日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成16年門審第30号
件名

貨物船シー レンジャー引船No.235ムーン チャン引船列衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月21日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(千手末年、織戸孝治、寺戸和夫)

理事官
半間俊士

指定海難関係人
A 職名:シー レンジャー三等航海士
B 職名:No.235ムーン チャン船長

損害
シ号・・・球状船首の右舷側上部に破口及び同船首から船首ステムの中間部にかけて擦過傷
ム号・・・曳航フックを破損
台船・・・左舷中央前部に破口を伴う凹損及び曳航索に擦過傷

原因
シ号・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
ム号引船列・・・灯火・形象物不表示(台船の舷灯不装備)、警告信号及び注意喚起信号不履行(一因)

主文

 本件衝突は、シー レンジャーが、No.235ムーン チャン引船列の表示する灯火の識別が不十分であったばかりか、動静監視が不十分で、停留中の同引船列を避けなかったことによって発生したが、No.235ムーン チャン引船列が、台船に舷灯を備えなかったばかりか、警告信号を行わず、探照灯で曳航索及び台船を照射するなどして注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年5月17日21時10分
 大分県姫島北東方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船シー レンジャー 引船No.235ムーン チャン
総トン数 3,862トン 111トン
全長 105.61メートル  
登録長   34.21メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,580キロワット 1,176キロワット
船種船名   台船(船名なし)
全長   50.00メートル

