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平成16年横審第36号
件名

貨物船第二十一蛭子丸漁船第十二大栄丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月30日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(竹内伸二)

副理事官
河野 守

受審人
A 職名:第二十一蛭子丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)  
C 職名:第十二大栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第二十一蛭子丸一等機関士

損害
第二十一蛭子丸・・・右舷側外板に凹損及びハンドレールの一部に曲損
第十二大栄丸・・・船首部を圧壊

原因
第二十一蛭子丸・・・見張り不十分、横切り船の航法(避航動作)不遵守 (主因)
第十二大栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、横切り船の航法(協力動作)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、第二十一蛭子丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る第十二大栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、第十二大栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月25日13時00分
 愛知県常滑港西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 第二十一蛭子丸 第十二大栄丸
総トン数 299トン 12トン
全長 50.63メートル  
登録長   14.94メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 588キロワット  
漁船法馬力数   160

3 事実の経過
 第二十一蛭子丸(以下「蛭子丸」という。)は、徳島県今切港から名古屋港へ苛性ソーダを輸送する船尾船橋型液体化学薬品ばら積船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.6メートル船尾3.6メートルの喫水をもって、平成15年10月25日11時40分名古屋港を発し、今切港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を自らと一等航海士、機関長及びB指定海難関係人による単独の4直3時間交替制とし、無資格者には、できるだけ広い海域で同当直を行わせ、接近する他船を見て不安を感じたら速やかに報告するよう指示していた。
 出港操船を終えたA受審人は、自ら船橋当直にあたり、レーダーをスタンバイとして名古屋港東航路を南下し、12時20分同航路南口付近を航行中、昼食を済ませて昇橋したB指定海難関係人に、商船や漁船などの航行船舶が多い伊勢湾で同当直を行わせることとしたが、同人がそれまで約8年間蛭子丸に乗り組み、同当直の経験が長いのであえて注意するまでもないと思い、前路の見張りを十分に行うよう指示することなく、同人に船橋当直を引き継ぎ、食堂に赴いて昼食をとり始めた。
 交替後B指定海難関係人は、伊勢湾南部の桃取水道北口まで単独の船橋当直を行う予定で、レーダーをスタンバイとしたまま手動操舵により航行し、12時38分伊勢湾第6号灯浮標を左舷側600メートルに航過したとき、建設中の中部国際空港沖合に前路を右方に横切る態勢で北上する土運船押船列と、船尾方約3海里に名古屋港東航路を南下する総トン数約1万トンの大型貨物船を認め、その後これら両船の動向に留意しながら知多半島西岸沖合を南下した。
 12時45分B指定海難関係人は、常滑港南防波堤灯台(以下「南防波堤灯台」という。)から295度(真方位、以下同じ。)4.3海里の地点で、針路を173度に定め、機関を全速力前進にかけ、手動操舵のまま10.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 定針したときB指定海難関係人は、中部国際空港南西方沖合を北西方に航行中の第十二大栄丸(以下「大栄丸」という。)を視認し、間もなく同船が前路を右方に横切ったのを見て、そのまま四日市方面に向かうものと判断し、北上を続ける土運船押船列と、航路を出て南下中の大型貨物船とに留意しながら続航した。
 B指定海難関係人は、しばらくたってから大栄丸が右転を始めたことに気付かず、12時51分半南防波堤灯台から280度3.8海里の地点で、土運船押船列が右舷側400メートルを航過したとき、針路を伊勢湾第5号灯浮標西方1,400メートルに向く178度に転じて自動操舵とし、その後前路に他船を見かけなくなり、航路を出た大型貨物船が増速して自船に接近するのではないかと気になったので、操舵スタンド左舷側に立って船尾方を見ながら進行した。
 12時57分B指定海難関係人は、南防波堤灯台から264度3.7海里の地点に達したとき、右舷船首48度1.0海里に、東行中の大栄丸を視認することができ、その後同船が前路を左方に横切り衝突のおそれがある態勢で接近したが、左舷船尾方の大型貨物船に気を奪われ、前路の見張りを十分に行わなかったので、右舷前方から接近する大栄丸に気付かず、戎井受審人にこのことを知らせないまま、その進路を避けないで続航した。
 13時00分少し前B指定海難関係人は、前方を見て至近に迫った大栄丸に気付き、直ちに主機遠隔操縦ハンドルを中立としたが効なく、13時00分南防波堤灯台から255度3.8海里の地点において、蛭子丸は、原針路、原速力のまま進行中、船首端から約30メートル後方の右舷側に、大栄丸船首が前方から80度の角度で衝突した。
 当時、天候は曇で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 食事をしていたA受審人は、機関の振動変化で減速に気付き、間もなく衝突の衝撃を感じ、直ちに昇橋して大栄丸と衝突したことを知り、事後の措置にあたった。
 また、大栄丸は、船びき網漁業に従事するFRP製漁船で、網船2隻と船団を組んで操業するものの、専ら漁獲物運搬と魚群探索にあたり、平成2年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したC受審人が単独で乗り組み、翌日の操業に備え、魚群探索を行う目的で、船首0.20メートル船尾1.65メートルの喫水をもって、同15年10月25日08時30分愛知県大浜漁港を発し、魚群探索を行いながら知多湾を南下したあと、知多半島南端をう回して伊勢湾に入り、航行船舶が往来する同半島西岸沖合を北上した。
 C受審人は、レーダーを3海里レンジで使用していたもののほとんど映像を見ることをせず、操舵室中央の舵輪後方に立って専ら同室右舷前部に設置した魚群探知機の映像を監視し、時々顔を上げて周囲の状況を確かめ、2ないし3海里直進するごとに針路を転じて蛇行しながら魚群探索を行った。
 12時45分ごろC受審人は、中部国際空港沖合を北西方に直進していたとき、伊勢湾シーバース南東方約1.5海里を南下していた蛭子丸の前方を西方に横切ったが、魚群探知機の映像を見ていたので同船に気付かないまま、しばらく直進したあと右に針路を転じながら魚群探索を続け、同時57分南防波堤灯台から256度4.5海里の地点に達したとき、針路を078度に定め、全速力の20.0ノットより減速して15.0ノットの速力で進行した。
 定針したときC受審人は、左舷船首32度1.0海里に蛭子丸を視認することができ、その後同船が前路を右方に横切り衝突のおそれがある態勢となり、避航動作をとらないまま間近に接近したが、魚群探知機の映像監視に気を奪われ、頻繁に周囲を見るなどして、前路の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行わず、さらに接近しても衝突を避けるための協力動作をとることなく続航した。
 13時00分わずか前C受審人は、ふと顔を上げて前方を見たとき、至近に迫った蛭子丸を認め、直ちに機関を後進にかけたが効なく、大栄丸は、原針路、原速力のまま前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、蛭子丸は、右舷側外板に凹損及びハンドレールの一部に曲損を生じ、大栄丸は船首部を圧壊した。 

