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平成16年横審第13号
件名

遊漁船光進丸漁船佐藤丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月26日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(岩渕三穂、安藤周二、西田克史)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:光進丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
光進丸・・・船首部に擦過傷と魚群探知機センサーに曲損
佐藤丸・・・右舷側後部外板に破口等を生じて浸水 、船長が溺死

原因
光進丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、光進丸が、見張り不十分で、漂泊状態の佐藤丸の至近から、同船に向けて転針したことによって発生したものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年12月5日06時34分
 千葉県金谷漁港西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船光進丸 漁船佐藤丸
総トン数 3.85トン 0.82トン
全長 12.50メートル  
登録長   3.80メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 136キロワット  
漁船法馬力数   30

3 事実の経過
 光進丸は、船首に突き出し部を備えたFRP製小型遊漁兼用船で、A受審人(昭和50年9月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、釣り客3人を乗せ、船首0.4メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、平成14年12月5日06時30分千葉県金谷漁港を発し、同港北西方沖合1.6海里ほどの釣り場に向かった。
 ところで、光進丸は、機関の回転数毎分2,000として航行すると、船首が浮上して突き出し部により、正船首から左12度右15度の範囲に死角(以下「船首死角」という。)を生じていた。
 A受審人は、操舵室左側の開閉窓を開け、同室左舷側の椅子に腰を掛けて見張りと操舵に当たり、金谷港第1防波堤を替わったところで先航する僚船を認めてこれに続くこととし、06時32分半少し過ぎ金谷港第1防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から282度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点で、針路を295度に定め、機関を全速力前進にかけ、回転数毎分2,000として11.2ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 定針したときA受審人は、操舵室前面2枚の窓のうち、アクリル板製の右側の窓から右舷船首方を見たものの、同板の劣化により無数のひびが入り見えにくくなっていたことや、冬期の港口付近で操業する漁船をほとんど見かけなかったこともあり、右舷船首21度430メートルに漂泊状態の佐藤丸に気付かなかった。
 A受審人は、06時33分半少し前防波堤灯台から289度430メートルの地点に達し、針路を僚船とほぼ同じ337度に転じて同船を左舷船首方120メートルのところに見る態勢となったとき、右舷船首2度230メートルのところに、佐藤丸が、右舷側を見せて漂泊状態でおり、同針路で進行すれば同船を約20メートル離して無難に航過する態勢であったが、自船より速力の遅い僚船に接近することから、同船との船間距離に気を取られ、身体を左右に動かすなどの船首死角を補う見張りを十分に行うことなく、同死角に入った佐藤丸に気付かずに続航した。
 06時34分わずか前A受審人は、右舷船首方40メートルとなった佐藤丸に気付かないまま、僚船が30メートルに迫ったので、同船の右舷側を十分に離して航過するつもりで右舵5度を取って回頭中、06時34分防波堤灯台灯台から307度600メートルの地点において、光進丸は、000度に向首したとき、原速力のまま、その船首が佐藤丸の右舷側後部に直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、潮候は高潮時に当たり、視界は良好で、日出は06時33分であった。
 A受審人は、船体の衝撃で衝突に気付き、事後の措置に当たった。
 また、佐藤丸は、通称ベカ船と呼ばれているFRP製漁船で、佐藤船長が1人で乗り組み、かさご延縄漁の目的で、同日05時00分金谷漁港を発し、前示衝突地点付近の漁場に向かった。
 ところで、佐藤丸のかさご延縄漁は、直径3ミリメートル長さ100メートルのクレモナロープ製幹縄に1.5メートル間隔にハリスの付いた枝縄を取り付け、両端に錘(おもり)と旗ざお標識を付けたものを1かごの仕掛けとして全部で8ないし10かごの仕掛けを使用し、日出前に投縄して水深5ないし10メートルの海底に幹縄をはわせ、日出後揚縄するもので、1日に1回操業して07時30分ごろ帰航するものであった。
 B船長は、受有する一級小型船舶操縦士免許証を有効期間満了日以降更新せず、また、佐藤丸の漁船登録免許を期限切れ以降更新せず、いずれも失効状態となっていた。
 B船長は、05時10分漁場に至り、船尾部物入れのさぶたの上に腰を掛けて船首方向を向き、同物入れに救命胴衣を収納したままこれを着用せずに1かご目の仕掛けを投入後、岩礁地帯のポイントを見ながら10かごを投縄し終え、06時28分ごろより左舷側から幹縄を両手で引き寄せて揚縄を始め、北東ないし東に向首し、時折機関を前進に掛けてわずかな移動速力で揚縄を続行中、佐藤丸は、090度を向いた漂泊状態で、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、光進丸は船首部に擦過傷と魚群探知機センサーに曲損を生じ、佐藤丸は右舷側後部外板に破口等を生じて浸水し、B船長(一級小型船舶操縦士免許受有)が海中に転落して溺死するに至った。 

(原因)
 本件衝突は、千葉県金谷漁港西方沖合において、釣り場に向け北上する光進丸が、見張り不十分で、右舷側に航過する態勢であった漂泊状態の佐藤丸の至近から、同船に向けて転針したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、千葉県金谷漁港西方沖合において、釣り場に向け北上する場合、船首が浮上して突き出し部により死角を生じていたのであるから、漂泊状態の佐藤丸を見落とすことのないよう、身体を左右に動かすなどの船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷船首方の先航する僚船との船間距離に気を取られ、身体を左右に動かすなどの同死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、右舷船首方の佐藤丸に気付かず、同船の至近で右転して衝突を招き、光進丸の船首部に擦過傷及び魚群探知機センサーに曲損を、佐藤丸の右舷側後部外板に破口等をそれぞれ生じさせ、佐藤船長を溺死させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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