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平成15年神審第109号
件名

旅客船おーしゃんうえすと作業船幸進丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月27日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野浩三、横須賀勇一、平野研一)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:おーしゃんうえすと船長 海技免許:一級海技士(航海)
B 職名:幸進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
おーしゃんうえすと・・・左舷船尾外板に擦過傷
幸進丸・・・右舷ブルワークに亀裂

原因
幸進丸・・・港則法の航法不遵守(主因)
おーしゃんうえすと・・・港則法の航法不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、雑種船である幸進丸が、雑種船以外の船舶であるおーしゃんうえすとの進路を避けなかったことによって発生したが、おーしゃんうえすとが、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年2月5日09時16分
 徳島小松島港徳島区第2区
 
2 船舶の要目
船種船名 旅客船おーしゃんうえすと 作業船幸進丸
総トン数 11,522トン 4.9トン
全長 166.00メートル  
登録長   12.57メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 21,182キロワット 77キロワット

3 事実の経過
 おーしゃんうえすと(以下「お号」という。)は、京浜港、徳島小松島港、関門港間の定期運航に従事する旅客船兼自動車航送船(以下「フェリー」という。)で、A受審人ほか26人が乗り組み、トラック110台、乗用車30台、旅客17人を乗せ、船首尾とも6.08メートルの喫水をもって、平成15年2月4日19時10分関門港を発し、徳島小松島港徳島区第1区C岸壁に向かった。
 ところで、徳島小松島港は、紀伊水道に面して東側に開口部をもち、港域内の水深が6ないし8メートルで、同港徳島区第2区の津田外防波堤東端沖合0.25海里のところから、港奥に向かって同防波堤北部に沿う270度(真方位、以下同じ。)方向に幅員200メートル、長さ約1,000メートル、水深10.5メートル以上に掘り下げた水路(以下「掘り下げ水路」という。)を設け、掘り下げ水路入口の南側に徳島第1号灯浮標(以下、灯浮標の名称については「徳島」の冠称を省略する。)、北側に第2号灯浮標が、同灯浮標から650メートル西方の同水路北側に第4号灯浮標が設置され、前示の岸壁は港境界線から1海里西方に位置していた。
 ところで、強風時において、受風圧面積が大きく、喫水の浅い、旋回径が大きなフェリーなどの大型船は、掘り下げ水路の幅が狭いうえ、圧流が大きく、船首が風上に切り上がって操縦が制限されること、及び第2号灯浮標と第4号灯浮標間の距離が短く、掘り下げ水路外に出るのが困難になることから、掘り下げ水路内で他船と出会ったときに大きく進路変更する事態が生じないよう、掘り下げ水路入口付近で速やかに行きあしを停止するなどの措置をとる必要があった。
 翌5日09時00分A受審人は、徳島小松島港入航指揮を執るために昇橋し、同時06分徳島津田外防波堤東灯台(以下「東灯台」という。)から123度2.50海里の地点に達し、掘り下げ水路入口に向けてスタンバイエンジンとし、操舵手を配置につけて手動操舵により進行した。
 09時10分A受審人は、東灯台から104度1.45海里の地点において、二等航海士、三等航海士を船橋、一等航海士を船首にそれぞれ入航配置とし、針路を300度に定め、17.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で続航していたとき、左舷船首27度1,600メートルのところに幸進丸を初めて認め、同船が、東灯台と掘り下げ水路入口との中間部に向け、掘り下げ水路に斜行して入航する態勢であることを知り、幸進丸が小型船であることから港則法による雑種船に該当すると判断し、掘り下げ水路の外側の水深が浅く、右舷前方から風速毎秒9メートルの北西風による圧流があることなどを考慮したものの、同船とやがて掘り下げ水路内で出会って横切りや追い越しの見合い関係となった場合には、幸進丸が自船の進路を避けてくれるものと思い、同時11分同船に対して自船の存在を知らせるため、汽笛による長音1回を2度吹鳴したのち、その動静監視を行いながら進行した。
 09時13分A受審人は、東灯台から084度1,200メートルの地点において、東灯台と第1号灯浮標が一線になったとき、左舷船首43度825メートルのところに、掘り下げ水路に斜行して入航しようとする幸進丸を認め、14.5ノットの速力に減じて掘り下げ水路入口に向けて徐々に左転を開始した。
 09時14分A受審人は、東灯台から075度770メートルの地点において、針路が270度、速力が14.5ノットとなったとき、左舷船首13度550メートルのところに、掘り下げ水路に差し掛かった幸進丸を認め、前示の風を右舷前方から受けて左方に5度圧流されながら、同針路、同速力で続航した。
 09時14分半A受審人は、船首が掘り下げ水路入口の第1号及び第2号灯浮標に並び、掘り下げ水路内に差し掛かろうとしたとき、幸進丸が自船の前路に向けて進行して、その方位がほとんど変わらず、400メートルに接近したとき、汽笛による短音5回の警告信号を吹鳴したものの、同船に避航の気配が認められず、そのまま幸進丸が進行すれば衝突のおそれが生じることが明らかとなったが、同船船尾甲板上にいた作業員の操舵室への入室を認め、自船が迫っていることを操船者に知らせていて、間もなく自船の進路を避けてくれるものと思い、速やかに減速して衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
 09時15分A受審人は、左舷船首9度210メートルとなった幸進丸に対して、再び警告信号を吹鳴したところ、同船の左転を認めたが、依然として衝突のおそれが解消されないまま、幸進丸と右舷船首8度525メートルとなった4号灯浮標との間を抜けるつもりで、同針路、同速力のまま続航した。