(原因)
 本件衝突は、愛知県常滑港西方沖合において、両船が互いに進路を横切り衝突のおそれがある態勢で接近中、南下中の蛭子丸が、見張り不十分で、前路を左方に横切る大栄丸の進路を避けなかったことによって発生したが、魚群探索を行いながら東行中の大栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
 蛭子丸の運航が適切でなかったのは、船長が無資格の船橋当直者に対し、前路の見張りを十分に行うよう指示しなかったことと、同当直者が前路の見張りを十分に行わなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、航行船舶が多い伊勢湾で無資格のB指定海難関係人に船橋当直を行わせる場合、前路の見張りを十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかし、同受審人は、B指定海難関係人が同当直の経験が長いのであえて注意するまでもないと思い、同指定海難関係人に対し、前路の見張りを十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同指定海難関係人が前路の見張りを十分に行わなかったので右舷船首方から接近する大栄丸に気付かず、その進路を避けないで進行して同船との衝突を招き、蛭子丸の右舷外板に凹損等を生じさせるとともに、大栄丸の船首部を圧壊させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、航行船舶が往来する知多半島西岸沖合において、蛇行しながら魚群探索にあたる場合、南下する蛭子丸を見落とさないよう、頻繁に周囲を見るなどして、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、魚群探知機の映像監視に気を奪われ、頻繁に周囲を見るなどして、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、蛭子丸が避航動作をとらないまま間近に接近したことに気付かず、警告信号を行うことも衝突を避けるための協力動作をとることもしないで同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、単独で船橋当直に従事して愛知県常滑港沖合を南下中、前路の見張りを十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。


参考図
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