(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月9日06時00分
鹿児島県串木野漁港
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船寿恵丸 |
漁船光丸 |
総トン数 |
4.4トン |
2.64トン |
全長 |
11.90メートル |
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登録長 |
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8.50メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
漁船法馬力数 |
70 |
17 |
3 事実の経過
寿恵丸は、専ら底刺網漁業に従事するFRP製漁船で、昭和49年11月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したA受審人が1人で乗り組み、台風避難を終えて回航の目的で、船首0.6メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成15年8月9日05時56分鹿児島県串木野漁港小瀬船溜まりを発し、基地である同漁港島平港に向かった。
05時58分少し過ぎA受審人は、串木野港北防波堤灯台(以下「串木野北防灯台」という。)から092度(真方位、以下同じ。)190メートルの地点で、針路を257度に定め、機関を全速力前進が回転数毎分(以下「回転」という。)3,000のところ1,200回転にかけ、8.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、台風避難を終えて出航する複数の漁船を前方に見ながら、手動操舵によって進行した。
05時59分わずか前A受審人は、串木野北防灯台から185度50メートルの地点で、右舷船首4度200メートルのところに、出航中の光丸を視認することができる状況であったが、右舷正横から同前方にかけて縦列となって出航している数隻の漁船を認めていたことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行うことなく、光丸に気付かないまま、右舷側を同航中の漁船群を追い抜いて出航するつもりで、機関を1,500回転にかけ、9.5ノットの速力で続航した。
05時59分半少し過ぎA受審人は、串木野北防灯台から244度210メートルの地点に達し、前示漁船群を間もなく追い越す状況になったことから、港口に向けて針路を286度に転じたところ、右舷船首31度100メートルのところを出航中の光丸に向首し、同船に対して切迫した衝突の危険を生じさせることになったが、同漁船群の追い越し状況を確認することに気をとられ、依然、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、機関を1,800回転にかけて12.3ノットの速力で続航中、06時00分串木野北防灯台から261度330メートルの地点において、寿恵丸は、原針路、原速力のまま、その船首が、光丸の船尾左舷側に後方から3度の角度で衝突して乗り上げた。
当時、天候は晴で風力1の南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期にあたり、視界は良好であった。
また、光丸は、専ら一本つり漁業に従事する昭和43年に進水した木造漁船で、同52年12月に一級小型船舶操縦士の免許を取得したB受審人が1人で乗り組み、台風避難を終えて回航の目的で、船首0.1メートル船尾0.2メートルの喫水をもって、平成15年8月9日05時50分小瀬船溜まりを発したのち、同船溜まりの防波堤の西側基部に寄せて同船溜まりまで乗り付けた自転車を積み込み、同時56分同基部を発進して基地とする鹿児島県江口漁港に向かった。
05時57分半少し過ぎB受審人は、串木野北防灯台から194度90メートルの地点で、針路を267度に定め、機関を全速力前進が約7ノットのところ半速力前進にかけ、4.2ノットの速力で、舵棒による手動操舵によって進行した。
05時58分半少し過ぎB受審人は、串木野北防灯台から240度180メートルの地点で、港口に向けて針路を283度に転じ、右舷正横から後方に台風避難を終えて出航する数隻の漁船を見ながら、同じ速力で続航した。
05時59分半少し過ぎB受審人は、串木野北防灯台から257度280メートルの地点に達したとき、左舷船尾5度100メートルのところで、出航中の寿恵丸が自船に向く針路に転じて切迫した衝突の危険を生じさせ、光丸は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、寿恵丸は船首部に擦過傷を生じたが、のち修理され、光丸は船尾部、左舷船尾外板及び機関室囲壁を圧壊し、のち廃船処理された。また、B受審人が、衝突時の衝撃で約3週間の入院加療を要する肋骨骨折等を負った。
(原因)
本件衝突は、鹿児島県串木野漁港において、両船が出航中、寿恵丸が、見張り不十分で、先航する光丸に向けて針路を転じたことによって発生したものである。
(受審人の所為)
A受審人は、鹿児島県串木野漁港において、台風避難を終えて出航する他船とともに出航する場合、前路を航行中の他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。ところが、同人は、右舷正横から同前方にかけて縦列となって出航している数隻の漁船を認めていたことから、前路に他船はいないものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、先航する光丸に気付かず、同船に向けて針路を転じ、切迫した衝突の危険を生じさせて同船との衝突を招き、寿恵丸の船首部に擦過傷を、光丸の船尾部、左舷船尾外板及び機関室囲壁に圧壊をそれぞれ生じさせ、B受審人が約3週間の入院加療を要する肋骨骨折等を負うに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人の所為は、本件発生の原因とならない。