 09時15分半A受審人は、左舷船首5度150メートルとなった幸進丸との衝突が避けられない状況の下、圧流を防止するため右舵一杯とし、やがて船首の風上への切り上がりと舵効とで5度ばかり右転し、4号灯浮標が船首間近となったことから右回頭を止めるため左舵一杯、同時16分わずか前、間近に迫った同船が避航措置をとっていないことに気付いて機関を停止したが、09時16分東灯台から334度160メートルの地点において、右回頭が止まって船首が280度に向き、行きあしが10.5ノットとなったとき、お号の左舷船尾に幸進丸の右舷船尾が、後方から20度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力5の西北西風が吹き、潮候は下げ潮の初期であった。
 また、幸進丸は、港内において水質調査業務に従事中、港則法に規定された雑種船の範疇に属するFRP製作業船で、一級小型船舶操縦士免状(昭和59年3月9日免許)を受有するB受審人が1人で乗り組み、調査員3人を乗せ、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、専ら徳島小松島港及び徳島県今切港内においての水質調査を行う目的で、同月5日08時30分同県和田島漁港を発し、途中、徳島小松島港沖合オ亀磯付近で調査を行ったのち、次の調査対象となる前示衝突地点付近に向かった。
 09時06分B受審人は、東灯台から125度1.13海里の地点において水質調査を終え、針路を308度に定め、機関をほぼ全速力前進にかけ、8.0ノットの速力で、手動操舵により進行した。
 ところで、幸進丸は、平素B受審人が乗り組んで徳島小松島港沖合で漁船として操業に従事し、時折警戒船または水質調査作業船としての業務に従事するために安全講習を受けて、これらの業務中には、接近する他船の進路を避けなければならないことを知っており、今回は所属漁協から水質調査作業船として指名され、作業航行中は1メートル四方の赤旗を表示していた。
 また、水質調査を依頼した会社は、業務中には見張り要員を配置すること、及び港内において接近する船舶の進路を避けることを条件とし、海水採取、透明度計測など10分間程度の作業を行う旨の海上作業届出書を港長に提出し、その許可を受けていた。
 B受審人は、発進後まもなく右舷船尾方から接近するお号を認め、同船が徳島小松島港への入航フェリーで、掘り下げ水路入口に向けて進行中であることを知って、その動静監視を行いながら進行した。
 09時13分B受審人は、東灯台から104度410メートルの地点において、掘り下げ水路に達するまで約260メートルで、右舷船尾51度825メートルとなったお号が、掘り下げ水路に向けて転針を開始し、このまま掘り下げ水路に入航すれば、やがて同船と掘り下げ水路内で出会うことに気付いたが、自船が雑種船であることも、また雑種船以外の船舶であるお号の進路を避けるべきことも忘れ、漁船として操業中はフェリーの方から自船の進路を避けてくれることや、赤旗を表示していたこともあり、お号の方で自船の進路を避けてくれるものと思い続航した。
 09時14分B受審人は、津田外防波堤北部の延長線上200メートルの、東灯台から068度200メートルの地点に達し、やがて掘り下げ水路に斜行して入航する態勢で進行中、右舷船尾51度550メートルに船首を掘り下げ水路入口に向けたばかりのお号と、互いに進路が交差した状況を認めたが、調査地点に近いことから4.0ノットに減速し、同一針路で続航した。
 09時14分半B受審人は、右舷船尾51度400メートルに接近したお号が警告信号を発し、同船と衝突のおそれが生じていることが明らかとなったとき、このことについて、船尾甲板上で見張りを行っていた調査員から報告を受けたものの、行きあしを停止して掘り下げ水路の外でお号の通過を待って同船の進路を避けることなく、お号が避けてくれるのものと思い、同船の前路に向かって進行した。
 09時15分B受審人は、お号が再び警告信号を発したが、これを気にとめず、同船が右舷船尾47度210メートルとなって、衝突のおそれが生じていたが、依然としてお号が避けてくれるものと思い、GPSで表示された正確な調査地点に向かうため、同表示を見つめたまま針路を280度に転じたが、圧流される同船と著しく接近していたため衝突のおそれは解消されず、4.0ノットの速力で続航した。
 09時16分わずか前B受審人は、間近に迫ったお号を認め急いで左転したが、同針路、同速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、お号は左舷船尾外板に擦過傷を生じたのみで、幸進丸は右舷ブルワークに亀裂を生じ、のち修理された。 

(原因)
 本件衝突は、徳島小松島港徳島区第2区の津田外防波堤東端付近において、掘り下げ水路に向かって入航する両船が衝突のおそれのある態勢で進行した際、雑種船である幸進丸が、雑種船以外の船舶であるお号の進路を避けなかったことによって発生したが、お号が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、徳島小松島港徳島区第2区の津田外防波堤東端付近において、同東端北側の掘り下げ水路に斜行して入航する態勢で進行中、掘り下げ水路に入航する態勢のお号を認めた場合、自船は水質調査作業船として港内航行中は港則法に定める雑種船であるから、雑種船以外の船舶であるお号の進路を避けるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、お号が自船の進路を避けてくれるものと思い、お号の進路を避けなかった職務上の過失により、お号の進路を避けずに進行して衝突を招き、お号の左舷船尾外板に擦過傷を生じさせ、幸進丸の右舷ブルワークに亀裂を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、徳島小松島港徳島区第2区の津田外防波堤東端付近において、掘り下げ水路入口に向けて進行中、掘り下げ水路に斜行して入航する幸進丸と衝突のおそれのあることを知った場合、速やかに衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、雑種船である幸進丸が自船の進路を避けてくれるものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、衝突を避けるための措置をとらずに進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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