(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年10月5日15時10分
沖縄県沖縄島名護湾
2 船舶の要目
船種船名 |
プレジャーボート山田丸 |
全長 |
2.86メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
89キロワット |
船種船名 |
プレジャーボート1100ゼットエックスアイ |
登録長 |
2.35メートル |
機関の種類 |
電気点火機関 |
出力 |
88キロワット |
3 事実の経過
山田丸は、ウォータージェット推進方式、幅1.01メートル、深さ0.40メートルの2人乗りFRP製水上オートバイで、操縦免許を取得していないA指定海難関係人が1人で乗船し、航走を楽しむ目的で、平成15年10月5日15時05分沖縄県名護市安和地区にある砂浜(以下「安和砂浜」という。)を1100ゼットエックスアイ(以下「ゼ号」という。)とともに発し、沖に向かった。
ところで、安和砂浜は、沖縄島本部半島南西岸にある干上がった穴窪川の河口から西方に約300メートル延びる名護湾に面した砂浜で、同河口の東側には、離れ岩などを利用した埋立地が南方に向けて約50メートル張り出していた。
また、A指定海難関係人は、13時ごろB受審人とともに安和砂浜に到着して友人十数人のグループに合流し、14時ごろから有資格者が操縦する水上オートバイに同乗してその操縦方法を習うなどしたのち、操縦免許を取得していなければ水上オートバイを操縦できないことを知っていたが、付近に遊泳者などもいないことから、短時間の航走予定で穴窪川河口近くから前示のとおり発航したものであった。
A指定海難関係人は、B受審人が操縦するゼ号とともに沖に向けて航走し、350メートル沖で反転したのち、安和砂浜の50メートル沖にあたる、安和地区の三角点(標高40メートル)から084.5度(真方位、以下同じ。)750メートルのところにある埋立地南西端から278度120メートルの地点で、一旦停止し、その脇に止まったB受審人と雑談をかわしたのち、15時09分わずか過ぎゼ号に先立って同地点を発進した。
A指定海難関係人は、その後安和砂浜の約10メートル沖に至ったところで右に急旋回し、同砂浜に沿って東進しながら発航地点の沖に戻ったものの、もうしばらく航走を続けることとし、15時09分54秒埋立地南西端から316度68メートルの地点で、沖に向けて再度右に急旋回を始め、ほぼ同南西端付近に向首したところで操縦ハンドルを少し右にとった状態に戻し、時速20キロメートルで南下した。
こうして、A指定海難関係人は、15時09分55秒埋立地南西端から319.5度64メートルの地点に達し、船首が120度に向いたとき、右舷船首70度約30メートルのところに、東進するゼ号を視認することができ、その後同号と衝突のおそれのある態勢で互いに接近していることが分かる状況であったが、付近で航走している他船はゼ号だけであったことから、山田丸の操縦に専念し、埋立地西岸付近に存在する暗礁を避けるつもりで左舷船首方に目を向けるなど、右舷方の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、直ちにスロットルレバーを離して停止するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
A指定海難関係人は、15時09分58秒埋立地南西端から325度48メートルの地点で、船首が127度に向いたとき、ゼ号が右舷船首33度17メートルのところに接近していたものの、依然として見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かないまま続航し、その直後、同号のあげた水しぶきで船首至近に迫ったゼ号を認め、慌てて操縦ハンドルを右にとったものの及ばず、山田丸は、15時10分埋立地南西端から328度37メートルの地点において、船首が152度に向いたとき、原速力のまま、その船首がゼ号の右舷中央部に前方から19度の角度で衝突した。
当時、天候は晴で風力4の北北東風が吹き、潮候は上げ潮の末期であった。
また、ゼ号は、ウォータージェット推進方式、幅0.98メートル、深さ0.39メートルの2人乗りFRP製水上オートバイで、平成14年6月に四級小型船舶操縦士免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、航走を楽しむ目的で、前示砂浜を山田丸とともに発して沖に向かった。
B受審人は、埋立地南西端から278度120メートルの地点で、一旦停止してA指定海難関係人と雑談をかわしたのち、同指定海難関係人の発進を見送り、しばらくそこに止まってその航走を見守っていたものの、15時09分45秒同地点を発進し、埋立地南西端付近に向けて時速30キロメートルでスラローム走行を始めた。
B受審人は、15時09分55秒埋立地南西端から291度49メートルの地点に達し、船首が080度に向いたとき、左舷船首70度約30メートルのところに、埋立地南西端に向けて南下する山田丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれのある態勢で互いに接近していることが分かる状況であったが、付近で航走している他船は山田丸だけであり、同船が発航地点付近に向けて航走していたことから、そのまま同地点に戻ったものと思い、埋立地西岸までの距離を目測しながら操縦ハンドルを切る時機を見計らうことに気をとられ、左舷方の見張りを十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、直ちに大きく右転するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行した。
B受審人は、15時09分58秒埋立地西岸の西方約10メートルにあたる、埋立地南西端から316度31メートルの地点に至り、左転しながら船首が080度に向いたとき、左舷正横後10度17メートルのところに山田丸が接近していたものの、依然として見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、時速18キロメートルに減速して左転を続け、ゼ号は、その船首が313度に向いたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、山田丸の左舷船底部に擦過傷、ゼ号の座席などに損傷を生じ、B受審人が右副腎動脈損傷及び右大腿骨骨幹部骨折を負うに至った。
(原因)
本件衝突は、沖縄県沖縄島名護湾において、両船が航走中、山田丸が、有資格者が乗り組まないで運航されたばかりか、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことと、ゼ号が、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったこととによって発生したものである。
(受審人等の所為)
B受審人は、沖縄県沖縄島名護湾において航走する場合、左舷方から接近する山田丸を見落とすことのないよう、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同受審人は、山田丸が発航地点付近に向けて航走していたことから、そのまま同地点に戻ったものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船と衝突のおそれのある態勢で互いに接近していることに気付かず、直ちに大きく右転するなど、衝突を避けるための措置をとることなく進行して衝突を招き、山田丸の左舷船底部に擦過傷、ゼ号の座席などに損傷を生じさせ、自らも右副腎動脈損傷及び右大腿骨骨幹部骨折を負うに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
A指定海難関係人が、名護湾において、無資格のまま単独で山田丸を操縦したばかりか、ゼ号と衝突のおそれのある態勢で互いに接近する状況となった際、見張り不十分で、衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。