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平成16年横審第16号
件名

プレジャーボートカナチIIプレジャーボート陽海号衝突事件

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月13日

審判庁区分
横浜地方海難審判庁(西田克史、竹内伸二、岩渕三穂)

理事官
小金沢重充

受審人
A 職名:陽海号船長 操縦免許:小型船舶操縦士 

損害
カナチII・・・右舷船尾部を破損
陽海号・・・船首部に擦過傷、船長が外傷性ショックによる心不全で死亡

原因
カナチII・・・船員の常務不履行(急激に減速して衝突の危険を生じさせたこと)(主因)
陽海号・・・船員の常務不履行(安全な船間距離をとらなかったこと)(一因)

主文

 本件衝突は、先航するカナチIIが、急激に減速して衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、後続する陽海号が、安全な船間距離をとらなかったことも一因をなすものである。
 受審人Aを戒告する。
 
理由

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成15年8月24日14時30分
 千葉県館山湾
 
2 船舶の要目
船種船名 プレジャーボートカナチII プレジャーボート陽海号
全長   2.86メートル
登録長 2.66メートル  
機関の種類 電気点火機関 電気点火機関
出力 55キロワット 80キロワット

3 事実の経過
 カナチIIは、B社が製造した最大搭載人員3人のウォータージェット推進式FRP製水上オートバイで、船長Cが1人で乗り組み、遊走の目的で、船首0.05メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、平成15年8月24日14時15分陽海号と一緒に千葉県館山湾に面する那古桟橋付近の海岸を発し、その西方1海里沖合に向かった。
 C船長は、救命胴衣を着用し、操縦席に座って陽海号とともに高速航行しながら旋回するなどして遊走したのち、帰途に就くこととし、14時29分船形港西防波堤灯台(以下「西防波堤灯台」という。)から209度(真方位、以下同じ。)1,060メートルの地点を発進すると同時に、針路を前示の海岸に向けて055度に定め、時速60キロメートルの対地速力で進行した。
 14時30分わずか前C船長は、同時に発進した陽海号が自船の正船尾まで10メートルに接近して後続していたところ、アクセルレバーから指が離れたものか、後続の陽海号に対して何の合図もしないまま、突然急激に減速し、同船に衝突の危険を生じさせ、14時30分西防波堤灯台から139度475メートルの地点において、カナチIIは、船首を右に振って095度を向き、わずかな行きあしとなったとき、その右舷船尾に陽海号の船首が後方から40度の角度で衝突した。
 当時、天候は晴で風力2の南西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、視界は良好であった。
 また、陽海号は、D社が製造した最大搭載人員2人のウォータージェット推進式FRP製水上オートバイで、A受審人(平成8年7月1日四級小型船舶操縦士免許取得)が1人で乗り組み、船首0.05メートル船尾0.15メートルの喫水をもって、同日14時15分カナチIIと一緒に前示の海岸を発し、その西方1海里沖合に向かった。
 ところで、A受審人は、それまで夏になると度々義弟のC船長とともに館山湾で水上オートバイの遊走に興じ、今回も各自の所有船を持ち寄って正午ごろから遊走や海水浴などを楽しんだのち、再びC船長と一緒に沖合で遊走することになり、同船長がカナチIIの以前の所有者で機関の整備に詳しいことから、遊走のついでに機関の調子を見てもらうつもりで、カナチIIと陽海号とを交換して乗り組んだものであった。
 A受審人は、救命胴衣を着用し、操縦席に座ってカナチIIとともに高速航行しながら旋回するなどの遊走に合わせ、同船の機関が良好であることを富島船長に確認してもらったのち、帰途に就くこととし、14時29分前示のカナチII発進地点を発進し、針路を055度に定め、同船を正船首10メートルに見ながら時速60キロメートルの対地速力で操縦席に座って進行した。
 発進後、A受審人は、カナチIIの正船尾まで10メートルに接近したままで後続していたが、周囲に他船や遊泳者のほか、浮遊物などを見掛けなかったうえ、自船に対し合図をしないで減速などすることはないと思い、先航する同船に異常な動きがあっても衝突を避けられるよう、安全な船間距離をとらないで続航した。
 14時30分わずか前A受審人は、突然カナチIIが急激に減速したが、どうすることもできず、陽海号は、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、カナチIIは、右舷船尾部を破損し、陽海号は、船首部に擦過傷を生じ、C船長は、衝撃で海中に転落し、間もなく救助されて病院に搬送されたが、外傷性ショックによる心不全で死亡と検案された。 

(原因)
 本件衝突は、千葉県館山湾において、両船が相前後して高速力で帰航中、先航するカナチIIが、急激に減速して衝突の危険を生じさせたことによって発生したが、後続する陽海号が、安全な船間距離をとらなかったことも一因をなすものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、千葉県館山湾において、カナチIIの正船尾を高速力で後続する場合、先航する同船に異常な動きがあっても衝突を避けられるよう、安全な船間距離をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、周囲に他船や遊泳者のほか、浮遊物などを見掛けなかったうえ、自船に対し合図をしないで減速などすることはないと思い、安全な船間距離をとらなかった職務上の過失により、カナチIIの急激な減速に対応できずに同船との衝突を招き、カナチIIの右舷船尾部に破損及び陽海号の船首部に擦過傷をそれぞれ生じさせ、C船長が海中に転落し、外傷性ショックによる心不全で死亡する事態を招くに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。

 よって主文のとおり裁決する。


参考図
(拡大画面:18KB)





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