(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年2月19日09時27分
静岡県浜名港南方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
貨物船第十八神山丸 |
漁船第二哲丸 |
総トン数 |
497トン |
2.1トン |
全長 |
66.00メートル |
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登録長 |
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7.68メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
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漁船法馬力数 |
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45 |
3 事実の経過
第十八神山丸(以下「神山丸」という。)は、船首部にジブクレーンを備えた鋼製砂利運搬船で、A受審人が船長としてほか3人と乗り組み、岩塩1,500トンを積載し、船首3.3メートル船尾4.8メートルの喫水をもって、平成16年2月18日20時15分京浜港横浜区を発し、名古屋港に向かった。
A受審人は、翌19日06時30分ごろ御前埼灯台を航過し、08時30分舞阪灯台から127度(真方位、以下同じ。)11.5海里の地点で、針路を270度に定め、機関を全速力前進にかけ、10.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
A受審人は、09時18分舞阪灯台から171度7.0海里の地点に達したとき、名古屋港の資料を読むこととし、周囲を一瞥(いちべつ)して右舷側数海里に4ないし5隻の停留している漁船群を認めたものの、折から風向とうねりの方向が逆になって白波が発生していたこともあり、左舷船首1度1.5海里に漂泊中の第二哲丸(以下「哲丸」という。)に気付かないまま、操舵室後部左舷側の海図台に向かい、船首を背にして立ち同資料を読み始めた。
09時22分A受審人は、正船首方1,550メートルのところに哲丸を視認することができ、同船が船首を南に向け、方位の変わらない状態などから漂泊していることが分かり、同船に向首し衝突のおそれのある態勢で接近していたが、右舷側の前示漁船群のほかに支障となる他船はいないものと思い、依然後方の海図台を向いたまま、前路の見張りを十分に行うことなく、同船に気付かずにこれを避けないまま続航した。
A受審人は、09時25分哲丸が正船首方620メートルとなったものの、このことに気付かずに続航中、09時27分舞阪灯台から183度6.8海里の地点において、神山丸は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部が哲丸の左舷船首に、直角に衝突した。
当時、天候は晴で風力2の西風が吹き、視界は良好であった。
A受審人は、衝突に気付かないまま続航中、付近で操業中の哲丸の僚船に事実を知らされて現場に引き返し、事後の措置に当たった。
また、哲丸は、長さ7.68メートルのFRP製漁船で、B受審人(平成16年2月二級小型船舶操縦士(5トン限定)と特殊小型船舶操縦士免許に更新)が1人で乗り組み、ふぐ漁の目的で、船首0.3メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、同日06時10分静岡県鷲津漁港を発し、同県浜名港南方7海里ほどの漁場に向かった。
ところで、B受審人の行うふぐ漁は、通称手じ漁と呼ばれ、直径2ミリメートル(以下「ミリ」という。)長さ400メートルのみち糸に、直径1ミリ長さ2メートルの枝糸と針を7.5メートル間隔に50本取り付け、針に3分ほどで餌(えさ)のいわしを付けたのち、正船尾からみち糸を投縄し、20ないし30分待った後、30分ほどで揚縄を終えるもので、1回の操業に約1時間を要するものであった。
B受審人は、目指す漁場が船舶交通の輻輳(ふくそう)する海域であることを知っていたところ、同漁場に至り船首を180度に向けて操業を始め、09時22分前示衝突地点付近において、右舷船尾甲板上で左舷船尾方を向き、機関を中立として時折後進に掛け、手でみち糸を引き寄せながら3回目の揚縄を行っていたとき、左舷正横1,550メートルに、神山丸が、自船に向首し衝突のおそれがある態勢で接近していたが、貨物船が接近すれば僚船が無線で知らせてくれるものと思い、揚縄に専念していて、左舷正横方の見張りを十分に行うことなく、神山丸の接近に気付かずに漂泊を続けた。
B受審人は、揚縄に引き続き、左舷船尾方を向いて餌を付ける作業を始め、その後神山丸が、自船を避けないまま更に接近したものの、依然見張り不十分でこのことに気付かず、有効な音響による信号を行うことも、速やかに機関を使用して移動するなどの衝突を避けるための措置をとることもしないで漂泊を続け、哲丸は前示のとおり衝突した。
衝突の結果、神山丸は右舷船首部に擦過傷を生じ、哲丸は右舷側から転覆して沈没し、のち全損処理され、B受審人が両手に3日間の通院加療を要する擦過傷等を負った。
(原因)
本件衝突は、静岡県浜名港南方沖合において、神山丸が、見張り不十分で、漂泊中の哲丸を避けなかったことによって発生したが、哲丸が、見張り不十分で、有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、単独で船橋当直に当たり、静岡県浜名港南方沖合を西航する場合、漂泊中の哲丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、右舷側の漁船群のほかには支障となる他船はいないものと思い、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、哲丸に気付かず、同船を避けないまま進行して衝突を招き、神山丸の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、哲丸を転覆、沈没させて坂受審人に3日間の通院加療を要する両手擦過傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、静岡県浜名港南方沖合において漂泊してふぐ漁を行う場合、付近は船舶交通の輻輳する海域であったから、接近する神山丸を見落とすことのないよう、左舷正横方の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、貨物船が接近すれば僚船が無線で知らせてくれるものと思い、左舷正横方の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、神山丸が自船を避けずに接近していることに気付かないまま漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷及び転覆、沈没を生じさせ、自身も負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。