(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年3月26日12時55分
和歌山県潮岬西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船冨士福丸 |
漁船政美丸 |
総トン数 |
499トン |
4.34トン |
全長 |
70.3メートル |
14.43メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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75 |
3 事実の経過
冨士福丸は、主に砂、砕石の運搬に従事する船尾船橋型の鋼製貨物船で、A受審人ほか4人が乗り組み、硫安1,025トンを積載して防水シートで覆った上に鋼製ハッチカバーを施し、船首3.45メートル船尾4.75メートルの喫水をもって、平成15年3月25日16時10分大分県大分港を発し、強風が予想される中、瀬戸内海を経由して北海道苫小牧港に向かった。
ところで、冨士福丸船長は、船橋当直を船長、一等航海士及び次席一等航海士の3人による単独の4時間3直制とし、出航時刻に合わせて正時に調整した当直時間帯を定め、当直交替時の15分から30分前に昇橋し、早めに交代させることを習慣にしていた。
冨士福丸船長は、翌26日07時半鳴門海峡から紀伊水道に入り、12時45分和歌山県江須埼沖において針路を同県潮岬沖に向けた113度(真方位、以下同じ。)で進行しているとき、いつものように早めに昇橋してきたA受審人と船橋当直を交代し、引き続き在橋した。
一方、船橋当直を引き継いだA受審人は、右舷船尾方約0.3海里の自船より速い同航船及び左舷船首方のいずれ左舷を対して行き会う大型の反航船を確認し、また、周辺海域には小型漁船が存在することを知っており、肉眼では一面に覆われた白波に漁船が紛れ易い海面状況下、レーダーでは海面反射により小型漁船が映りにくいことがあるので、スタンバイ状態とし、舵輪の右側に立って見張りと操船にあたった。
A受審人は、12時46分江須埼灯台から163度2.7海里の地点で、接近する同航船との距離をとるため針路を110度に定め、機関を11.0ノットの全速力前進にかけ、折から東方に流れる黒潮に乗じて12.8ノットの対地速力(以下「速力」という。)で自動操舵によって進行した。
冨士福丸船長は、12時50分同航船が右舷側を無難に追い抜いたことを確認し、A受審人に船橋当直を任せて降橋した。
A受審人は、1人で船橋当直にあたり、ハッチカバーの防水効果が十分でなく硫安が濡れることを案じ、甲板上に波をかぶらないよう、反航船が通過した後、もう少し陸岸寄りの針路とするつもりで続航した。
12時52分A受審人は、江須埼灯台から146度3.7海里の地点に達したとき、右舷船首14度1,550メートルのところに、前路を左方に横切る態勢の政美丸を視認でき、その後、その方位が変わらず衝突のおそれのある態勢で互いに接近する状況となったが、左舷船首方の反航船に気を取られ、船橋に常備していた双眼鏡を使用するなどして右舷方の見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、政美丸の進路を避けることなく進行した。
A受審人は、12時53分過ぎ反航船が左舷側を航過したことを確認した後、舵輪の左側に据えられた海図台の後方に移動して前を向いて海図上で潮岬との離岸距離を確認しながら続航中、同時55分わずか前ふと顔を上げた瞬間、右舷船首方至近に迫った政美丸を初めて認め、慌てて手動操舵に切り替えただけで、冨士福丸は、12時55分潮岬灯台から273度5.4海里の地点において、同じ針路、同じ速力のまま、その右舷船首部に政美丸の船首が前方から36度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力5の北西風が吹き、潮候は下げ潮の中央期で、衝突地点付近には110度方向に流れる1.8ノットの黒潮があった。
また、政美丸は、船体後部に操舵室を有し、同室又は船尾甲板で舵柄によって操舵可能な一本釣り漁業に従事する木造の漁船で、平成10年12月8日に交付された一級小型船舶操縦士の免状を有するB受審人が1人で乗り組み、引き縄漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同15年3月26日04時30分和歌山県見老津漁港を発し、潮岬南西方約12海里の漁場に至り操業を開始した。
政美丸の操業方法は、約4ノットの対水速力で9本の縄を引くもので、船体中央部から各舷に長さ9メートルの棒を張り出し、その外側から3メートル間隔で長さ15メートルの縄2本と長さ8メートルの縄1本をそれぞれ流し、船尾端中央に長さ30メートルの縄1本と、両舷に長さ5メートルの縄各1本を流して行うものであった。
B受審人は、普段、船舶往来の少ない見老津沖1海里付近で操業を終えて引き縄揚収作業を行うことにしていたが、久しぶりに鰹約100キログラムを漁獲したことから、早い時間の競りに間に合うよう早めに操業を打ち切り、帰途に就くことにした。
B受審人は、引き縄を流したまま、操舵室中央に立ち、12時25分潮岬灯台から242度4.9海里の地点において、針路を326度に定め、機関を全速力前進にかけ、黒潮に抗して5.6ノットの速力で、右方に11度圧流されながら、見老津漁港に向けて進行した。
12時45分B受審人は、潮岬灯台から263度5.1海里の地点において、操舵室から船尾甲板に移動し、後方を向いて引き縄揚収作業にあたり、適宜、船尾甲板で舵柄をとって進行した。
12時52分B受審人は、潮岬灯台から270度5.3海里の地点に達したとき、左舷船首22度1,550メートルのところに、前路を右方に横切る態勢の冨士福丸を視認でき、その後、同船が衝突のおそれのある態勢で自船の進路を避けることなく接近する状況となったが、前路に支障となる船舶はいないものと思い、引き縄揚収作業に没頭して前路の見張りを行っていなかったので、この状況に気付かず、警告信号を行わず、間近に接近しても衝突を避けるための協力動作をとらずに続航中、政美丸は、同じ針路、同じ速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、冨士福丸は右舷船首部外板に擦過傷を生じ、政美丸は船首部を圧壊して廃棄処分され、B受審人は、頭部打撲及び挫創、左肘及び左腰部打撲等の傷を負った。
(原因)
本件衝突は、潮岬西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれのある態勢で接近中、冨士福丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る政美丸の進路を避けなかったことによって発生したが、政美丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人が、一面に覆われた白波に漁船が紛れ易い海面状況下、潮岬西方沖合を東行する場合、周辺海域には小型漁船が存在することを知っていたのであるから、右舷方から接近する政美丸を見落とさないよう、双眼鏡を利用するなどして見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷船首方の反航船に気をとられ、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を左方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する政美丸に気付かず、同船の進路を避けることなく、同船との衝突を招き、冨士福丸の右舷船首部外板に擦過傷を生じさせるとともに政美丸の船首部を圧壊させ、B受審人に頭部打撲及び挫創、左肘及び左腰部打撲等の傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人が、見老津漁港に向けて潮岬西方沖合を北上する場合、左舷方から接近する冨士福丸を見落とさないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、前路に支障となる他船はいないものと思い、引き縄の揚収作業に没頭し、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路を右方に横切り衝突のおそれのある態勢で接近する冨士福丸に気付かず、警告信号を行うことも、衝突を避けるための協力動作をとることもせず、同船との衝突を招き、前示の損傷を生じさせ、自ら負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。