更に釣場を移動し、10時10分前示衝突地点付近に至って釣りを続けるために機関を停止して漂泊を始めた。
 ところが、10時19分少し前釣りの準備を行っていたB受審人は、船首を080度に向けた状態で漂泊を続けていたとき、同乗の友人から他船の接近の報告を受けて左舷船首80度約650メートルのところに一栄丸を初めて視認し、その後衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、同船が自船を避航するものと思い、自船には避航を促すための有効な音響を発することができる機具も備えていなかったにもかかわらず、余裕をもって機関の使用を準備し必要に応じて速やかに移動するなどの衝突を避けるための措置を取らないまま漂泊を続けた。そして、10時20分少し前同船が至近に迫るに及んで衝突の危険を感じ、立ち上がり手を振り大声で叫んだものの効なく、つる丸は漂泊状態のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、一栄丸は船首部外板に擦過傷、並びにつる丸は左舷側外板に亀裂及び船外機損傷等をそれぞれ生じた。 

(原因)
 本件衝突は、広島湾似島南東端沖において、漁場に向け移動する一栄丸が、見張り不十分で、前路で漂泊していたつる丸を避けなかったことによって発生したが、つる丸が、避航を促すための有効な音響を発する機具を備えず、衝突を避けるための措置を取らなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、広島湾似島南東端沖において、次の漁場に向かって陸岸に著しく接近した針路で移動する場合、増速により船首の浮上で前方の視野が狭められた状態であったから、前路で漂泊していた背の低い小型モーターボート等を見落すことのないよう、船首方に対する見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、たまたま左舷前方近距離に認めた遊漁船1隻の動向に気を取られ、船首方に対する見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊していたつる丸に気付かず、これを避けないまま進行して同船との衝突を招き、一栄丸の船首部外板に擦過傷、並びにつる丸の左舷側外板に亀裂及び船外機損傷等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、広島湾似島南東端沖において、釣りの準備を行いながら漂泊していた自船に向かって接近する他船を認めた場合、自船には避航を促すために有効な音響を発することができる機具も備えていなかったから、余裕をもって機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置を取るべき注意義務があった。しかし、同人は、接近する他船の方で自船を避けるものと思い、機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置を取らないまま漂泊を続けて一栄丸との衝突を招き、前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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