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平成16年広審第7号
件名

引船第26臼杵丸引船列漁船第八琴白丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月13日

審判庁区分
広島地方海難審判庁(黒田 均、道前洋志、佐野映一)

理事官
供田仁男、鎌倉保男

受審人
A 職名:第26臼杵丸船長 海技免許:五級海技士(航海)(旧就業範囲)
C 職名:第八琴白丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:第26臼杵丸甲板員 

損害
被引台船K-103・・・船首部に擦過傷
第八琴白丸・・・転覆し、のち修理費の関係で全損処理、甲板員1名が溺死

原因
第26臼杵丸引船列・・・動静監視不十分、所定の灯火不表示、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第八琴白丸・・・見張り不十分、警告信号不履行

主文

 本件衝突は、第26臼杵丸引船列が、動静監視不十分で、所定の灯火を表示しないまま漂泊して揚網中の第八琴白丸を避けなかったことによって発生したが、第八琴白丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Cを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年6月11日04時50分
 安芸灘北部
 
2 船舶の要目
船種船名 引船第26臼杵丸 被引台船K-103
総トン数 103トン 約1,398トン
全長 28.70メートル 60.0メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 588キロワット  
船種船名 漁船第八琴白丸  
総トン数 4.2トン  
登録長 10.90メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 183キロワット  

3 事実の経過
 第26臼杵丸(以下「臼杵丸」という。)は、船首船橋型鋼製引船で、A受審人及びB指定海難関係人ほか1人が乗り組み、船首1.6メートル船尾3.2メートルの喫水をもって、その船尾に、無人で、鋼製ハッチカバー約300トンを積載し、船首0.8メートル船尾1.0メートルの喫水となった非自航型鋼製台船K-103(以下「台船」という。)を引き(以下「臼杵丸引船列」という。)、平成15年6月9日14時50分長崎県松浦市の調川(つきのかわ)港を発し、関門海峡経由で広島県沼隈郡の千年港に向かった。
 臼杵丸引船列の曳航模様は、台船の船首部左右両ビットに係止した直径28ミリメートル(以下「ミリ」という。)で長さ33メートルのブライドルワイヤに、直径85ミリで長さ80メートルの合成繊維索を接続し、他端を臼杵丸の曳航フックにかけ、臼杵丸の船尾から台船の後端までの距離が150メートルになるものであった。
 また、臼杵丸には、所定の灯火を、台船には、船体の中央部で海面上高さ約5メートルに蓄電池式の黄色回転灯1個と、両舷船首尾部で同高さ約2.5メートルに乾電池式の黄色標識灯4個をそれぞれ設備していた。
 A受審人は、船橋当直体制を、自身、機関長、B指定海難関係人の順に単独4時間3交替制としており、翌10日23時00分自らの船橋当直を終えたとき、無資格の部下に同当直を行わせることとしたが、部下の当直経験が豊富なので指示するまでもないものと思い、夜間命令簿に記入するなり、申し送らせるなどして、船橋当直者に対し、他船を認めた際、その後の動静監視を十分に行うよう指示しなかった。
 翌11日03時00分船橋当直に就いたB指定海難関係人は、前示灯火が表示されていることを確認し、3海里レンジでオフセンターとしたレーダーを見ながら安芸灘を東航し、04時22分半斎島(いつきじま)に並んだとき、来島梶取鼻灯台(以下「梶取鼻灯台」という。)から256度(真方位、以下同じ。)4.7海里の地点において、針路を大下瀬戸に向首する046度に定め、機関を全速力前進にかけて7.0ノットの対地速力とし、自動操舵により進行した。
 定針したときB指定海難関係人は、右舷船首2度3.2海里のところに、第八琴白丸(以下「琴白丸」という。)の灯火を認め、移動していないように見えたことから、このままの針路でなんとか右舷側にかわるものと判断し、来島海峡から出てきた西航船に注意しながら続航した。
 04時45分半B指定海難関係人は、梶取鼻灯台から286度2.7海里の地点に達したとき、揚網を始めていた琴白丸を右舷船首5度1,000メートルに認め得るようになり、その後衝突のおそれがある態勢で接近したが、動静監視不十分で、このことに気付かなかったので、早めに大きく右転するなど、ほとんど移動しないことや航走波が見えないことから漂泊中と分かる同船を避けなかった。
 04時49分半B指定海難関係人は、右舷船首80メートルに接近した琴白丸を認めて衝突の危険を感じ、左舵をとって同船を右舷側至近にかわしたのち、キックを期待して右舵をとり、機関のクラッチを中立にしたが、04時50分梶取鼻灯台から296度2.5海里の地点において、台船は、ほぼ原針路原速力のまま、その船首部が、琴白丸の左舷中央部に、直角に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の北風が吹き、潮候は上げ潮の中央期で、付近には1.0ノットの北東に流れる潮流があり、日出は04時56分であった。
 機関音の変化に気付いたA受審人は、急ぎ昇橋して衝突の事実を知り、事後の措置に当たった。
 また、琴白丸は、船体中央部に操舵室を有し、モーターホーンを設備したFRP製漁船で、C受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)が甲板員の妻と乗り組み、船首0.2メートル船尾0.8メートルの喫水をもって、さわら流し網漁の目的で、同月11日02時30分愛媛県岡村島の岡村港を発し、安芸灘北部の漁場に向かった。
 03時00分目的地に着いたC受審人は、梶取鼻灯台から295度2.4海里の地点から、長さ800メートルの流し網を北西方に向けて投網し、同時30分ごろ投網地点に戻り、網の南端に設置した標識に係船し、機関を停止回転として漂泊を始め、操舵室上方と船尾部の紅色全周灯のほか作業灯を残して所定の灯火を消し、揚網まで待機した。
 04時40分C受審人は、周囲が薄明るくなりかけていたので、標識の取り込みに続いて揚網することとし、甲板員が船首甲板右舷側に、自らはその左舷側に船首方を向いて立ち、操舵室前方に設置されたネットホーラで網を巻き始め、揚網に従い316度方向に毎分20メートルの速さで前進しながら揚網作業を続けた。
 04時45分半C受審人は、梶取鼻灯台から296度2.4海里の地点に至り、316度に向首していたとき、左舷船首85度1,000メートルのところに、東航中の臼杵丸引船列を視認することができる状況で、その後同引船列が衝突のおそれがある態勢で接近したが、揚網作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わず、同引船列の存在と接近に気付かなかった。
 C受審人は、警告信号を行わないまま漂泊して揚網を続け、04時50分少し前左舷方至近に迫った臼杵丸の両舷灯を初めて認め、衝突の危険を感じ、操舵室に急行して機関を後進にかけたが、琴白丸は、316度に向首して少し後退したとき、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、臼杵丸引船列は、台船の船首部に擦過傷を生じただけであったが、琴白丸は、右舷側に転覆し、海中転落した同船甲板員Dが溺死し、のち船体は修理費の関係で全損処理された。 

