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平成15年神審第120号
件名

漁船住吉丸遊漁船牛若丸衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月7日

審判庁区分
神戸地方海難審判庁(甲斐賢一郎、田邉行夫、平野研一)

理事官
佐和 明

受審人
A 職名:住吉丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士 
B 職名:牛若丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
住吉丸・・・左舷船首部に破口を伴う擦過傷、機関室の機関及び電装機器に濡れ損
牛若丸・・・左舷外板に破口及び操舵室上部が圧壊するなどの損傷、船長が頸部捻挫及び釣客1人が腰部挫傷の負傷

原因
住吉丸・・・動静監視不十分、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
牛若丸・・・警告信号不履行、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、住吉丸が、動静監視不十分で、漂泊中の牛若丸を避けなかったことによって発生したが、牛若丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aの小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年9月9日14時35分
 紀伊水道
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船住吉丸 遊漁船牛若丸
総トン数 7.3トン 4.8トン
全長   12.40メートル
登録長 11.98メートル  
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力   169キロワット
漁船法馬力数 120  

3 事実の経過
 住吉丸は、船体ほぼ中央に操舵室、その船首方に6区画の魚倉を設けたFRP製漁船で、平成15年7月14日交付の一級小型船舶操縦士免許証を受有するA受審人が1人で乗り組み、延縄漁の餌となる活き小あじを和歌山県田辺港にて購入するため、平成15年9月9日10時30分徳島県椿泊漁港を発した。
 A受審人は、同日12時15分田辺港に到着して活き小あじを仕入れて魚倉に入れたあと、自身の生簀まで運搬する目的で、13時15分椿泊漁港に向けて帰途についた。
 ところで、住吉丸は、小あじを魚倉に入れるとき、小あじの活きを保つために魚倉の海水が入れ替わるよう、魚倉の底板などにある網目のついた通水孔を開いており、通常より船首が沈み加減で、船首0.9メートル船尾1.6メートルの喫水となって、航走を開始しても操舵室からの前方の視野は良好に確保される状態であった。
 13時48分半A受審人は、田辺港港外に至って、印南港(いんなみこう)東防波堤灯台から144度(真方位、以下同じ。)7.8海里の地点で、GPSプロッター上、針路を伊島の南方に向く287度に定め、機関を回転数毎分1,200にかけ、12.0ノットの対地速力で自動操舵により進行した。
 14時30分A受審人は、印南港東防波堤灯台から222度5.2海里の地点に達したとき、ほぼ船首方にスパンカーを船尾に掲げて漂泊している牛若丸を初めて認め、レーダーで1.0海里に確認したが、一瞥して牛若丸の前方を無難に通過できるものと考え、同船の動静監視を十分に行わないまま、牛若丸に向かって続航した。
 その後、A受審人は、短時間で操舵室に戻るつもりで、魚倉の小あじの様子を見に行ったが、思いがけなく弱った小あじが多かったので、船首方を向いて屈み込み、魚倉の中の弱った小あじを捨てる作業を始めた。
 14時34分半A受審人は、牛若丸が正船首方200メートルに存在し、同船に衝突のおそれのある態勢で接近していたが、前示作業に集中し、依然として牛若丸の動静監視を十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けないまま進行中、14時35分印南港東防波堤灯台から231度5.7海里の地点において、原針路、原速力のまま、住吉丸の船首が牛若丸の左舷中央部に前方から50度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力3の南東の風が吹き、視界は良好であった。
 また、牛若丸は操舵室を船体中央やや後方に設置したFRP製遊漁船で、平成11年10月18日交付の一級小型船舶操縦士免状を受有するB受審人が1人で乗り組み、釣客4人を乗船させ、ルアーによる魚釣りの目的で、船首0.4メートル船尾0.9メートルの喫水をもって、同日05時29分和歌山県美浜漁港を発し、紀伊水道において釣場を移動しながら魚釣りを行っていた。
 B受審人は、一旦底まで沈めたルアーを躍らせながら引き上げる、ジギングと呼ばれる方法で、瀬につく小魚を狙うめじろやぶりを釣客に釣らせていたので、船体を瀬の上に留まらせるよう、船尾にスパンカーを展張して船首を風に立てながら機関を操作していた。この日は、潮の流れが弱く、船首を風に立てて機関を中立とするだけで、自船を瀬の上にしばらく留まらせることができた。
 14時30分B受審人は、前示衝突地点付近の釣場に至り、スパンカーを展張したまま機関を中立運転とし、船首を南東に向け、漂泊して魚釣りを再開した。
 このとき、B受審人は、左舷船首28度1.0海里のところに、住吉丸を初めて認めたが、このときは同船船首の波きりの様子から、その船首を自船の船首前方に向けているように考え、その後ときどき住吉丸の動静を監視していた。
 14時34分半B受審人は、200メートルに接近した住吉丸が自船に向かって進行してくるのを見て、同船が自船に潮模様を聞きに接近してきたので、近づけばいずれ減速するものと思い、警告信号を行わず、速やかに機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとらないまま漂泊を続けた。
 14時35分少し前B受審人は、住吉丸が50メートルに接近しても減速しなかったので、ようやく同船との衝突の危険を感じて、機関を全速力前進として右舵一杯をとったものの及ばず、牛若丸の船首が157度に向いたとき前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、住吉丸は左舷船首部に破口を伴う擦過傷を生じたうえ、回航中に破口から浸入した海水が電路のパイプを通じて機関室に入ったので、機関室の機関及び電装機器に濡れ損を生じ、牛若丸は左舷外板に破口及び操舵室上部が圧壊するなど損傷を生じたが、のちいずれも修理された。
 また、B受審人が頸部捻挫を、牛若丸の釣客1人が腰部挫傷をそれぞれ負った。 

(原因)
 本件衝突は、紀伊水道において、西行中の住吉丸が、動静監視不十分で、漂泊中の牛若丸を避けなかったことによって発生したが、牛若丸が、警告信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、紀伊水道において、西行しているとき、船首方に漂泊中の牛若丸を認めた場合、同船の動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、魚倉の中の弱った小あじを捨てる作業に集中して、同船の動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、牛若丸に向かって進行していることに気付かず、同船を避けずに進行して衝突を招き、自船の左舷船首部に破口を伴う擦過傷等を、牛若丸の左舷外板に破口等を生じさせ、また、B受審人に頸部捻挫を、牛若丸の釣客1人に腰部挫傷を負わせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して、同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
 B受審人は、紀伊水道において、住吉丸が自船に向首して接近するのを認めた場合、速やかに機関を使用して移動するなど、衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかしながら、同人は、住吉丸が自船に潮模様を聞きに接近してきたので、近づけばいずれ減速するものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により住吉丸との衝突を招き、前示の損傷等を生じさせた。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図





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