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平成16年門審第34号
件名

貨物船第八大平丸貨物船第三大祐丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月15日

審判庁区分
門司地方海難審判庁(織戸孝治、清重隆彦、寺戸和夫)

理事官
半間俊士

受審人
A 職名:第八大平丸船長 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:第三大祐丸船長 海技免許:五級海技士(航海)

損害
第八大平丸・・・右舷中央部に凹損、同部ハンドレールに曲損及び右舷船橋下部に凹損
第三大祐丸・・・左舷船首部に凹損

原因
第八大平丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
第三大祐丸・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守

主文

 本件衝突は、第八大平丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、第三大祐丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月17日05時58分
 瀬戸内海来島海峡
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第八大平丸 貨物船第三大祐丸
総トン数 199トン 198トン
全長 57.07メートル 56.50メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 735キロワット 514キロワット

3 事実の経過
 第八大平丸(以下「大平丸」という。)は、主に西日本の各港間で穀物類の輸送に従事する鋼製貨物船で、A受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首1.1メートル船尾2.6メートルの喫水をもって、平成15年6月16日19時25分関門港を発し、大阪港に向かった。
 A受審人は、船橋当直を全乗組員による輪番制で行うこととしており、翌17日05時10分ごろ愛媛県菊間港北方の安芸灘において、霧のため視程が約1海里に制限された状況の下、単独で船橋当直に就き、霧中信号を吹鳴することなく、法定の灯火を表示して北上し、同時38分来島梶取鼻(かじとりはな)灯台から309度(真方位、以下同じ。)1,040メートルの地点に至り、針路を039度に定め、来島海峡航路に向け、機関を全速力前進にかけ10.1ノットの対地速力(以下「速力」という。)で、手動操舵により進行した。
 05時49分A受審人は、桴磯(いかだいそ)灯標から306度1.14海里の地点に達して針路を来島海峡航路に沿う084度に転じたとき、霧のため視程が約400メートルとなり、その後、更に狭められる状況であったが、依然、霧中信号を行わず、安全な速力に減じることもなく、機関回転数を少し減じただけで、8.6ノットの速力で続航した。また、このときに3マイルレンジとしたレーダーにより右舷船首方の来島海峡航路第4号灯浮標(以下「第4号灯浮標」という。)の南側に停止状態にある第三大祐丸(以下「大祐丸」という。)の映像を認めた。
 05時50分少し前A受審人は来島海峡航路に入航し、同時52分桴磯灯標から326度1,570メートルの地点に達したとき、大祐丸の映像が停止状態から東方に向けて移動し始めたことを認め、同時55分桴磯灯標から356度1,410メートルの地点に達したとき、同映像を右舷船首26度900メートルのところに認めるようになり、大祐丸と著しく接近することを避けることができない状況となったが、レーダーによる動静監視を十分に行っていなかったので、この状況に気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めることもなく続航した。
 こうしてA受審人は、05時58分少し前、大祐丸を右舷船首方至近に認め、衝突の危険を感じて、機関を停止して左舵一杯としたが及ばず、05時58分桴磯灯標から019度1,560メートルの地点において、大平丸は、ほぼ原速力で原針路のまま、その右舷中央部に大祐丸の左舷船首部が後方から20度の角度で衝突し、その直後、大平丸の右舷船橋部と大祐丸の同船首部とが再度衝突した。
 当時、天候は霧で風はほとんどなく、視程は約50メートル、潮候は下げ潮の末期、来島海峡最狭部は北流約4.6ノットであった。
 また、大祐丸は、主に西日本の各精錬所間における製品や原材料などの輸送に従事する鋼製貨物船で、B受審人と機関長の2人が乗り組み、コークス426トンを積載して、船首2.0メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、同月16日15時10分関門港を発し、愛媛県新居浜市沖の燧灘(ひうちなだ)にある四阪島に向かった。
 B受審人は、翌17日、クダコ水道付近を航行中、霧のため視程が約1.5海里に制限されたので、その後、機関長を補佐に就けて操船に当たり、法定の灯火を表示し、機関を半速力前進にかけて7.5ノットの速力で、安芸灘を来島海峡航路に向けて手動操舵により北東進中、同航路に接近するにつれて霧のため視程が1海里以下に制限される状況となったが、霧中信号を吹鳴することなく進行した。
 05時32分B受審人は、来島海峡航路に入航し、その後同航路を東行中、視程が約50メートルになり、航海を継続することの危険を感じ、同時40分桴磯灯標から013度1,400メートルの地点で、機関を中立として右舵をとって惰力前進したのち、第4号灯浮標東方の同航路南側境界線付近に寄せて停留したところ、その後、南西方に圧流された。
 05時52分B受審人は、第4号灯浮標南側至近となる桴磯灯標から026度1,170メートルの地点に至って、自船が同灯浮標に接近したことを知り、大下島南岸寄りに移動することとしたが、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、自船の西北西方1,400メートルばかりの来島海峡航路内を東行して接近する大平丸に気付かず、同船の通過を待たなかったばかりか、機関を半速力前進にかけて同航路を横断するため発進した。
 発進後、B受審人は、左回頭しながら平均4.4ノットの速力で、霧中信号を行わずに進行し、05時55分桴磯灯標から034度1,330メートルの地点に達して北西進したとき、レーダーで左舷船首方900メートルのところに大平丸の映像を探知でき、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、依然、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、この状況に気付かず、必要に応じて行きあしを止めることなく続航中、同時58分少し前、船首方至近に大平丸を初めて認め、衝突の危険を感じて、急ぎ機関を後進にかけたが及ばず、大祐丸は、ほぼ原速力で064度を向首したとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、大平丸は、右舷中央部に凹損、同部ハンドレールに曲損及び右舷船橋下部に凹損を生じ、大祐丸は、左舷船首部に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。 

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界が制限された来島海峡航路西部において、同航路を東行する大平丸が、霧中信号を行わず、安全な速力とすることもなく、レーダーで前路に探知した大祐丸に対する動静監視が不十分で、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、同航路外で停留中の大祐丸が、霧中信号を行わず、レーダーによる見張りが不十分で、同航路を横断のため発進するに当たり、大平丸の通過を待つなどしなかったばかりか、同航路を横断中、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、霧のため視界が制限された来島海峡航路西部において、同航路を東行中、レーダーにより右舷船首方の同航路外で停止状態から発進した大祐丸の映像を探知した場合、同船と著しく接近することを避けることができない状況となるかどうか判断できるよう、レーダーによる動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーによる動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同状況となったことに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを止めずに進行して同船との衝突を招き、大平丸の右舷中央部などに凹損を、大祐丸の左舷船首部に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、霧のため視界が制限された来島海峡航路西部において、同航路南側境界線付近の航路外に停留したのちに発進する場合、同航路内を東行して接近する大平丸を見落とさないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、同船に気付かず、同船の通過を待つなどしなかったばかりか、同船と著しく接近することを避けることができない状況となった際、必要に応じて行きあしを止めずにそのまま進行して同船との衝突を招き、前示のとおり両船に損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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