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平成16年神審第21号
件名

貨物船東成漁船泰丸衝突事件
第二審請求者〔理事官 阿部能正〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月15日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(平野研一、平野浩三、中井 勤)

理事官
阿部能正

受審人
A 職名:東成一等航海士 海技免許:三級海技士(航海)
B 職名:泰丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
東 成・・・右舷船首部外板に擦過傷
泰 丸・・・右舷船首部及びプロペラシャフトブラケットに損傷、船長が頸椎捻挫及び腰部打撲等の負傷

原因
東 成・・・狭視界時の航法(信号、レーダー、速力)不遵守
泰 丸・・・船員の常務(避難措置)不遵守

主文

 本件衝突は、視界制限状態において、東成が、霧中信号を行わず、安全な速力で航行しなかったことと、レーダーを装備せず、音響信号設備を備えない泰丸が、速やかに避難の措置をとらず、漂泊状態のまま漁を続けたこととによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月26日17時40分
 鳴門海峡北西方
 
2 船舶の要目
船種船名 貨物船東成 漁船泰丸
総トン数 699トン 1.2トン
全長 85.01メートル 9.10メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 2,206キロワット  
漁船法馬力数   50

3 事実の経過
 東成は、千葉港と徳山下松港間の定期運航に従事する船尾船橋型の鋼製コンテナ船で、船長C及びA受審人ほか4人が乗り組み、コンテナ80本を載せ、船首2.8メートル船尾4.6メートルの喫水をもって、平成15年8月25日15時30分千葉港を発し、徳山下松港に向かった。
 東成は、甲板上に高さ13メートルの門型の移動式ガントリークレーンが設置され、クレーンの下縁部が水平線にかかって見張りの障害とならないよう、出港時に喫水の調整が行われるものの、水平線を見通すため、身体を屈める必要があった。一方、レーダースキャナーは、船橋上部のマストに海面上約18メートルの高さで設置されていたから、船橋から前方へ約25メートルの位置に固定されていた同クレーンがレーダーによる見張りの死角とはならなかった。
 ところで、C船長は、船橋当直を同人、A受審人及び二等航海士による単独3直4時間交替制とし、鳴門海峡を通過することとした。
 一方、A受審人は、鳴門海峡を年間約20回航行し、同海峡付近における船舶の通行模様や漁船の操業模様をよく知っており、C船長が休暇の際は、A受審人が船長職を執っていた。
 翌26日16時00分A受審人は、紀伊日ノ御埼灯台西方約5海里沖合において、二等航海士と交替して船橋当直に就き、17時ころ、強い雨で視界が3海里ばかりとなったので、早めに法定灯火を表示し、船橋左舷側にあるデイライト型とフード付きの2台のレーダーのそれぞれを3海里及び1.5海里のレンジとし、感度、雨雪及び海面反射抑制など種々の調整を十分に行い、船舶や陸岸の映像が適切に現れているのを確認し、鳴門海峡南口に向けて北上した。
 17時29分A受審人は、孫埼灯台から126度(真方位、以下同じ。)0.6海里の地点で、左舷船首方2ないし3海里に、東方に移動する強い降雨域をレーダーにより認めたので、機関監視盤の確認のため昇橋した一等機関士とともに船橋前面中央で、身を屈めて船首方の見張りを行いながら、針路を340度に定め、機関を全速力前進にかけ、折からの最強流速7.9ノットの順潮流に乗じ、17.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で、自動操舵により進行した。
 定針したとき、A受審人は、小型船舶をレーダー映像として捉えることができるよう、雨雪反射抑制を更に調整し、適切なレンジとしたので、強い降雨域内の小型船舶でもレーダー映像として捉えることができ、捉えたときに対処すればよいものと思い、霧中信号を行うことも、視界の状態に適した距離で停止することができるよう、安全な速力に減ずることもなく、左舷船首18度2.5海里のところで、漂泊して操業中の泰丸のレーダー映像を捉えることができないまま続航した。
 17時35分A受審人は、孫埼灯台から358度1.0海里の地点に達したとき、強い降雨域に入り、視程が船首端をかすかに認めることができる100メートルで、視界が著しく制限される状況となり、予定転針点に達して、針路を300度に転じ、14.0ノットの速力となって、正船首方1.2海里となった泰丸のレーダー映像を依然として捉えることができないまま進行中、17時40分孫埼灯台から326度2.0海里の地点において、東成は、原針路、原速力のまま、その右舷船首部と泰丸の右舷船首部が東成の前方から10度の角度で衝突した。
 当時、天候は雨で風はほとんどなく、視程は局地的な降雨で100メートルに制限され、鳴門海峡の潮流は北流のほぼ最強時であった。
 東成は、衝突の事実を認識しないまま、目的地に向けて航行を続けていたところ、21時00分備讃瀬戸大橋付近において、巡視艇に停船を命じられ、右舷外板に擦過傷があるのを確認したのち、同艇の指示により徳島小松島港に向かった。
 また、泰丸は、はまち一本釣り漁業に従事する船体中央部に操舵室を設けたFRP製漁船で、平成11年2月24日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人が1人で乗り組み、操業の目的で、船首0.2メートル船尾0.4メートルの喫水をもって、同15年8月26日14時50分徳島県瀬戸漁港北泊地区を発し、15時00分同漁港北東方2海里の漁場に達し、機関を中立とし、漂泊して操業を開始した。
 ところで、泰丸は、建造当初からレーダーを装備せず、汽笛及び号鐘又はこれに代わる有効な音響による信号を行うことができる設備を備えていなかった。
 B受審人は、折からの北流に抗して、潮上りを繰り返しながら漂泊して操業を続け、17時25分前示衝突地点において、西方から視界が著しく制限された強い降雨域が接近しているのを認めたが、近くに接近する他船はいないものと思い、速やかに漁を中止して、強い降雨域内に入らないよう避難の措置をとることなく、漁を続けた。
 17時35分B受審人は、前示衝突地点において、強い降雨域に入って視程が100メートルとなったころ、次第に釣果が少なくなったので、帰港することとし、操舵室後方で右舷側を向いて釣り糸を巻き上げ始め、同時38分少し前B受審人は、船首が110度を向いたとき、東成が、右舷船首10度900メートルのところに存在し、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、このことに気付かないまま釣り糸を巻き上げていたところ、17時40分少し前右舷前方から現れた東成に気付いたもののどうすることもできず、泰丸は、船首が110度を向いたまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、東成は、右舷船首部外板に擦過傷を生じ、泰丸は、右舷船首部及びプロペラシャフトブラケットに損傷を生じたが、いずれものちに修理された。また、B受審人が、頸椎捻挫及び腰部打撲等を負った。 

