(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年11月3日07時54分
京浜港横浜区
2 船舶の要目
船種船名 |
油送船日宝丸 |
貨物船翔陽丸 |
総トン数 |
999トン |
497トン |
全長 |
79.70メートル |
76.22メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
1,471キロワット |
1,323キロワット |
3 事実の経過
日宝丸は、船尾船橋型油送船で、A受審人ほか7人が乗り組み、灯油1,370キロリットル及び軽油1,170キロリットルを積載し、揚荷の目的で、船首4.5メートル船尾5.4メートルの喫水をもって、平成15年11月3日07時30分京浜港横浜区の大黒防波堤東灯台から066度(真方位、以下同じ。)2,120メートルの錨泊地点を発し、同港横浜区第3区の大東通商1号桟橋に向かった。
A受審人は、抜錨時から霧のため視界制限状態であるのを認め、所定の灯火を表示したものの霧中信号を行わず、また、着桟まで短時間の航程であったので、平素のとおり1人で船橋当直にあたり、横浜シーバースを右舷正横約200メートルに見て南下したのち、横浜航路入り口に向けて西進した。
07時48分ごろA受審人は、横浜航路入り口まで約0.8海里になったとき、左舷側に進路の交差する同航船を認めたことから右転して同航路北側の検疫錨地に向け、同時51分大黒防波堤西灯台(以下「大黒西灯台」という。)から098度1,660メートルの地点に達したとき、針路を275度に定め、機関を微速力前進にかけ、6.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、操舵室中央で舵輪後方に立って手動操舵により進行した。
定針したときA受審人は、1.5海里レンジとしていたレーダーにより、左舷船首6度820メートルに翔陽丸の映像を認めることができ、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、舵輪の左方に操舵位置から1メートルばかり離れて設置されているレーダーを一瞥(いちべつ)して支障になる他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、翔陽丸に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めることもせず、肉眼で周囲の見張りを行いながら本牧信号所とVHF連絡をとるなどして続航中、同時53分ごろ翔陽丸の発した汽笛を聞いて左舷前方300メートルばかりに接近した同船を初認し、危険を感じて急ぎ右舵一杯をとり機関を後進にかけたが及ばず、07時54分大黒西灯台から099度1,070メートルの地点において、日宝丸は、約3ノットの速力で315度に向首したとき、その船首が翔陽丸の右舷船首部に前方から75度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力1の北北東風が吹き、視程は約500メートルで、潮候は上げ潮の初期であった。
また、翔陽丸は、鋼材輸送に従事する船尾船橋型貨物船で、B受審人ほか4人が乗り組み、鋼材1,464キロトンを積載し、揚荷の目的で、船首3.42メートル船尾4.67メートルの喫水をもって、同日07時50分京浜港横浜区検疫錨地内の大黒西灯台から098度820メートルの錨泊地点を発し、同区ジェーエフイースチール扇島製品バースに向かった。
B受審人は、抜錨時から1人で船橋当直に就き、180度に向首して抜錨後、鶴見航路の入り口に向けて060度の針路とする予定で、機関を微速力前進にかけ、3.5ノットの速力で、操舵室ほぼ中央に立ち舵角約35度をとって左回頭を始めた。そして、霧のため視界制限状態であるのを認めて所定の灯火を表示したものの霧中信号を行わず、船橋に見張り員を配置するなどしなかった。
07時51分B受審人は、大黒西灯台から105度870メートルの地点で左回頭中、120度に向首したとき、1.5海里及び0.75海里レンジとしていた各レーダーで、左舷船首31度820メートルのところに、日宝丸の映像を認めることができ、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、コンパスを見て回頭することに専念し、見張り員を昇橋させてレーダー監視に当たらせるなどレーダーによる見張りを十分に行わなかったので、日宝丸に気付かず、必要に応じて行きあしを止めないまま回頭を続けた。
07時52分B受審人は、大黒西灯台から105度950メートルの地点で、060度に針路を定めて進行中、同時52分少し過ぎ右舷船首25度480メートルのところに日宝丸を視認し、長一声を吹鳴して機関を中立とし、さらに接近することから危険を感じ、短音を連吹して機関後進としたが及ばず、翔陽丸は、原針路のまま、ほぼ停止して前示のとおり衝突した。
衝突の結果、日宝丸は、船首部外板及びハンドレールに凹損、曲損などを生じ、翔陽丸は、右舷船首部外板に破口を伴う凹損を生じたが、のち修理された。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界が制限された京浜港横浜区において、日宝丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張り不十分で、翔陽丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、翔陽丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張り不十分で、日宝丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、霧のため視界が制限された京浜港横浜区の錨地から揚荷桟橋に向け進行する場合、前方の翔陽丸を早期に探知できるよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーを一瞥して支障になる他船はいないものと思い、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、翔陽丸に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して衝突を招き、日宝丸の船首部外板及びハンドレールに凹損、曲損などを、翔陽丸の右舷船首部外板に破口を伴う凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、霧のため視界が制限された京浜港横浜区の錨地を発し、揚荷バースに向け進行する場合、前方の日宝丸を早期に探知できるよう、見張り員をレーダー監視に当たらせるなどレーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、コンパスを見て回頭することに専念し、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、日宝丸に気付かず、必要に応じて行きあしを止めないまま進行して衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。