(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月20日21時33分
徳島小松島港北東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船きくしま |
漁船神力丸 |
総トン数 |
171トン |
9.7トン |
全長 |
49.82メートル |
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登録長 |
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14.83メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
441キロワット |
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漁船法馬力数 |
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25 |
3 事実の経過
きくしまは、大阪湾、瀬戸内海において、穀物、鋼材輸送などに従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか1人が乗り組み、小麦300トンを積載し、船首2.2メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、平成15年10月20日16時30分神戸港を発し、徳島小松島港徳島区に向かった。
A受審人は、出航操船に引き続いて当直につき、20時10分機関長と食事交替し、沼島北岸から約0.5海里付近において機関長と交替して再び1人で船橋当直に当たり、同時39分沼島灯台から329度(真方位、以下同じ。)1.4海里の地点に達し、針路を230度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、自動操舵により進行した。
21時10分頃A受審人は、左舷船首6度4.5海里のところに3隻ばかりの明るい灯火を掲げた漁船群を認め、これらの灯火模様及び速力模様から、紀伊水道でよく見かける操業中の漁船群であることを知った。
21時23分A受審人は、左舷船首10度1.8海里に前示の漁船群中に漁ろうに従事する神力丸を初めて認め、同時27分半今切港長原導流堤灯台から093度3.9海里の地点において、神力丸との距離が1.0海里となって、方位が変わらず、衝突のおそれのある状況となったが、近くになれば船尾方に替わっていくものと思い、慎重にその方位変化を確かめるなどの動静監視を行うことなく、更に前方の漁船群の動静に目を移し、神力丸の進路を避けずに続航した。
21時32分半A受審人は、至近に迫った神力丸を認め、急いで甲板照明灯を2回点滅させたが自船に気付いた様子がなく、同時33分わずか前右舵一杯としたが及ばず、21時33分今切港長原導流堤灯台から107度3.2海里の地点において、原針路、原速力のまま、きくしまの左舷後部に神力丸の船首がほぼ直角に衝突した。
当時、天候は雨で風力2の北風が吹き、視界は良好であった。
また、神力丸は、紀伊水道において、底引き網漁に従事するFRP製漁船で、平成15年8月6日交付の一級小型船舶操縦士・特殊船舶操縦士免状を受有するB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、同年10月20日17時00分徳島小松島港徳島区を発し、同時15分同港沖合のオ亀磯北方沖合に至って操業を開始した。
当時の操業は、船尾端から曳網索約200メートルと長さ約25メートルの網からなる漁具を約2ノットないし3ノットの速力で引き、操業中は高さ約5メートルのマスト頂部に緑色全周灯、その下方操舵室屋根前部両端の高さ約2メートルに舷灯を、後部に船尾灯をそれぞれ点灯していたが、緑色全周灯直下に法定の白色全周灯を点灯せず、そのほか作業灯として長さ約3メートルのデリックブームに60ワット2個100ワット3個をほぼ等間隔に取り付けて点灯し、操舵室前に60ワット1個を点灯していることから、漁ろうに従事していることを表示する正規の灯火ではないものの、速力と灯火模様から外観上漁ろうに従事していると認めることができ、付近で操業する僚船と1ないし2海里の距離を保ち、その動向に合わせて約2海里の北上南下を翌早朝まで5ないし6回繰り返すものであった。
21時08分B受審人は、今切港長原導流堤灯台から110度3.6海里の地点において、ほぼ停留状態で揚網を開始し、同時18分同地点において、揚網を終えて3回目の投網を開始し、前方の2隻の僚船の動向に合わせて針路を320度に定め、約6ノットの速力で自動操舵により進行し、見張りの妨げとなる前示の作業灯直下の船尾甲板上で網の開口板取り付け時には減速して、のち再び約6ノットの速力で漁獲物の選別作業などを行いながら続航した。
21時23分B受審人は、今切港長原導流堤灯台から109度3.5海里の地点に達して投網を終えて約2.5ノットの速力として同一針路で進行していたとき、右舷船首80度1.8海里に、自船の前路に進行するきくしまの白灯2個紅灯1個を認めうる状況であったが、付近海域は操業中の漁船ばかりで貨物船をほとんど見ないことから、接近する他船はいないものと思い、見張りの妨げとなる作業灯直下において選別作業に没頭して同針路、同速力で続航した。
21時27分半B受審人は、きくしまとの距離が1.0海里となってその方位が変わらず、衝突のおそれのある態勢で接近することが明確となったが、依然として前示の作業位置から移動して見張りを行うことなく、選別作業を続けていたため、同船の接近に気付かず、更に間近に迫っても右転するなど衝突を避けるための協力動作を行わずに進行し、21時33分わずか前至近に迫った同船を認めたが、どうすることもできず、神力丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、きくしまは左舷後部外板に擦過傷を、神力丸は船首に亀裂を生じたが、のちいずれも修理され、B受審人は70日間の加療を要する打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、夜間、徳島小松島港北東方沖合において、きくしまが、動静監視不十分で、漁ろうに従事する神力丸の進路を避けなかったことによって発生したが、神力丸が、見張り不十分で、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、徳島小松島港北東方沖合において、前方の漁船群の中に漁ろうに従事する神力丸を認めた場合、同船との衝突のおそれの有無を確かめることができるよう、引き続き同船に対する動静監視を行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、近くになれば船尾方に替わっていくものと思い、引き続き動静監視を行わなかった職務上の過失により、更に前方の自船前路に近くなる他の漁船群の動静に目を移し、神力丸の進路を避けることなく進行して衝突を招き、きくしまの左舷後部外板に擦過傷を、神力丸の船首に亀裂をそれぞれ生じさせ、B受審人に70日間の加療を要する打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、徳島小松島港北東方沖合において、漁ろうに従事して北上する場合、見張りの妨げとなる作業灯直下の作業位置では衝突のおそれのある態勢で接近するきくしまを見落とすことがあるから、同位置から移動するなどして見張りを厳重に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、接近する他船はいないものと思い、見張りを厳重に行わなかった職務上の過失により、漁獲物の選別作業に没頭してきくしまの接近に気付かず進行して衝突を招き、前示の結果を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。