(原因)
 本件衝突は、鳴門海峡北西方において、北上中の東成が、前路に視界が著しく制限された強い降雨域を認めた際、霧中信号を行わず、安全な速力で航行しなかったことと、レーダーを装備せず、音響信号設備を備えない泰丸が、西方から視界が著しく制限された強い降雨域が接近しているのを認めた際、速やかに避難の措置をとらず、漂泊状態のまま漁を続けたこととによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、鳴門海峡中央部において、前路に視界が著しく制限された強い降雨域を認めた場合、同雨域の中に存在する小型船舶に対し、十分に調整したレーダーで適切なレンジとして使用しても、映像として捉えられないことがあるから、霧中信号を行ったうえ、視界の状態に適した距離で停止することができるよう、安全な速力で航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、レーダーを十分に調整し、適切なレンジとしたので、強い降雨域内の小型船舶でもレーダー映像として捉えることができ、捉えたときに対処すればよいものと思い、霧中信号を行わず、安全な速力で航行しなかった職務上の過失により、漂泊して操業中の泰丸のレーダー映像を捉えることができないまま進行して泰丸との衝突を招き、東成の右舷船首部外板に擦過傷を、泰丸の右舷船首部及びプロペラシャフトブラケットに損傷をそれぞれ生じさせ、B受審人に頸椎捻挫及び腰部打撲等を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、レーダーを装備せず、音響信号設備を備えない泰丸が、鳴門海峡北西方において漂泊して操業中、西方から視界が著しく制限された強い降雨域が接近しているのを認めた場合、速やかに漁を中止して強い降雨域内に入らないよう避難の措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、近くに接近する他船はいないものと思い、速やかに漁を中止して避難の措置をとらなかった職務上の過失により、東成との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせ、自らも負傷するに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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