(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月27日15時30分
石川県河北郡内灘海岸沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
水上オートバイプロジェクト号 |
重量 |
245キログラム |
全長 |
3.15メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
55キロワット |
船種船名 |
水上オートバイラブソフトディープ |
重量 |
155キログラム |
全長 |
2.21メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
52キロワット |
3 事実の経過
プロジェクト号(以下「プ号」という。)は、C社が製造した、99年型MJ-700XL LTDと称する最大搭載人員3人のFRP製水上オートバイで、船体中央部に主機関を装備し、その上部にステアリングハンドルを備え、同ハンドルの左側グリップの根元部にエンジン始動ボタン及び同停止ボタンが、右側グリップにスロットルレバーがそれぞれ取り付けられ、同ハンドル後方に操縦者用の跨乗式座席を備えていた。
プ号の推進力は、機関に直結するジェットポンプからの海水噴射で得られ、ステアリングハンドルの操作に応じて船尾のノズル方向を左右に変えることにより旋回し、また、スロットルレバーの操作により、最高速力70キロメートル毎時(以下「キロ」という。)までの速力の増減ができるようになっていた。
A受審人は、平成15年6月交付の二級小型船舶操縦士(5トン限定)・特殊小型船舶操縦士免状を受有し、同年7月27日10時半友人8人と共に石川県内灘海岸に到着し、プ号を含む2台の水上オートバイを着水させ、浜辺でバーベキューをしながら適宜交替で同海岸沖合500メートルの水域で遊走を繰り返していた。
ところで、内灘海岸から北東方に延びる内灘海岸線に沿って200メートル沖合には、北東方に、長さ50メートル幅10メートルの長方形の水域に水上オートバイの周回コース(以下「周回コース」という。)が設定され、その四隅には、直径50センチメートルの赤色ブイが設置され、北端から反時計回りに1番ブイ、2番ブイ、3番ブイ、4番ブイと呼称されており、対角線の交点から北東方5メートルにあたる金沢港西防波堤灯台から097.5度(真方位、以下同じ。)1,630メートルの地点(以下「基点」という。)には、5番ブイと呼称される同径の黄色ブイが設置されていた。
A受審人は、水上オートバイの周回模様を見ていたので周回コースを知っていた。
A受審人は、1人でプ号に乗り組み、遊走の目的で、同月27日15時15分内灘海岸を発し、沖合500メートルの水域で遊走したのち、同時28分金沢港西防波堤灯台から087度1,650メートルの地点において、南西方向に向けて30キロの対地速力(以下「速力」という。)で内灘海岸の発進地点に戻ることとした。
A受審人は、発進地点の沖合300メートルに達したころ、周回コースを周回中のラブ ソフト ディープ(以下「ラ号」という。)の操縦模様が気になり、ラ号に接近するつもりで反転して052度の針路で進行中、15時29分28秒基点から239度77メートルの地点に達したとき、右舷船首1度72メートルのところにラ号が周回コースを走っているのを認め、同針路のまま周回コースに進入すれば、ラ号と著しく接近して衝突が予想される状況となったが、減速してラ号に接近すれば大丈夫と思い、周回コースを十分に離れて安全な針路とすることなく、速力を10キロに減じて同じ針路で続航した。
15時29分45秒A受審人は、2番ブイを右方5メートルに見て通過して周回コースに進入し、ラ号が4番ブイを急旋回し5番ブイに向けており、更にラ号に接近する状況となったが、依然、周回コースから離れる針路とすることなく進行し、同分56秒右舷船首17度20メートルのラ号が1番ブイを左に旋回して反転を始め、同分59秒ラ号が自船に向かってくるのに気付き、慌ててステアリングハンドルを左に切ったが及ばず、プ号は、15時30分00秒金沢港西防波堤灯台から097度1,630メートルの地点において、船首が025度に向いたとき、プ号の右舷側中央部とラ号の右舷船首が前方から25度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力3の北北西風が吹き、海面は穏やかであった。
