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平成16年広審第36号
件名

漁船第八 三洋丸プレジャーボート第二釣好丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月13日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(佐野映一、吉川 進、黒田 均)

理事官
村松雅史

受審人
A 職名:第八 三洋丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
B 職名:第二釣好丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第八 三洋丸・・・船体右舷側及び操舵室を大破、のち廃船処理
第二釣好丸・・・船底外板に擦過傷、船長が顔面挫創及び左肘打撲等の負傷

原因
第二釣好丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第八 三洋丸 ・・・見張り不十分、避航を促す音響信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、第二釣好丸が、見張り不十分で、漂泊中の第八 三洋丸を避けなかったことによって発生したが、第八 三洋丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Bを戒告する。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月12日16時30分
 山口県徳山下松港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第八 三洋丸 プレジャーボート第二釣好丸
総トン数 2.94トン  
全長   14.70メートル
登録長 8.00メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   356キロワット
漁船法馬力数 50  

3 事実の経過
 第八 三洋丸(以下「三洋丸」という。)は、船体のほぼ中央部に操舵室を有するFRP製漁船で、A受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、あなごかご漁の目的で、船首0.15メートル船尾0.40メートルの喫水をもって、平成15年8月12日15時00分山口県徳山下松港第1埠頭(以下「第1埠頭」という。)の東側にある船溜まりを発し、同時05分同港第2埠頭(以下「第2埠頭」という。)沖合にあるナカモと称する漁場に至って操業を開始した。
 ところで、A受審人が行うあなごかご漁は、両端に重りが取り付けられた直径6ミリメートル長さ約10キロメートルの化学繊維製の幹縄に、長さ約5メートルの枝縄で直径約50センチメートルのかご合計約250個を約36メートル間隔に取り付け、夕方から1時間ほどかけて海中に投縄したのち、翌朝の魚市場が開く時刻に間に合うように3時間ほどかけて揚縄するもので、幹縄の両端には漁具端を示す浮標が水深とほぼ同じ長さに調整したロープによって設置されていた。
 A受審人は、前示漁場であなごかごと幹縄を順次海中に投入し、余った幹縄を埠頭係留船や他船が見あたらない第1埠頭と第2埠頭との間にある幅約400メートルの水域に繰り出したのち反転し、幹縄の最終端に重りと浮標設置用の長さ約50メートルのロープを取り付けて海中に投入して投縄を終え、16時27分徳山下松港新川防波堤灯台から260度(真方位、以下同じ。)600メートルの地点で、機関を中立にして漂泊し、前部甲板の幹縄格納箱の左舷側後方で中腰の姿勢で船首方を向き、浮標設置用ロープの長さを約13メートルの水深に合わせて調整するため、余分なロープを束ね始めた。
 ところが、16時28分A受審人は、前示漂泊地点で133度に向首していたとき、右舷船首28度1,050メートルに第二釣好丸(以下「釣好丸」という。)を視認することができ、その後同船が自船に向首して衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、浮標設置用ロープの長さ調整に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、機関を使って移動するなどして衝突を避けるための措置をとることなく漂泊を続けた。
 こうして、A受審人は、浮標設置用ロープの長さ調整を終え、同ロープを甲板上にある浮標に取り付けようとしたとき、16時30分前示漂泊地点において、三洋丸は、133度に向首して漂泊中、その右舷中央部やや前方に、釣好丸の船首が、前方から28度の角度で衝突し、乗り上げた。
 当時、天候は晴で風はほとんどなく、視界は良好で、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、釣好丸は、船体中央部やや後方に操舵室を有するFRP製プレジャーボートで、B受審人(平成5年11月一級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、友人1人を乗せ、釣りの目的で、船首尾ともに0.7メートルの喫水をもって、同日12時00分第1埠頭と第2埠頭との間の玉鶴川河口にある係留地を発し、徳山下松港内の大水無瀬島と小水無瀬島との間に設けられた防波堤の東側の釣り場で釣りを行ったのち、16時00分同釣り場を発進して帰途についた。
 ところで、釣好丸は、船首に長さ及び幅ともに約1メートルで両舷に手すりを備えた槍出しを有しており、速力が10ノットを超えると船首が浮上し、操舵室右舷寄りにある舵輪後方の椅子に座って操舵にあたると、同椅子の座席の高さが高いので同室内で立っているより眼高が高くなるものの、同槍出しによって正船首方から左舷側10度の範囲に死角を生じるので、B受審人は、平素船首を左右に振るなどして同死角を補う見張りを行っていた。
 釣り場を発進したB受審人は、操舵室の椅子に座って見張りと操舵にあたり、友人は同室左舷寄りに立って窓から入る風で涼をとり、山口県光市沿岸と同県笠戸島との間を西行し、やがて同島北端にある笠戸大橋に差し掛かり、16時27分わずか前右転しながら同橋を通過中、右舷船首方の第1埠頭や第2埠頭の辺りをいちべつして他船を認めず、同時27分徳山下松港新川防波堤灯台から183度1,590メートルの地点で、針路を341度に定め、機関を回転数毎分1,700の全速力前進にかけ、17.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で手動操舵により進行し、左舷方の笠戸島の島陰や右舷方の第1埠頭東側の船溜まりから他船が現れないか注意して北上を続けた。
 ところが、16時28分B受審人は、徳山下松港新川防波堤灯台から193度1,270メートルの地点に達したとき、正船首1,050メートルのところに三洋丸を視認することができ、その後同船と衝突のおそれがある態勢で接近する状況であったが、定針しようとしたときにいちべつして他船を認めなかったことから、前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかったので、このことに気付かず、移動しないことから漂泊中と分かる三洋丸を避けないまま進行した。
 こうして、16時30分わずか前B受審人は、槍出しの上に現れた三洋丸のマストを視認して初めて同船に気付き、直ちに機関を中立とし、次いで後進としたが及ばず、釣好丸は、原針路のまま、10.0ノットの速力となったとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、三洋丸は、船体右舷側及び操舵室を大破し、釣好丸によって第1埠頭東側の船溜まりに引き付けられたが、のち廃船処理され、釣好丸は、船底外板に擦過傷を生じた。また、A受審人が、顔面挫創並びに左肘及び左肩打撲を負った。 

(原因)
 本件衝突は、山口県徳山下松港において、釣好丸が、釣り場から帰航する際、見張り不十分で、前路で漂泊中の三洋丸を避けなかったことによって発生したが、三洋丸が、見張り不十分で、避航を促すための有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、山口県徳山下松港において、釣り場から帰航する場合、船首浮上により船首方向に死角を生じた状態であったから、前路で漂泊している三洋丸を見落とすことのないよう、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、定針しようとしたときにいちべつしただけで前路に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなどして船首死角を補う見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、前路で漂泊している三洋丸に気付かず、これを避けないまま進行して同船との衝突を招き、釣好丸の船底外板に擦過傷を生じさせ、三洋丸の船体右舷側及び操舵室を大破させるとともに、A受審人が顔面挫創並びに左肘及び左肩打撲を負う事態を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 A受審人は、山口県徳山下松港において、あなごかご漁の投縄を終え、漁具端を示す浮標設置用ロープの長さ調整を行いながら漂泊する場合、自船に向首して接近する釣好丸を見落とすことのないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかし、同人は、同調整に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、衝突のおそれがある態勢で接近する釣好丸に気付かず、避航を促すための有効な音響による信号を行うことも、機関を使って移動するなど衝突を避けるための措置をとることもなく漂泊を続けて同船との衝突を招き、前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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