(原因)
 本件衝突は、日出前の薄明時、安芸灘北部において、東航中の臼杵丸引船列が、動静監視不十分で、所定の灯火を表示しないまま漂泊して揚網中の琴白丸を避けなかったことによって発生したが、琴白丸が、見張り不十分で、警告信号を行わなかったことも一因をなすものである。
 臼杵丸引船列の運航が適切でなかったのは、船長が、無資格の船橋当直者に対し、他船を認めた際、その後の動静監視を十分に行うよう指示しなかったことと、同当直者が、動静監視を十分に行わなかったこととによるものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、無資格の部下に船橋当直を行わせる場合、夜間命令簿に記入するなり、申し送らせるなどして、船橋当直者に対し、他船を認めた際、その後の動静監視を十分に行うよう指示すべき注意義務があった。しかるに、同人は、同当直者の当直経験が豊富なので指示するまでもないものと思い、その後の動静監視を十分に行うよう指示しなかった職務上の過失により、同当直者の動静監視が不十分で、漂泊中の琴白丸を避けることなく進行して衝突を招き、台船の船首部に擦過傷を生じ、琴白丸を転覆させ、海中転落した同船甲板員が溺死する事態を生じさせ、のち船体は修理費の関係で全損処理されるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 C受審人は、日出前の薄明時、安芸灘北部において、漂泊して揚網する場合、接近する他船を見落とさないよう、周囲の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、揚網作業に気をとられ、周囲の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、臼杵丸引船列の存在と接近に気付かず、警告信号を行わないまま漂泊を続けて衝突を招き、両船に前示の損傷などを生じさせるに至った。
 以上のC受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、安芸灘北部を東航中、右舷船首方に琴白丸の灯火を認めた際、その後の動静監視を十分に行わなかったことは、本件発生の原因となる。
 B指定海難関係人に対しては、勧告しない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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