(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月1日12時25分
播磨灘北東部
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船村由丸 |
プレジャーボートアポロ |
総トン数 |
10トン |
全長 |
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3.69メートル |
登録長 |
14.95メートル |
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機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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7キロワット |
漁船法馬力数 |
110 |
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3 事実の経過
村由丸は、採介藻漁業に従事する軽合金製漁船で、平成13年7月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人ほか4人が乗り組み、のり育成作業の目的で、船首0.2メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年11月1日04時00分兵庫県林崎漁港を発し、同港沖合に設置されたのり養殖施設に向かった。
ところでのり養殖施設は、林崎漁港から北西方の海岸沿いに5キロメートルの距離にわたって、その沖合0.2海里から1.8海里にほぼ台形状に設置され、無数の杭やロープが張ってあり、その中央に海岸線と並行に、同施設を分断する幅200メートル長さ4.2キロメートルの水路が設けられていた。
A受審人は、林崎漁港を出て前示水路東口(以下「東口」という。)から入航し、04時10分目的の施設に至って作業を行った。
A受審人は、作業を終えて帰航するため、12時20分わずか過ぎ、林崎港5号防波堤灯台から291度(真方位、以下同じ。)2.4海里の水路中間部において、針路を122度に定め、機関を全速力前進よりわずか低速として、18.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により、ほぼ水路中央を進行した。
12時23分わずか過ぎA受審人は、東口に向けて続航していたとき、正船首方1,000メートルの東口付近に漂泊するアポロが存在し、村由丸の船首には漁具巻き揚げ機械によるわずかな死角があり、その死角内にアポロを認めうる状況であったが、東口付近には他船がいないものと思い、また、のり養殖施設内には多数の僚船が操業中で、これらが左右の同施設内から前路に突然出てくることがあるので、これらの動静に気をとられていたことから、船首を左右に振るなり、身体を移動するなりして船首方の死角を補って見張りを行うことなく、アポロに気付かず進行した。
その後A受審人は、いすに腰掛け、左右にばかり気を配っていたことから、アポロに向首していることに気付かないまま、同船を避けずに続航し、12時25分林崎港5号防波堤灯台から274度1,750メートルの地点において、同針路、同速力で、村由丸の船首がアポロの右舷船尾に、後方から8度の角度で衝突した。
当時、天候は晴でほとんど風がなく、付近には北西方へ流速1.2ノットの潮流があった。
また、アポロは、舵柄付き船外機を装備したFRP製プレジャーボートで、平成11年12月交付の四級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、船首0.05メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、釣りの目的で、平成15年11月1日06時20分兵庫県藤江漁港を発し、同時40分東播磨港東部の南二見沖合の釣場に至って釣りを行った。
11時00分B受審人は、前示の釣場を発し、11時30分東口から東方約1海里の、セメント磯付近に至って釣りを再開した。その際、船首を潮流に立てるために船首から長さ1メートル重さ約8キログラムの鎖を長さ約10メートルのロープに結び、水深約4メートルの海底に下ろして機関を停止し、折からの潮流で船首を明石海峡方面に向けて漂泊し、自らは船尾端右舷側に船首に身体を向けて腰掛け、友人は船体中央部の左舷側で身体を船首に向け、潮流に圧流されながら釣りを続けた。
12時16分B受審人は、漂泊開始地点を調整するため、移動して前示衝突地点より約350メートル南東方から、船首をほぼ東方に向けて、潮流により1.2ノットの速力で北西方に圧流されながら、前回とほぼ同じ状態で漂泊して釣りを行った。
12時23分わずか過ぎB受審人は、衝突地点より南東方約70メートルの地点において、船首が130度に向いていたとき、右舷船尾8度1,000メートルの水路内から、自船に向かって接近する村由丸を認めうる状況であったが、接近する他船が自船を避けてくれるものと思い、舷外に出した釣糸の方向や、その当たりに気をとられて、船尾方の見張りを行っていなかったため、村由丸が衝突のおそれのある態勢で接近していることに気付かず、同船に対して衝突を避けるための注意喚起を行うことができず、その後、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらずに釣りを続けた。
12時25分少し前B受審人は、約100メートルに迫った村由丸の機関音を船尾方に聴いたが、接近する他船が自船を避けてくれるものと思い、依然として釣りに夢中になって船尾方を振り返らず、同時25分わずか前大きくなった機関音を聴いて振り向いたところ、村由丸の船首が35メートルに迫り、急いで機関始動ロープを2回引いたが始動せず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、村由丸は船首に擦過傷を生じ、アポロは衝突時の反動で村由丸の船首が右舷中央部に食い込み、同部にV字型の破口を生じて全損となり、機関は脱落して海中に没した。B受審人とその友人は衝突直前に海中に飛び込んで難を逃れ、村由丸に救助された。
(原因)
本件衝突は、播磨灘北東部のり養殖施設水路東口付近において、水路内から東口に向かって進行する村由丸が、見張り不十分で、前路で漂泊するアポロを避けなかったことによって発生したが、アポロが、見張り不十分で、機関を使用して衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、播磨灘北東部のり養殖施設水路東口付近において、水路内から東口に向けて進行する場合、船首方には漁具巻き揚げ機械によって死角があったから、前路で漂泊するアポロを見落とすことのないよう、船首方の死角を補って厳重に見張りを行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、東口付近に他船がいないものと思い、船首方の死角を補って厳重に見張りを行わなかった職務上の過失により、アポロに気付かず、同船に向かって進行して衝突を招き、村由丸の船首に擦過傷を生じさせ、アポロの右舷中央部をV字型に破口し、全損となる損害を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、播磨灘北東部のり養殖施設水路東口付近において、漂泊する場合、水路内から自船に向かって進行する村由丸を見落とすことのないよう、船尾方に対する適切な見張りを行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、接近する他船が自船を避けてくれるものと思い、船尾方に対する適切な見張りを行わなかった職務上の過失により、村由丸の接近に気付かずに衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。