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平成16年広審第34号
件名

漁船明栄丸プレジャーボートあすか衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月30日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一)

副理事官
鎌倉保男

受審人
A 職名:明栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:あすか船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
明栄丸・・・船底外板に擦過傷及びプロペラに曲損
あすか・・・船体の右舷後部から左舷前部に至る範囲を損壊、船長が頚椎捻挫及び急性ストレス反応の負傷

原因
明栄丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
あすか・・・見張り不十分、避航を促す音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、明栄丸が、見張り不十分で、漂泊中のあすかを避けなかったことによって発生したが、あすかが、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月4日12時50分
 香川県広島北方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船明栄丸 プレジャーボートあすか
総トン数 2.4トン  
登録長 10.98メートル 5.18メートル
機関の種類 ディーゼル機関 電気点火機関
出力 254キロワット 7キロワット

3 事実の経過
 明栄丸は、船体の中央部やや後方に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人(昭和52年3月三級小型船舶操縦士免許取得)ほか甲板員の妻が乗り組み、かに刺し網漁の目的で、平成15年10月4日04時00分香川県小手島漁港を発し、同時20分同県手島北西方の漁場に至って操業を行い、10時00分操業を終えて岡山県下津井漁港に向かい、途中、翌日の秋祭り用としてかにの注文を受けていたので、小手島漁港で漁獲したかにの一部を水揚げしたのち、手島と香川県広島との間の水道を経て下津井漁港に達し、残り全ての漁獲したかにを水揚げして、船首0.05メートル船尾0.65メートルの喫水をもって、12時30分同漁港を発進して帰途に就いた。
 A受審人は、操舵室中央にある椅子に座って見張りと操船にあたり、水島航路を横切って岡山県六口島南方沖合を西行し、甲板員の妻に水揚げして空になったいけすの掃除を行わせながら、自身が役員をしていた秋祭りの準備が13時から始まる予定であったので帰途を急ぎ、12時46分少し前青木港8号防波堤北灯台から033度(真方位、以下同じ。)2.8海里の地点で、薑鼻(はじかみはな)北東方灯浮標を右舷側近距離に航過し、針路を255度に定め、機関を半速力前進にかけ、23ノットの対地速力で手動操舵により進行した。
 A受審人は、周囲に他船を認めず、なんとか13時までに帰港できる目途がついて、帰港後すぐに始まる秋祭りの準備について考えながら続航したところ、12時48分半少し前青木港8号防波堤北灯台から015度2.2海里の地点で、下津井漁港に向かったときにも見掛けたたこつぼ漁の浮標に取り付けられた緑色旗をほぼ正船首方に視認し、同旗を替わすため針路を232度に転じた。
 ところが、転針したとき、A受審人は、正船首方1,200メートルのところに漂泊中のあすかを視認することができ、その後同船に衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、引き続き考えていた秋祭りの準備のことに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかったので、あすかに気付かず、これを避けないまま進行し、12時50分青木港8号防波堤北灯台から002度1.7海里の地点において、明栄丸は、原針路、原速力のまま、その船首があすかの右舷後部に後方から40度の角度で衝突し、これを乗り切った。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、あすかは、甲板上に船体構造物のないFRP製プレジャーボートで、B受審人(昭和58年10月四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、いいだこ釣りの目的で、船首0.30メートル船尾0.60メートルの喫水をもって、同日12時00分香川県青木港の係留地を発し、同島北方沖合の釣り場に向かい、同時15分同釣り場に至って機関を中立とし、漂泊して釣りを始めた。
 B受審人は、右舷船尾の物入れに座って船首方を向いて釣りを続け、12時48分半少し前前示衝突地点で、船首を272度に向けて漂泊していたとき、右舷船尾40度1,200メートルのところに明栄丸を視認することができ、その後同船が衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、接近する他船があっても漂泊中の自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、所持していた笛を吹くなど避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、更に間近に接近したとき機関を使って移動するなど衝突を避けるための措置をとることもしないまま漂泊を続けた。
 こうして、B受審人は、12時50分わずか前機関音と波切り音が聞こえたので振り返って右舷船尾方を見たところ、至近に迫った明栄丸を初めて視認して衝突の危険を感じ、船尾方の海中に飛び込んだ直後、あすかは、272度に向首して、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、明栄丸は、船底外板に擦過傷及びプロペラに曲損を生じ、あすかは、船体の右舷後部から左舷前部に至る範囲を損壊し、またB受審人が頚椎捻挫及び急性ストレス反応を負った。 

(原因)
 本件衝突は、香川県広島北方沖合において、明栄丸が、小手島漁港に向け帰航する際、見張り不十分で、前路で漂泊中のあすかを避けなかったことによって発生したが、あすかが、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、香川県広島北方沖合において、水揚げを終えて小手島漁港に向けて帰航中、たこつぼ漁の旗を替わすため転針した場合、漂泊中のあすかを見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、転針前から考えていた秋祭りの準備のことに気を取られ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊中のあすかに気付かず、これを避けないまま進行して同船との衝突を招き、明栄丸の船底外板に擦過傷及びプロペラに曲損を、あすかの船体の右舷後部から左舷前部に至る範囲に損壊をそれぞれ生じさせ、またB受審人が頚椎捻挫及び急性ストレス反応を負う事態を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、香川県広島北方沖合において、釣りをしながら漂泊する場合、衝突のおそれがある態勢で接近する明栄丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、接近する他船があっても漂泊している自船を避けてくれるものと思い、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、船尾方から自船に向首して接近する明栄丸に気付かず、所持していた笛を吹くなど避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、更に間近に接近したとき機関を使って移動するなど衝突を避けるための措置をとることもしないまま漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷を両船にそれぞれ生じさせ、自身も負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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