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平成16年横審第22号
件名

油送船第二伊都丸押船第一邦栄丸被押バージ第一邦栄衝突事件
第二審請求者〔理事官 松浦数雄〕

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月22日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(小寺俊秋、竹内伸二、西田克史)

理事官
松浦数雄

受審人
A 職名:第二伊都丸甲板員 海技免許:六級海技士(航海)
B 職名:第一邦栄丸船長 操縦免許:小型船舶操縦士

損害
第二伊都丸・・・右舷船首部外板に凹損
第一邦栄・・・船首部に凹損

原因
第二伊都丸・・・港則法の航法不遵守、船員の常務(避航動作)不遵守(主因)
第一邦栄・・・港則法の航法不遵守、船員の常務(衝突回避措置)不遵守(一因)

主文

 本件衝突は、防波堤の突端を左舷に見る第二伊都丸が、できるだけこれに遠ざかって航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、第一邦栄丸被押バージ第一邦栄が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 受審人Bを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年4月7日20時56分
 京浜港東京区第3区
 
2 船舶の要目
船種船名 油送船第二伊都丸  
総トン数 112トン  
全長 37.31メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 404キロワット  
船種船名 押船第一邦栄丸 被押バージ第一邦栄
総トン数 19トン 約264トン
全長 12.85メートル 40.00メートル
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 809キロワット  

3 事実の経過
 第二伊都丸(以下「伊都丸」という。)は、専ら東京湾内における軽油等の輸送に従事する、一層甲板の船尾船橋型鋼製油送船で、船長C及びA受審人ほか2人が乗り組み、空倉のまま、船首0.3メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年4月7日19時00分横須賀港を発し、京浜港東京区第3区の大井ふ頭その2に所在する定係場所に向かった。
 C船長は、発航後単独の船橋当直に当たり、京浜港の港界にほぼ沿って北上し、19時50分鶴見航路沖合に達したとき、甲板員兼船長として雇い入れされて時々船長職を執り京浜港内での操船も定係場所への着岸も十分経験していたA受審人に同当直を引き継いで降橋し、食事を済ませたのち、操舵室前方の甲板上で係留準備に当たった。
 ところで、大井ふ頭その2は、北を頂点とするほぼ正三角形の形状をしており、伊都丸の定係場所が北岸の船溜まりにあって、同ふ頭北東岸の中央付近から西防波堤が約280メートル北東方に突き出ていた。そして、同防波堤突端沖合は、対岸の埋立地との間が可航幅約900メートルの水路になっていて、その中央部に幅約350メートルの東京西航路が設定され、同防波堤突端から約300メートル沖合に、同航路西側境界を示す東京西第7号灯浮標(以下「7号灯浮標」という。)が設置されていた。
 A受審人は、船長から船橋当直を引き継ぎ、航行中の動力船が掲げる正規の灯火と危険物積載船であることを示す紅色の全周灯とを表示して北上を続け、平素から定係場所へ帰航する際、左舷に見る西防波堤突端にできるだけ近づき、同防波堤をかわして間もなく左転する針路としていたので、大井ふ頭その2の東方沖合に差し掛かったとき、東京西航路に入らず、同防波堤突端と7号灯浮標との間に向けて航行した。
 20時53分わずか前A受審人は、東京西防波堤仮設灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から138度(真方位、以下同じ。)730メートルの地点で、針路を西防波堤突端から約60メートル沖合に向かう324度に定め、機関を回転数毎分1,080にかけ、9.0ノットの速力(対地速力、以下同じ。)とし、手動操舵により進行した。
 A受審人は、20時53分半少し前西防波堤灯台から137度620メートルの地点に達したとき、正船首わずか左1,390メートルのところに、第一邦栄丸(以下「邦栄丸」という。)が表示する白、紅、緑3灯を視認し、同船がバージ第一邦栄(以下「邦栄」といい、両船を総称するときには「邦栄丸押船列」という。)を押して西防波堤突端に近寄って南下していたが、自船が邦栄丸押船列より早く同防波堤に達するので、同防波堤をかわってから直ちに定係場所に向けて左転すれば、互いに右舷を対して航過できるものと思い、左舷に見る同防波堤突端からできるだけ遠ざかって航行しなかった。
 A受審人は、20時54分半西防波堤灯台から128度290メートルの地点に達したとき、邦栄丸押船列が方位に変化のないまま760メートルになり、その後衝突の危険のある態勢で接近したが、依然として自船が左転すれば互いに右舷を対して航過できると思い、右転するなど衝突を避けるための措置をとらずに続航中、同時55分半西防波堤突端をかわしたので定係場所に向けて左舵をとったところ、間もなく邦栄丸押船列が右転したことに気付き、機関を後進にかけたが効なく、20時56分西防波堤灯台から347度150メートルの地点において、伊都丸は、295度に向首したとき、原速力のまま、その右舷船首に邦栄の船首が、前方から81度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南南西風が吹き、潮候は下げ潮の初期で視界は良好であった。
 また、邦栄丸は、2機2軸の船首船橋型鋼製押船で、B受審人(平成10年11月一級小型船舶操縦士免許取得、同15年7月一級小型船舶操縦士免許と特殊小型船舶操縦士免許に更新)ほか1人が乗り組み、砂利650トンを積載して船首尾とも3.2メートルの喫水となった邦栄の船尾凹部に船首部をかん合し、全長約47メートルの邦栄丸押船列を構成し、大井ふ頭その2の南方に錨泊する目的で、船首1.5メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、同日18時45分隅田川沿いの東京都足立区小台を発し、錨地に向かった。
 B受審人は、航行中の動力船が掲げる正規の灯火を表示して隅田川を下り、京浜港東京区第1区及び同第2区を経て同第3区に入ったが、大型船と行き会うのを避けるため東京西航路に入らず、その西方外側を大井ふ頭その1の岸壁に沿って南下した。
 20時50分半少し過ぎB受審人は、西防波堤灯台から326度1,370メートルの地点で、針路を右舷船首方の西防波堤突端から約70メートル沖合に向かう143度に定めて自動操舵とし、機関を回転数毎分1,500にかけて7.5ノットの速力で進行した。
 B受審人は、20時53分半少し前西防波堤灯台から328.5度780メートルの地点に達したとき、0.75海里レンジとしていたレーダーで、正船首わずか右1,390メートルのところに伊都丸の映像を探知し、双眼鏡で同船の両舷灯を確認して手動操舵に切り替え、同船が西防波堤突端からできるだけ遠ざかって航行していなかったので、船橋前面窓枠の左舷側上部付近に設置してあるサーチライトを数回点滅し、同船の動静を見守りながら同防波堤突端に近寄る針路で続航した。
 B受審人は、20時54分半西防波堤灯台から332度490メートルの地点に達したとき、伊都丸が方位に変化のないまま760メートルになったので、再度サーチライトを点滅させ、その後衝突の危険がある態勢で接近するのを認めたが、同船がサーチライトを見て自船に気付き、右転して同防波堤突端から遠ざかって航行するものと思い、速やかに機関を後進にかけて停止するなど、衝突を避けるための措置をとらずに進行中、20時56分少し前至近に迫った同船との衝突の危険を感じ、右舵一杯として機関を全速力後進としたが及ばず、邦栄丸押船列は、196度に向首したとき、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、伊都丸は、右舷船首部外板に凹損を、邦栄は、船首部に凹損をそれぞれ生じたが、のちいずれも修理された。

