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平成16年函審第42号
件名

漁船幸栄丸漁船第十七正徳丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年8月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(野村昌志、黒岩 貢、古川隆一)

理事官
山田豊三郎

受審人
A 職名:幸栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:第十七正徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
幸栄丸・・・右舷船首外板に破口を生じて浸水、のち沈没して全損
第十七正徳丸・・・船首部外板に亀裂などの損傷

原因
第十七正徳丸・・・船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
幸栄丸・・・見張り不十分、警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第十七正徳丸が、前路で漂泊中の幸栄丸を避けなかったことによって発生したが、幸栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成16年3月26日04時15分
 青森県尻屋埼北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船幸栄丸 漁船第十七正徳丸
総トン数 11.78トン 9.7トン
全長 17.20メートル 17.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 367キロワット 330キロワット

3 事実の経過
 幸栄丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、A受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み、ほっけ漁の目的で、船首1.0メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成16年3月26日00時00分北海道尾札部漁港を発し、航行中の動力船が表示する灯火を掲げ、尻屋埼北方12海里ばかりの漁場に向かった。
 ところで、前示漁場付近には、常時約2ノットの東流があり、ほっけ底刺網漁の投網及び揚網は、この流れに乗じ、東方に向かって行われていた。
 02時30分A受審人は、漁場に至り、03時00分全長7キロメートルばかりの底刺網を東方に向けて投網し始め、同時30分投網を終えて刺網の西端付近に向けて西進し、04時00分同西端付近の尻屋埼灯台から013.0度(真方位、以下同じ。)10.7海里の地点に至り、揚網開始までしばらく待機することとし、機関を停止して船首を北に向け、折からの東流及び西風により、東方へ3.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で圧流されながら漂泊を開始した。
 A受審人は、漂泊開始直後から操舵室中央にある舵輪後方のいすに腰を下ろして単独の船橋当直に就き、04時10分尻屋埼灯台から015.5度10.8海里の地点に達し、船首が000度を向いていたとき、右舷正横900メートルに第十七正徳丸(以下「正徳丸」という。)の掲げる白、紅及び緑3灯を視認することができ、その後同船が衝突のおそれのある態勢で自船に向首接近していることを認め得る状況であったが、接近する他船があっても漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、時折GPSの画面などを見ながら漂泊を続けた。
 04時14分A受審人は、尻屋埼灯台から016.5度10.9海里の地点に至ったとき、正徳丸が自船を避けないまま同方位190メートルまで接近したが、警告信号を行うことも、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊中、04時15分尻屋埼灯台から017.0度10.9海里の地点において、幸栄丸は、000度を向首したその右舷船首部に正徳丸の船首部が直角に衝突した。
 当時、天候は曇で風力5の西風が吹き、視界は良好で、衝突地点付近には約2ノットの東流があった。
 また、正徳丸は、刺網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み、ほっけ漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同日00時00分尾札部漁港を発し、航行中の動力船が表示する灯火を掲げ、幸栄丸を含む僚船11隻とともに尻屋埼北方12海里ばかりの漁場に向かった。
 03時ごろB受審人は、漁場に至り、同時15分幸栄丸が設置した刺網の南側に沿って底刺網の投網を開始し、同時35分投網を終え、しばらく漂泊して揚網用ドラムの交換作業を行ったのち、同時57分尻屋埼灯台から021.5度11.2海里の地点において、刺網の西端付近に向けて発進し、針路を270度に定め、折からの東流及び西風に抗して3.0ノットの速力で進行した。
 発進したときB受審人は、正船首に西進中の幸栄丸の灯火を視認し、04時10分尻屋埼灯台から018.0度11.0海里の地点に至り、同船の白、緑2灯を正船首900メートルに認め、その灯火模様などから、幸栄丸が漂泊を開始したことを知り、衝突のおそれのある態勢で同船に向首接近したが、自船も幸栄丸付近で漂泊するつもりであったことから、そのまま続航した。
 04時14分B受審人は、尻屋埼灯台から017.5度10.9海里の地点に達し、幸栄丸に190メートルまで接近したとき、波の谷間に入った同船の灯火を見失ったが、直前に幸栄丸の灯火を右舷船首方に認めていたことから、このままでも幸栄丸を右舷方に替わせるものと思い、直ちに行きあしを止めて同船を避けることなく、刺網西端の標識灯を探そうと右舷方ばかり見て進行中、正徳丸は、原針路原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、幸栄丸は、右舷船首外板に破口を生じて浸水し、全乗組員が正徳丸に移乗したのち沈没して全損となり、正徳丸は、船首部外板に亀裂などを生じた。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、青森県尻屋埼北方沖合において、正徳丸が、前路で漂泊中の幸栄丸を避けなかったことによって発生したが、幸栄丸が、見張り不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、夜間、青森県尻屋埼北方沖合において、前路で漂泊中の幸栄丸に接近中、間近の同船を見失った場合、直ちに行きあしを止めて幸栄丸を避けるべき注意義務があった。しかるに、同人は、直前に幸栄丸を右舷船首方に認めていたことから、このままでも同船を右舷方に替わせるものと思い、直ちに行きあしを止めて幸栄丸を避けなかった職務上の過失により、幸栄丸に向首したまま進行して同船との衝突を招き、幸栄丸の右舷船首部外板に破口を生じて沈没させ、正徳丸の船首部外板に亀裂などを生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人は、夜間、青森県尻屋埼北方沖合において漂泊する場合、接近する他船を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、接近する他船があっても漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、正徳丸の接近に気付かず、警告信号を行わず、機関を使用して衝突を避けるための措置をとることなく同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:15KB)





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