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平成16年神審第3号
件名

引船第八国広丸引船列漁船日吉丸衝突事件
第二審請求者〔理事官 前久保勝己〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月23日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(田邉行夫、甲斐賢一郎、平野研一)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:第八国広丸船長 海技免許:五級海技士(航海)
B 職名:日吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
国広丸・・・ない
台船M-650・・・右舷船首部に擦過傷
日吉丸・・・転覆、沈没し、のち廃船処分、船長が頭部打撲などの負

原因
日吉丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守

主文

 本件衝突は、多数の僚船とともに漁場に向けて航行する日吉丸が、見張り不十分で、第八国広丸引船列との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
 受審人Bの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年11月30日05時56分
 和歌山県加太港西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 引船第八国広丸 台船M-650
総トン数 93.39トン  
全長 24.75メートル 60.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 735キロワット  
船種船名 漁船日吉丸  
総トン数 2.0トン  
登録長 9.18メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 70  

3 事実の経過
 第八国広丸(以下「国広丸」という。)は、鋼製引船で、A受審人ほか3人が乗り組み、船首1.8メートル船尾3.4メートルの喫水をもって、鋼管25本を積載して船首尾とも0.6メートルの等喫水となった台船M-650(以下「台船」という。)を、直径80ミリメートル長さ約160メートルの化学繊維索と、ブライダル状にした直径28ミリメートル長さ18メートルのワイヤーロープとからなる曳索をもって曳航し、自船の船尾から台船の後端までの距離が約235メートルの引船列(以下「国広丸引船列」という。)となし、平成14年11月26日07時30分千葉県木更津港を発し、大阪港に向かった。
 A受審人は、同月30日05時40分ごろ前直と交替して単独で船橋当直に就き、同時42分和歌山県西岸の田倉埼灯台から270度(真方位、以下同じ。)1,100メートルの地点で、針路を020度に定め、機関を全速力前進にかけ、6.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、手動操舵によって進行した。
 ところで、国広丸は、自船の船尾から台船の後端までの距離が200メートルを超えることを示すマスト灯3個を連掲したほか、舷灯及び引船灯を掲げ、台船には、バッテリーを電源とする法定の舷灯と船尾灯に加え、四隅に1個ずつ計4個の点滅灯を点灯していた。
 05時49分A受審人は、右舷船首40度1,340メートルばかりに、和歌山県加太港から出航してくる、日吉丸を含む約30隻の漁船群を認めた。
 その後、A受審人は、地ノ島方面に向かう同漁船群が、自船の進路を横切る様子であったので、探照灯をもって船首付近から右舷側に半円を描くように船尾の台船までを照射し、また、汽笛によって短音5声を吹鳴した。
 05時51分A受審人は、田倉埼灯台から341度1,700メートルの地点に達したとき、右舷船首42度920メートルに日吉丸が存在し、その方位がわずかに右方に変わるものの、衝突のおそれがある態勢で接近したが、同船が多数の漁船群の中にあってこれを特定して認識できないまま続航した。
 A受審人は、探照灯の照射と汽笛の吹鳴とを繰り返しながら進行中、05時56分田倉埼灯台から353度1.2海里の地点において、原針路、原速力のままの国広丸引船列の曳索に、続いて台船の右舷船首部に日吉丸の左舷船首部が後方から83度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期にあたり、潮流は微弱であった。日出は06時45分で、視界は良好であった。
 A受審人は、日吉丸が衝突したことに気付かないまま航行を続けていたところ、自船を追いかけてきた日吉丸の僚船から衝突の事実を知らされた。
 また、日吉丸は、FRP製漁船で、昭和50年4月4日取得の一級小型船舶操縦士免許を有するB受審人が1人で乗り組み、船首0.2メートル船尾1.0メートルの喫水をもって、平成14年11月30日5時40分ごろタイ一本釣りの目的で、加太港を発し、僚船とともに地ノ島北方沖合の漁場に向かった。
 B受審人は、05時49分加太港第1防波堤灯台の先端付近にあたる、田倉埼灯台から015度1.06海里の地点で、針路を297度に定め、4.0ノットの速力で手動操舵によって進行した。
 定針したとき、B受審人は、左舷船首57度1,340メートルに、国広丸の掲げる灯火を初めて視認した。
 05時51分B受審人は、田倉埼灯台から008度1.1海里の地点に達したとき、左舷船首55度920メートルに国広丸の白灯3個と緑灯1個を視認して同船が引船であることを認めたが、見張りを十分に行わず、一べつして同船の船尾方向に台船の灯火を視認しなかったことから同船が独航しているものと思い、台船の存在に気付かず、その後、国広丸の方位がわずかに右方に変わるものの、国広丸引船列と衝突のおそれがある態勢で接近したが、衝突のおそれにも、国広丸による探照灯の照射や汽笛の吹鳴にも気付かないまま続航した。
 その後、B受審人は、付近を航行中の多数の僚船が、台船の後方を替わすように左転して衝突を避けるための措置をとったが、僚船と同様に左転するなど衝突を避けるための措置をとることなく、日吉丸は、原針路、原速力のまま進行し、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、国広丸には損傷がなく、台船の右舷船首部に擦過傷を生じ、日吉丸は、衝突の衝撃で転覆、沈没し、のち引き上げられたが、廃船処分され、B受審人が、頭部打撲などを負った。

(航法の適用)
 本件衝突は、和歌山県加太港西方沖合において、正規の灯火を表示して北上する国広丸引船列と、多数の僚船とともに漁場に向けて西行する日吉丸とが、衝突したものであり、適用する航法について検討する。
 本件の場合、衝突の数分前、長く曳航物件を引いていた国広丸引船列と日吉丸との間に、衝突のおそれがあったのみならず、多数の漁船との間にも衝突のおそれが発生していたものである。また、国広丸引船列の後方を無難に替わる漁船も多くあり、この状況下において、同引船列が右転若しくは減速などの措置をとることは新たな衝突の危険を生じさせる状況でもあった。従って、海上衝突予防法第15条によることは適切でなく、同法第38条及び第39条によって律するのが相当である。 

(原因)
 本件衝突は、和歌山県加太港西方沖合において、多数の僚船とともに漁場に向けて西行する日吉丸が、見張り不十分で、北上する国広丸引船列との衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 B受審人は、和歌山県加太港西方沖合において、多数の僚船とともに漁場に向けて西行中、北上する国広丸の連掲する3個のマスト灯と緑灯を認めた場合、同船が曳航する台船を見落とさないように、見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、一べつして国広丸の船尾方向に台船の灯火を視認しなかったことから同船が独航しているものと思い、付近を航行中の多数の僚船と同様に左転して台船の後方を替わすなど衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、国広丸引船列との衝突を招き、台船の右舷船首部に擦過傷を生じさせ、自船を沈没させ、自らが頭部打撲などを負うに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 A受審人の所為は、本件発生の原因とならない。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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