また、ラ号は、D社が製造した、JS750BEと称する最大搭載人員1人のFRP製水上オートバイで、船体中央部に主機関を装備し、その上部にハンドルポールを備え、同ハンドルの左側グリップの根元部にエンジン始動ボタン及び同停止ボタンが、右側グリップにスロットルレバーがそれぞれ取り付けられ、座席はなくハンドルポールを上げて同ハンドル後方で立って操縦するものであった。
ラ号の推進力はプ号と同じで、最高速力は65キロ、最短停止距離は60メートルであった。
B受審人は、平成12年11月交付の四級小型船舶操縦士の免状を受有し、同15年7月27日10時半友人10人と共に内灘海岸に到着し、ラ号を含む3台の水上オートバイを着水させ、浜辺でバーベキューをしながら適宜交替で同海岸沖合の周回コースで遊走を繰り返していた。
B受審人は、1人でラ号に乗り組み、15時20分内灘海岸を発し、周回コースに至り、周回コースを遊走するにあたり、水上オートバイ等がコース内に入らないよう監視者を付けないで、1番ブイから4番ブイを左に見て左旋回し、5番ブイを右に見て反転する左回りの1周34秒の凹型のコースで遊走を始めた。
B受審人は、立って操縦にあたり、15時29分28秒基点か289度9メートルの地点において、針路を230度として35キロの速力で進行しているとき、右舷船首3度72メートルのところに周回コースに向けて接近するプ号を認めることができ、このまま周回コースで遊走を続けるとプ号と著しく接近して衝突が予想される状況となったが、周囲の見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、機関を停止するなどの衝突を避ける措置をとることなく続航した。
15時29分31秒B受審人は、プ号が右舷船首4度38メートルに接近したとき、2番ブイを左転し、同分36秒3番ブイを左転して050度の針路として進行したころ、いったんプ号と離れる状態となり、同分45秒4番ブイを反転して230度の針路としたとき、右舷船首9度50メートルのところにプ号が存在したが、ハンドル操作に集中し、依然プ号に気付かず、速力を20キロとして続航し、同分52秒5番ブイを右急旋回して反転し、050度の針路として同速力で進行中、左舷船尾32度12メートルのプ号に気付かず、同分56秒1番ブイと並んだとき左急旋回して反転を開始し、同分59秒針路を230度として増速中、ほぼ正船首方至近にプ号を認めたものの、どうすることもできず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、プ号は右舷側中央部外板に擦過傷を生じ、ラ号は右舷側船首部外板に亀裂を生じたが、のちいずれも修理された。また、B受審人が全治4週間の肋骨骨折を負った。
(原因)
本件衝突は、石川県内灘海岸沖合において、北東進中のプ号が、針路の選定が不適切で、ブイで標示された周回コースに進入して遊走中のラ号に接近したことによって発生したが、周回コースを遊走中のラ号が、見張り不十分で、機関を停止するなど衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、石川県内灘海岸沖合において、北東進中、ブイで標示された周回コースを遊走しているラ号を認めた場合、周回コースに進入しないよう、周回コースを十分に離す安全な針路を選定すべき注意義務があった。しかるに同人は、減速してラ号に接近すれば大丈夫と思い、周回コースを十分に離す安全な針路としなかった職務上の過失により、ラ号に接近して同船との衝突を招き、プ号の右舷側中央部外板に擦過傷を、ラ号の右舷側船首部外板に亀裂を生じさせ、B受審人に全治4週間の肋骨骨折を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、石川県内灘海岸沖合において、ブイで標示された周回コースを遊走する場合、周回コースに接近するプ号を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに同人は、周回コースに接近する水上オートバイはいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、プ号の接近に気付かず、機関を停止するなど衝突を避ける措置をとることなく、ブイを左急旋回して増速中、プ号との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自身も負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。