(航法の適用)
 本件衝突は、夜間、京浜港東京区第3区において、北上する伊都丸と南下する邦栄丸押船列とが、いずれも東京西航路の外側を航行中、西防波堤突端付近で衝突した事件であり、その適用航法について検討する。
 京浜港は、港則法が適用される港であり、同法第17条は、港内において、防波堤、ふ頭その他の工作物の突端又は停泊船舶を右舷に見て航行する船舶と、左舷に見て航行する船舶の航法をそれぞれ定めている。
 本件発生時の状況を検討すると、伊都丸は西防波堤突端を左舷に見て北上し、邦栄丸押船列は同突端を右舷に見て南下し、両船は、同防波堤沖合で出会う状況であった。また、雑種船以外の両船が、港則法第12条で定められた東京西航路を航行しなかったことは、同条に違反する事実であるが、本件衝突とは相当因果関係が認められず、従って、同法第17条によって律するのが相当である。 

(原因)
 本件衝突は、夜間、京浜港東京区の西防波堤付近において、同防波堤の突端を左舷に見て北上する伊都丸が、できるだけこれに遠ざかって航行しなかったばかりか、衝突を避けるための措置をとらなかったことによって発生したが、南下する邦栄丸押船列が、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、夜間、京浜港東京区の西防波堤付近において、定係場所に向かうため、同防波堤の突端を左舷に見て北上し、邦栄丸押船列が表示する白、紅、緑3灯を認めた場合、同押船列が同防波堤の突端付近に向けて南下していたのであるから、同押船列と同防波堤の突端付近で衝突の危険が生じないよう、同防波堤の突端からできるだけ遠ざかって航行すべき注意義務があった。しかるに、同人は、西防波堤をかわってから直ちに定係場所に向けて左転すれば互いに右舷を対して航過することができると思い、同防波堤の突端からできるだけ遠ざかって航行しなかった職務上の過失により、邦栄丸押船列との衝突を招き、伊都丸の右舷船首外板及び邦栄の船首部に、それぞれ凹損を生じさせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
 B受審人は、夜間、京浜港東京区の西防波堤付近において、右舷船首方の同防波堤突端に近寄る針路で南下中、船首方の伊都丸が、同防波堤の突端からできるだけ遠ざかって航行せず、衝突の危険のある態勢で接近するのを認めた場合、速やかに機関を後進にかけて停止するなど、同船との衝突を避けるための措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、自船がサーチライトを点滅したので伊都丸が右転して同防波堤突端からできるだけ遠ざかって航行するものと思い、衝突を避けるための措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
 以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
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