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平成16年神審第39号
件名

遊漁船漁徳丸手漕ぎボート(船名なし)衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月13日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(横須賀勇一)

副理事官
小俣幸伸

受審人
A 職名:漁徳丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士
指定海難関係人
B 職名:(船名なし)乗組員

損害
漁徳丸・・・船首部に擦過傷
手漕ぎボート(船名なし)・・・船尾荷台及び釣り竿を損傷

原因
漁徳丸・・・見張り不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
手漕ぎボート(船名なし)・・・注意喚起信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

裁決主文

 本件衝突は、漁徳丸が、見張り不十分で、錨泊中の手漕ぎボート(船名なし)を避けなかったことによって発生したが、手漕ぎボート(船名なし)が、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年10月18日13時00分
 福井県亀島北西方沖合
 
2 船舶の要目
船種船名 遊漁船漁徳丸 手漕ぎボート(船名なし)
総トン数 4.71トン  
登録長 9.65メートル  
全長   2.65メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
漁船法馬力数 90  

3 事実の経過
 漁徳丸は、船体中央部やや後方に操舵室を有するFRP製遊漁船で、平成14年2月交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するA受審人が1人で乗り組み、釣り客2人を乗せ、遊漁の目的で、船首0.5メートル船尾1.5メートルの喫水をもって、平成15年10月18日12時55分福井県鷹巣漁港を発し、僚船数隻と共に一斉に同港南西方約2.5海里の白浜沖合の釣り場に向かった。
 ところで、A受審人は、鷹巣漁港から白浜に至る水域では、小型のボートがよく錨泊して釣りを行うことを知っており、また、漁徳丸の航海速力が18ノットになると、船首が浮上して船首部両舷に据え付けられたアンカー台により両舷各7度の死角を生じていたので、平素船首を左右に振るなどして死角を補う見張りを行っていた。
 こうして、A受審人は、操舵室中央の舵輪後方に立って操船操舵にあたり、鷹巣防波堤2南端を替わった12時58分少し過ぎ鷹巣港灯台から251度(真方位、以下同じ。)200メートルの地点において、針路を243度に定め、機関回転数毎分2,000の全速力前進にかけて18.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 A受審人は、先行する僚船を左舷船首約10度150メートルのところに見て続航中、12時59分ほぼ正船首555メートルのところに、形象物を掲げていなかったものの、船首の向きと静止している状況とから錨泊している状態の薄緑色の手漕ぎボート(船名なし)(以下「手漕ぎボート」という。)を視認でき、同時59分少し過ぎ鷹巣港灯台から245度735メートルの地点に達したとき、ほぼ正船首400メートルの同船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近する状況となったが、左舷船首方を先行する僚船に追従しているので前方に他船はいないものと思い、船首を左右に振るなど死角を補う前路の見張りを十分に行うことなく、この状況に気付かず、先行する僚船に追従して、手漕ぎボートを避けることなく進行した。
 漁徳丸は、13時00分鷹巣港灯台から244度1,125メートルの地点において、原針路、原速力のまま、右舷船首部が、手漕ぎボートの左舷船尾部にほぼ平行に衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、海上は穏やかで視界はよく、潮候は下げ潮の中央期であった。
 A受審人は、衝突に気付かず、運航を続けて帰港したとき衝突の事実を知らされた。
 また、手漕ぎボートは、幅1.25メートル深さ0.30メートルで定員4人のオール1組を備えた合成ゴム製ボートで、B指定海難関係人が1人で乗り組み、たい及びひらまさ釣りの目的で、同日06時00分福井県松蔭町の海岸から漕ぎ出し、同海岸西方約500メートルの同県亀島北西方の釣り場に向かった。
 B指定海難関係人は、笛付きのライフジャケットを着用し、12時00分前示衝突地点付近に至り、4キログラムのステンレス製錘を水深40メートルの海底に投じ、これに接続した60メートルの錨索を船首部から伸出し、同地点が遊漁船などの通常航行する水域であったが、錨泊中の形象物を掲げないまま、船首を南西方に向けて錨泊し、船尾方を向いて腰を下ろし、各舷に1本の釣り竿を出して釣りを始めた。
 B指定海難関係人は、3隻の遊漁船が白浜沖に向けて自船の南側30メートルを一団となって通航し、12時59分船首が243度に向いている頃ほぼ正船尾555メートルのところに後続する漁徳丸を認め、同時59分少し過ぎほぼ正船尾400メートルのところに、同船が自船に向首したまま衝突のおそれのある態勢で接近する状況を認めたが、いずれ漁徳丸が錨泊中の自船を避けるものと思い、注意喚起信号を行うことも、その後、オールを漕いで移動するなど衝突を避けるための措置もとることなく釣りを続け、至近に迫った漁徳丸に危険を感じて右舷側から海中に飛び込んだとき、前示のとおり衝突した。
 B指定海難関係人は、航行中の他の遊漁船に救助され、手漕ぎボートと共に鷹巣漁港に曳航された。
 衝突の結果、漁徳丸は船首部に擦過傷を生じ、手漕ぎボートは船尾に設けた荷台及び左舷側に出していた釣り竿を損傷した。 

(原因)
 本件衝突は、福井県亀島北西方沖合において、南西進中の漁徳丸が、船首浮上による死角を補う見張り不十分で、前路で錨泊中の手漕ぎボートを避けなかったことによって発生したが、手漕ぎボートが、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人等の所為)
 A受審人は、福井県亀島北西方沖合において、釣り場に向けて航行する場合、船首浮上による死角があったから、錨泊中の手漕ぎボートを見落とさないよう、船首を左右に振るなどして死角を補う前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、先行する僚船に追従しているので大丈夫と思い、船首死角を補う前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、錨泊中の手漕ぎボートに気付かず、同船に向けて進行して衝突を招き、漁徳丸の船首部に擦過傷を、手漕ぎボート船尾部の荷台及び釣り竿を損傷させるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B指定海難関係人が、福井県亀島北西方沖合において、手漕ぎボートに1人で乗り組んで錨泊中、漁徳丸が自船に向首して避航の様子なく接近するのを認めた際、漕いで移動するなど衝突を避けるための措置をとらなかったことは、本件発生の原因となる。


参考図
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