(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月1日04時20分
福島県福島第一原子力発電所東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船晴祥丸 |
漁船高福丸 |
総トン数 |
6.6トン |
3.0トン |
全長 |
17.70メートル |
11.00メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
367キロワット |
117キロワット |
3 事実の経過
晴祥丸は、機船船びき網漁業に従事するFRP製漁船で、平成10年10月29日に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、操業の目的で、船首0.7メートル船尾2.0メートルの喫水をもって、平成15年8月1日03時30分福島県請戸漁港を発し、同県福島第一原子力発電所(以下「発電所」という。)東方沖合2海里ばかりの漁場に向かった。
03時45分A受審人は、漁場に至り、仕掛けた刺し網を揚網機を使用して揚げたのち、04時15分東電福島原子力発電所専用港南防波堤灯台(以下「南灯台」という。)から078度(真方位、以下同じ。)2.1海里の地点で、針路を225度に定め、機関回転数を毎分800にかけ、8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、手動操舵により次の刺し網に向かって移動を始めた。
ところで、A受審人は、晴祥丸が航行を始めると船首部に死角を生じる船であったので、航行中は操舵室の左右の窓を開け、そこから交互に顔を出したり、また、必要に応じて船首を左右に振るなどしたりして前路の見張りを行いながら、同船の操船に当たっていた。
発進後、A受審人は、霧が発生して視程がやや狭まっていたうえ、甲板員の息子が船首部で作業灯3個を点灯して網に掛かった魚を外す作業をしており、前路が見えにくい状況にあったものの、機関の回転数を下げて低速力で航行しているので、船首方に何か異常を発見しても十分に替わす余裕があるものと思い、3海里レンジとして作動中のレーダーで周囲の状況を確認するとか、左右の窓から顔を出して前路の状況を確認するなど前路の見張りを十分に行わず、舵輪の後方に立ち、操舵を行いながら進行した。
04時18分A受審人は、南灯台から085度1.8海里の地点に達したとき、正船首500メートルのところに、漂泊して揚網中の高福丸を視認することができたが、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かず、同船を避けることなく続航した。
晴祥丸は、A受審人が高福丸に気付かないまま進行中、04時20分わずか前船首至近に同船の灯火を初めて視認し、機関を後進にかけたが、及ばず、04時20分南灯台から091度1.6海里の地点において、原針路、原速力のまま、その船首が高福丸の右舷中央部からやや船首寄りの外板にほぼ直角に衝突した。
当時、天候は曇で風力1の北北西風が吹き、潮候は上げ潮の末期で、日出は04時39分であった。
また、高福丸は、自動操舵の設備がない、刺し網漁業に従事するFRP製漁船で、平成10年10月29日に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人ほか1人が乗り組み、仕掛けた刺し網を揚げる目的で、船首0.2メートル船尾1.20メートルの喫水をもって、同日03時47分請戸漁港を発し、発電所東方沖合の漁場に向かい、04時10分前示衝突地点付近に至って揚網作業を開始した。
04時15分B受審人は、折から北寄りの風が吹いており、刺し網も南北方向に入れていたので、船首を315度に向け、その南端から揚げることとし、ぼんでんなどを揚げ終えて刺し網を揚げ始めたとき、ぼんでんを揚げ始める前から視認していた晴祥丸が右舷正横1,240メートルのところを、自船に向首して発進するのを認めたものの、いまだ、同船とは距離があり、更に接近すれば、揚網中の自船を避けて行くものと判断し、揚網作業を続けた。
04時18分B受審人は、刺し網を1反の半分ばかりを揚げたとき、晴祥丸が同方向500メートルまで接近する状況となっていたが、いずれ他の同業船が行うように、同船が自船を避けて行くものと思い、避航を促す有効な音響による信号を行うことも、更に接近したとき、衝突を避けるための措置をとることもなく揚網作業を続けた。
こうして、高福丸は、04時19分半B受審人が依然自船に向首したまま接近する晴祥丸に対して衝突の危険を感じ、揚網機を停止して機関を後進にかけたが、及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、晴祥丸は、船首部に擦過傷を生じ、高福丸は、右舷中央部を圧壊したが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、福島県福島第一原子力発電所東方沖合において、晴祥丸が、見張り不十分で、漂泊して揚網中の高福丸を避けなかったことによって発生したが、高福丸が、動静監視不十分で、避航を促す有効な音響による信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、福島県福島第一原子力発電所東方沖合において、単独で船橋当直に当たって漁場を移動する場合、晴祥丸が航行中には船首部に死角を生じる船であったから、漂泊して揚網中の高福丸を見落とすことのないよう、3海里レンジとして作動中のレーダーで周囲の状況を確認するとか、左右の窓から顔を出して前路の状況を確認するなど前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、機関の回転数を下げて低速力で航行しているので、船首方に何か異常を発見しても十分に替わす余裕があるものと思い、見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、死角の中に入った高福丸に気付かず、同船を避けることなく進行して衝突を招き、自船に擦過傷を生じさせ、高福丸の右舷中央部外板に圧壊を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、福島県福島第一原子力発電所東方沖合において、漂泊して揚網中、自船に向首接近する態勢の晴祥丸を視認した場合、自船と衝突のおそれがあるかどうかを判断できるよう、晴祥丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、いずれ他の同業船が行うように、同船が自船を避けて行くものと思い、動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、避航を促す有効な音響による信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく、間近に接近するまで揚網作業を続けていて同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。