(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成16年1月9日10時00分
鹿児島県坊ノ岬西南西方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船海幸丸 |
漁船空我丸 |
総トン数 |
4.9トン |
1.5トン |
全長 |
14.30メートル |
登録長 |
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5.78メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
電気点火機関 |
出力 |
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42キロワット |
漁船法馬力数 |
90 |
3 事実の経過
海幸丸は、操舵室を船体中央やや後部に設けたFRP製漁船で、平成10年3月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が単独で乗り組み、船首0.15メートル船尾1.30メートルの喫水をもって、同16年1月9日06時50分鹿児島県枕崎港を出港し、07時30分同港南方沖合の漁場に至って漂泊し、れんこだいの一本釣り漁を開始した。
A受審人は、次第に北東の風が強くなり、釣果も芳しくなかったことから、坊ノ岬沖合の漁場に移動することとし、09時10分枕崎港東防波堤灯台から186度(真方位、以下同じ。)5.5海里の地点を発し、針路を320度とし、機関を全速力前進よりやや減じた回転数毎分1,500にかけ、10.0ノットの対地速力で手動操舵によって進行した。
ところで、A受審人は、海幸丸が10.0ノットで航行すると船首が浮上し、操舵室床に立った姿勢で操舵に当たるとき、船首方の両舷側にわたって約15度の範囲で水平線が見えなくなる死角を生じることから、平素、同室内を左右に移動したり、両舷側の窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを行っていた。
A受審人は、予定していた坊ノ岬沖合漁場における釣りのポイントを、山立てとGPSの緯度数値との組み合わせで記憶していたところ、09時45分少し前GPSの表示から目的の緯度付近に達したことを知り、西進しながら山立てで同ポイントに至ることとし、同時45分坊ノ岬灯台から182度1.1海里の地点で、針路を279度に定め、同じ速力で続航した。
09時54分A受審人は、坊ノ岬灯台から240.5度1.7海里の地点に達したころ、正船首1.0海里のところに船首を南方に向けた空我丸を視認できる状況となったが、このころから山立てをするために右舷方の陸岸にある山の重なり具合を見ていて、船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、死角に入っていた同船に気付かなかった。
09時58分少し過ぎA受審人は、坊ノ岬灯台から251度2.3海里の地点に達したとき、空我丸を正船首600メートルのところに視認でき、その後同船が漂泊していることが分かり、衝突のおそれがあったが、予定のポイントに近づいていたことから、山立てに夢中になっていて、依然、操舵室内を左右に移動したり、両舷側の窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、10時00分同灯台から255度2.6海里の地点において、海幸丸は、原針路、原速力のまま、その船首が空我丸の左舷中央部に前方から81度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北東風が吹き、視界は良好であった。
また、空我丸は、全長7メートル未満の船体中央部右舷側に操縦席を設けたモーターボート型のFRP製漁船で、船外機を推進器とし、ジェットホーンと称する携帯式の音響信号装置を備えており、B受審人(平成16年6月に一級小型船舶操縦士(5トン限定)と特殊小型船舶操縦士の免許に更新)が単独で乗り組み、船首0.3メートル船尾0.7メートルの喫水をもって、平成16年1月9日07時05分鹿児島県坊泊漁港を発し、同時20分ごろ同漁港の南西方3海里ばかりの漁場に至り、れんこだいの一本釣り漁を開始した。
ところで、B受審人は、電動リール付きの長さ約3メートルの釣竿を船尾部の両舷側にそれぞれ正横方向に設置して竿釣りをするほか、道糸として31番のワイヤロープをリールに巻き込んだ電動釣機を船体中央部の左舷側ブルワーク上に設置し、船体の3箇所で釣りを行えるようにしていた。
B受審人は、漁場を南方に移動しては漂泊して釣りを続け、09時30分水深が130メートルを超える前示衝突地点付近に至り、船首を南方に向けて船外機を停止し、船首から直径10ミリメートルの合成繊維索に繋いだパラシュート型シーアンカーを投入し、同索を10メートルばかり延出してその端を船首部のビットに取って漂泊し、右舷側の竿と電動釣機とによる釣りを再開した。
09時54分B受審人は、船首が180度を向いた状態で、電動釣機の道糸を手で引いて当たりを探っていたとき、左舷船首81度1.0海里のところに来航する海幸丸を初認したが、間もなくして、竿釣りの方に当たりがあったことから、時折、同船の動静を監視しながら、竿の仕掛けの巻き上げを開始した。
09時58分少し過ぎB受審人は、竿の仕掛けを巻き終えたとき、海幸丸が同方位のまま600メートルまで接近したことを認め、衝突のおそれがあることを知ったが、同船が漁模様を聞くために自船に向けているものと思い、警告信号を行わず、その後同船が避航の様子を見せずに更に接近したが、機関を始動し、シーアンカーの索を解き放して移動するなど、衝突を避けるための措置をとることなく、漂泊を続けて電動釣機の仕掛けの巻き上げを開始した。
09時59分半少し過ぎB受審人は、海幸丸が同方位のまま100メートルまで接近したとき、ようやく危険を感じ、首に下げていた笛を短音で連続して吹鳴し、機関を始動しようとしたが、慌てていて始動できず、操縦席の右舷側甲板上を船首方に逃げようとしたとき、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、海幸丸は船首部及び同船底外板に擦過傷を、空我丸は左舷中央部外板に破口を伴う亀裂等を生じて水船となり、海幸丸によって坊泊漁港に引き付けられ、B受審人が衝突の衝撃で海中に投げ出され、胸部打撲傷を負った。
(原因)
本件衝突は、鹿児島県坊ノ岬西南西方沖合において、海幸丸が漁場を移動中、見張り不十分で、前路で漂泊中の空我丸を避けなかったことによって発生したが、空我丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県坊ノ岬西南西方沖合において、漁場を移動する場合、船首浮上により前方に死角を生じていたから、前路の他船を見落とさないよう、操舵室内を左右に移動したり、両舷側の窓から顔を出すなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、釣りのポイントに近づいていたことから、山立てで同ポイントを探すことに夢中になり、船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の空我丸に気付かず、同船を避けないまま進行して空我丸との衝突を招き、海幸丸の船首部及び同船底外板に擦過傷を、空我丸の左舷中央部外板に破口を伴う亀裂等を生じさせて、同船が水船となり、B受審人に胸部打撲傷を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、鹿児島県坊ノ岬西南西方沖合において、一本釣り漁の目的でシーアンカーを投じて漂泊中、衝突のおそれがある態勢で近付く海幸丸を認め、同船が避航の様子を見せず更に接近した場合、機関を始動し、シーアンカーの索を解き放して移動するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、同船が漁模様を聞くために自船に向けているものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により海幸丸との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らが負傷するに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。