3 事実の経過
 シー レンジャー(以下「シ号」という。)は、船尾船橋型の鋼製貨物船で、大韓民国の国籍を有するC船長及びA指定海難関係人ほか同国籍の8人とフィリッピン国籍の6人が乗り組み、鋼材を積む目的で、空倉のまま、船首2.0メートル船尾4.0メートルの喫水をもって、平成15年5月16日01時15分大韓民国インチョン港を発し、福山港に向かった。
 C船長は、船橋当直体制を、航海士3人による4時間交替の3直制とし、当直時間については、0時から4時までを二等航海士、4時から8時までを一等航海士、8時から12時までをA指定海難関係人とし、各当直に甲板手1人をそれぞれ配していた。
 翌17日16時ごろC船長は、関門海峡西口で昇橋して通峡の操船指揮を執り、17時30分過ぎ通峡を終えたのち、夜間命令簿に、見張りを十分に行うこと、注意を要する他船については時間に余裕を持って大きく避航し、危険な状況となる2海里以内まで接近しないようにすること、及びいつでも船長を起こすことの3点を記載して、一等航海士に船橋当直を任せて降橋した。
 19時45分ごろA指定海難関係人は、周防灘航路第3号灯浮標(以下、周防灘推薦航路の灯浮標については冠称を省略する。)の手前2海里ばかりのところで昇橋して自船の法定灯火の点灯状況を確認し、夜間命令簿を読み終えたころ、当直中の一等航海士から、周防灘航路各灯浮標の番号を確認しながらこれに沿って航行し、第6号灯浮標付近は豊後水道から北上する船が航路筋を横切るところなので見張りを厳重に行うことや、疑問が生じたり自信がないときはすぐに船長に連絡するよう指示を受けた。
 20時00分A指定海難関係人は、第3号灯浮標の南側至近の、姫島灯台から293度(真方位、以下同じ。)11.3海里の地点で、一等航海士から針路及び速力を引き継いで船橋当直を交替し、甲板手を見張りに配し、引き続き102度の針路で機関を全速力前進にかけ、10.8ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で自動操舵によって進行した。
 20時48分A指定海難関係人は、姫島灯台から324.5度3.3海里の地点で、6海里レンジとしたレーダーで右舷船首方5.5海里付近にNo.235ムーン チャン(以下「ム号」という。)の映像を探知したが、このとき同船の東側を同航する船舶(以下「第三船」という。)の映像も探知し、その後両船ともに自船の前路を左方に横切る態勢で接近することを知った。
 その後A指定海難関係人は、双眼鏡を使用してム号の複数の白灯及び紅灯を視認したものの、アルパのデータから第三船の速力に比べてム号の速力が遅く、第三船が先に自船と危険な関係となることを知り、その後同船の動向に注意することとし、ム号については接近してから対応するつもりで、レーダーを6海里レンジとしたまま続航した。
 21時01分A指定海難関係人は、姫島灯台から008度2.3海里の地点で、右舷船首21度2.0海里のところに、ム号の白、白、白、紅4灯のほかマストの頂部近くに赤色回転灯を視認でき、同船が引船列を構成していることが分かる状況であったが、第三船の接近が気になり、ム号については灯火を多く表示していることを認めたものの、近づいてから避航すればよいと考え、双眼鏡を使用するなどして、同船の表示する灯火の識別を行わなかったので、この状況に気付かなかった。
 21時04分A指定海難関係人は、第三船と危険な状況となったことから、同船に向けて持ち運び式信号灯を数回点滅したのち、同時04分半少し前姫島灯台から023度2.35海里の地点に達し、同船を右舷前方1.0海里に認めるようになったとき、これを替わすこととし、甲板手を手動操舵に就かせ、針路を122度に転じ、同じ速力で進行した。
 21時05分A指定海難関係人は、姫島灯台から026度2.3海里の地点に達したとき、正船首わずか左方1,650メートルのところにム号の前示灯火を視認でき、このころ同船が停留を開始したことから、同船の南側至近に向首する状況となり、やがて正船首わずか右方にム号が引く台船の閃光灯2灯をも視認でき、同引船列に向かって衝突のおそれがある態勢で接近したが、第三船の動向が気になり、ム号に対する動静監視を十分に行なっていなかったので、このことに気付かなかった。
 21時09分半A指定海難関係人は、第三船が左舷側を替わったとき、ム号との距離がまだ離れていると思って右舷前方のみを見ていたことから、左舷前方至近に視認し得る状況にあったム号の灯火を見落とし、左舵10度を令したところ、右舷前方至近に黒っぽい物体を認め、あわてて自らが舵輪を握って右舵一杯を取ったが、効なく、21時10分姫島灯台から049度2.4海里の地点において、シ号は、原針路、原速力のまま、その船首がム号の船尾端から約72メートル後方の曳航索に前方から31度の角度で衝突し、その直後台船の左舷中央前部に衝突した。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の末期であった。
 また、ム号は、船体中央前部に船橋を設けた鋼製引船で、B指定海難関係人ほか3人が乗り組み、船首尾ともに0.54メートルの喫水となった台船を、自船の曳航(えいこう)フックに取った直径100ミリメートル長さ170メートルの合成繊維索の後端に、台船の船首部両舷側のボラードから出した長さ25メートルのワイヤロープ2本をブライドルに繋いで、ム号の船尾端から台船の後端までの長さが約227メートルの引船列を構成し、同月17日13時30分大分県佐伯港を発し、大韓民国プサン港に向かった。
 B指定海難関係人は、発航するにあたって、台船に舷灯を備えず、台船の船首部及び船尾部の中央甲板上に、高さ3.04メートル及び同1.30メートルの竹竿を立て、その頂部に、船首側が5秒毎に1閃光、船尾側が4秒毎に1閃光する灯火をそれぞれ取り付けていた。そして、両灯火は、乾電池を電源とし、陽光量が減少すると自動的に閃光を発するようになっていた。
 B指定海難関係人は、船橋当直体制を、自らと一等航海士とによる6時間交替の単独2直制とし、当直時間については、5時から11時まで及び17時から23時までを一等航海士が、11時から17時まで及び23時から5時までを自らが執ることとし、予定転針地点で大角度の転針が必要なところや、狭水道及び狭視界時には自分の当直時間外でも昇橋して操船指揮を執るようにしていた。
 17時00分B指定海難関係人は、佐田岬灯台から162.5度7.2海里の地点で、針路を333度に定め、機関を全速力前進にかけ、7.0ノットの速力で進行し、一等航海士に対し、当直中の注意事項と伊予灘西航路第4号灯浮標付近に達したとき知らせるよう指示して船橋当直を引き継ぎ、降橋して休息した。
 20時56分B指定海難関係人は、姫島灯台から073度2.35海里の地点で昇橋し、自船の法定灯火の点灯状況、赤色回転灯1灯及び台船の閃光灯2灯が点灯していることを確認していたところ、一等航海士の報告で左舷船首方3.6海里のところにシ号の白、白、緑3灯を初認し、周防灘航路を東行していることを知り、一等航海士を手動操舵に就かせて進行した。
 21時01分B指定海難関係人は、姫島灯台から059度2.35海里の地点で、シ号の灯火を左舷船首30度2.0海里のところに認め、同船が前路を右方に横切る態勢で接近することを知り、同時03分半同灯台から052度2.35海里の地点に達したとき、シ号を同方位1.3海里に認め、同船と衝突のおそれがある態勢で互いに接近する状況であることを判断しつつ続航した。
 21時04分半B指定海難関係人は、姫島灯台から049度2.4海里の地点に達したころ、シ号が右転して自船に向首したが、このとき前方の他船の動向を注視していて、シ号の右転に気付かず、いったん停留して同船をやり過ごすこととした。
 21時05分B指定海難関係人は、機関のクラッチを中立とし、前示衝突地点のわずか北西方で停留したとき、両舷灯を見せたシ号を左舷前方1,650メートルのところに認め、前後のマスト灯のわずかな開きから自船の左舷方至近に向かっており、引船列と衝突するおそれがあったが、警告信号を行わず、探照灯で曳航索及び台船を照射するなどして注意喚起信号を行うこともなく、接近すれば停留している引船列を替わしてくれるものと思っているうち、更に接近するので、モーターサイレンを吹鳴し、探照灯でシ号を照射したものの、効なく、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、シ号は球状船首の右舷側上部に破口及び同船首から船首ステムの中間部にかけて擦過傷を生じ、ム号引船列はム号の曳航フックを破損し、台船の左舷中央前部に破口を伴う凹損及び曳航索に擦過傷を生じた。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、大分県姫島北東方沖合において、シ号が周防灘推薦航路を東行中、北上するム号引船列の表示する灯火の識別が不十分であったばかりか、同引船列に対する動静監視が不十分で、停留中の同引船列を避けなかったことによって発生したが、ム号引船列が、台船に舷灯を備えなかったばかりか、警告信号を行わず、探照灯で曳航索及び台船を照射するなどして注意喚起信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 
(指定海難関係人の所為)
 A指定海難関係人が、夜間、大分県姫島北東方沖合において、周防灘推薦航路を東行中、北上するム号を視認した際、同船の表示する灯火の識別を十分に行わず、停留中のム号引船列を避けずに進行したことは、本件発生の原因となる。
 A指定海難関係人に対しては、勧告しないが、接近する他船の表示する灯火を十分に識別してその航法上の状態を早期に判断し、衝突防止に努めなければならない。
 B指定海難関係人が、夜間、大分県姫島北東方沖合において、伊予灘西部の推薦航路を引船列を構成して北上中、東行中のシ号との衝突を避けるために停留し、同船がなおも自船の引船列に向かって接近した際、警告信号を行わず、探照灯で曳航索及び台船を照射するなどして注意喚起信号を行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しないが、接近する他船に対し、自船が引船列を構成していることを的確に判断せしめるため、探照灯で船尾方の引船列を照射するなどの注意喚起信号を行うよう努めなければならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:19KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION