日本財団 図書館




 海難審判庁採決録 >  2004年度(平成16年) > 衝突事件一覧 >  事件





平成15年広審第134号
件名

貨物船第二十五天神丸押船宮秀丸被押バージニューみやひで衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月15日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(高橋昭雄)

理事官
川本 豊

受審人
A 職名:第二十五天神丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:宮秀丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
第二十五天神丸・・・左舷船首外板に亀裂
ニューみやひで・・・船首ランプウエイ左舷側先端部に凹損等

原因
第二十五天神丸・・・狭視界時の航法(速力)不遵守
ニューみやひで・・・狭視界時の航法(速力)不遵守

裁決主文

 本件衝突は、第二十五天神丸が、視界制限状態における運航が適切でなかったことと、宮秀丸被押バージニューみやひでが、視界制限状態における運航が適切でなかったこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年7月30日06時50分
 瀬戸内海西部 安芸灘猫瀬戸
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船第二十五天神丸  
総トン数 497トン  
全長 65.40メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 押船宮秀丸 バージニューみやひで
総トン数 19トン 251トン
全長 13.50メートル 39.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 809キロワット  

3 事実の経過
 第二十五天神丸(以下「天神丸」という。)は、砂利等運搬に従事する船尾船橋型鋼製貨物船で阪神地区から呉港広区阿賀への建設残土の輸送に当たっていたところ、A受審人ほか3人が乗り組み、残土1,600トンを載せ、船首3.50メートル船尾4.80メートルの喫水をもって、平成15年7月29日07時00分大阪港を発し、途中自宅のある兵庫県飾磨郡家島に寄せて入港時間の調整を行ったのち、21時ころ目的地広島県呉港広区に向かった。
 A受審人は、船橋当直を全員による単独3時間4直制で行い、翌30日04時30分広島県忠海港付近で昇橋して船橋当直に就き、その後機関を全速力前進にかけて唐島瀬戸に続いて柳ノ瀬戸を経て猫瀬戸に向かって西行した。猫瀬戸に近付くにしたがって霧模様に見舞われるようになり、06時30分安芸灘大橋を通過したときには視界が著しく狭められた状態となって手動による霧中信号の吹鳴を始めた。まもなく入港準備中の乗組員が信号の吹鳴を知って昇橋すると、それぞれ見張りに当たった。
 06時32分A受審人は、重岩灯台から103度(真方位、以下同じ。)800メートルの地点で、針路を猫瀬戸のほぼ中央に沿う242度に定め、機関を全速力前進にかけたまま折からの逆潮流に抗して7.5ノットの対地速力(以下、速力は対地速力である。)で、航海灯までは点灯せずに適宜手動によることで吹鳴間隔を狭めて霧中信号を行いながら手動操舵により進行した。まもなく同時38分少し過ぎ右舷船首30度1.6海里に宮秀丸被押バージニューみやひで(以下「宮秀丸押船列」という。)のレーダー映像を初めて認め、さらに同時40分右舷船首26度1.2海里に同映像を認めるようになったところで、機関を半速力前進に減じて3ノットの速力で続航した。
 ところが、06時46分少し前A受審人は、右舷船首25度0.5海里にレーダーで宮秀丸押船列を認めるようになり、同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、自船が減速したことで同船が自船の前路を左方に替わると思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、さらに必要に応じて行きあしを止めることもなく進行した。
 こうして、06時50分わずか前A受審人は、ほぼ正船首至近に宮秀丸押船列のバージ船首部の鳥居型マストを視認して衝突の危険を感じ、急いで機関を後進に切り換えたが及ばず、06時50分重岩灯台から228度1.2海里の地点において、天神丸は、その左舷船首部が宮秀丸押船列のバージ左舷船首部に前方から30度の角度でほぼ原針路のまま僅かな前進行きあしで衝突した。
 当時、天候は霧で風力はほとんどなく、視程は約100メートルで猫瀬戸中央部付近には2ノット弱の東流があった。
 また、宮秀丸は、平成元年自家用転用船としてロープ固縛連結方式のセット運航を条件に鋼製バージニューみやひでと共に建造された鋼製押船で、B受審人(昭和63年9月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか2人が乗り組み、船首0.8メートル船尾2.4メートルの喫水をもって、土砂積載状態のダンプカー4台及びショベルカー1台並びに運転手5人を載せた船首尾が1.5メートルの等喫水のニューみやひでを押航して、同日06時20分呉港広区広末広を発し、猫瀬戸を経る予定で広島県大崎下島立花に向かった。
 ところで、B受審人は、発航すると間もなく猫瀬戸西口一帯に霧堤の存在を認めたが、視界の回復を待たずに航海灯を点灯しないまま、バージ船首部ランプウエイ上に乗組員を配して見張りに当たらせて自ら操舵操船して猫瀬戸に向かった。06時37分重岩灯台から259度1.9海里の地点で、針路を猫瀬戸西口に向く120度に定め、機関を半速力前進にかけ5.0ノットの速力で手動操舵で進行した。
 ところが、B受審人は、操舵しながらレーダーを0.5マイルレンジにして見張っていたことから、06時38分少し過ぎ左舷船首28度1.6海里に天神丸のレーダー映像を探知し得ず、さらに同時40分左舷船首32度1.2海里に近づいた同映像をも探知し得ないまま続航した。そして同時46分少し前左舷船首33度0.5海里に初めて天神丸のレーダー映像を認め、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況であったが、互いに瀬戸の右側を航行すべく天神丸が右転することにより左舷を対して航過することができると思い、速やかに針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、さらに必要に応じて行きあしを止めることもなく、手動で霧中信号を吹鳴し、瀬戸の右側に着こうとして徐々に左舵を取りながら続航した。
 こうして、06時50分少し前B受審人は、突然船首部で見張っていた乗組員から大声で「バック、バック」の知らせを受けると同時に船首至近に天神丸の船首部船影を認めて衝突の危険を感じ、急いで機関を全速力後進としたが及ばず、宮秀丸押船列は、ほぼ090度を向いた状態で僅かな前進行きあしをもって前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、天神丸は左舷船首外板に亀裂、また宮秀丸押船列はニューみやひでの船首ランプウエイ左舷側先端部に凹損等をそれぞれ生じた。 

(原因)
 本件衝突は、霧のため視界制限状態の猫瀬戸西口付近において、同瀬戸を西行する天神丸が、レーダーで前方に認めた宮秀丸被押バージニューみやひでと著しく接近することを避けることができない状況となった際、その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったことと、呉港広区から同瀬戸に向かう宮秀丸被押バージニューみやひでが、レーダーで前方に認めた天神丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかったこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、霧による視界制限状態の猫瀬戸を呉港広区に向かって西行中、レーダーで右前方に認めた宮秀丸被押バージニューみやひでと著しく接近することを避けることができない状況となった場合、その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、自船が減速したことで宮秀丸被押バージニューみやひでが前路を左方に替わるものと思い、速やかにその速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、そのまま進行して、同船との衝突を招き、天神丸の左舷船首外板に亀裂及びニューみやひでの船首ランプウエイ左舷側先端部に凹損等をそれぞれ生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、霧による視界制限状態の猫瀬戸西口付近を呉港広区から同瀬戸に向かって航行中、レーダーで船首少し左で瀬戸中央付近に認めた天神丸と著しく接近することを避けることができない状況となった場合、その速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じ、必要に応じて行きあしを止めるべき注意義務があった。しかし、同人は、互いに瀬戸の右側を航行することにより左舷を対して航過することができると思い、速やかにその速力を針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、必要に応じて行きあしを止めなかった職務上の過失により、そのまま瀬戸の右側に着こうとして進行し、同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
(拡大画面:18KB)





日本財団図書館は、日本財団が運営しています。

  • 日本財団 THE NIPPON FOUNDATION