(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成14年12月7日01時45分
青森県むつ小川原港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六十五甚宝丸 |
漁船第三十五興富丸 |
総トン数 |
144トン |
143トン |
全長 |
36.62メートル |
36.28メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
735キロワット |
735キロワット |
3 事実の経過
第六十五甚宝丸(以下「甚宝丸」という。)は、可変ピッチプロペラを装備し、青森県鮫角から同県尻屋埼までの各沖合間において、毎年9月から翌3月までいか沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか11人が乗り組み、氷5トンを載せ、操業の目的で、船首1.8メートル船尾4.5メートルの喫水をもって、レーダーを作動させ、法定灯火を表示したほか、後部甲板上のマスト上方に後方に向けた4個の作業灯をそれぞれ点け、平成14年12月7日00時15分同県八戸港を発し、尻屋埼北方7海里沖合の漁場に向かった。
A受審人は、出港操船を終えたのちも引き続き2時間ほど船橋当直を行うこととし、中央防波堤を右舷側に航過してから北上を始め、00時38分ごろ自動操舵に切替えたところ、普段のように、うねりと波浪で船首が左右各10度ほど振れだし、時折雪も降っていたので、STC及びFTCを調整し、レーダー画面上のほぼ正船首に第三十五興富丸(以下「興富丸」という。)の映像と左右各前方に同航の2隻の映像をそれぞれ認め、興富丸が自船より遅く走っていて正船首方にいたことから、自船の船首をわずか左方に向けて航行した。
00時48分A受審人は、興富丸が正船首わずか右方になり、同船との横距離がわずかに拡がったので再び船首方向を戻すこととし、三沢港内東防波堤灯台(以下「東防波堤灯台」という。)から122度(真方位、以下同じ)5.1海里の地点で、針路を000度に定め、機関を翼角19度の全速力前進にかけ、12.5ノットの対地速力(以下「速力」という。)で進行した。
00時50分A受審人は、肉眼とレーダーとにより、ほぼ正船首1.4海里に興富丸と数隻の同航船の各船尾灯と映像とを認め、興富丸までの距離が十分あるので同一針路のまま航行することとし、船橋の室内灯を点灯して操舵用いすの後方で、船首方向を向いて同いすを机代わりに使用し、公用航海日誌及び安全担当者記録簿等の記録を始めたことと、同灯の点灯により周囲の見張りが妨げられたこととで、同船の動静を監視できない態勢で続航した。
01時42分A受審人は、陸奥塩釜灯台から081度6.1海里の地点に達したとき、興富丸が正船首少し右方140メートルばかりになり、同船との横距離がわずかのまま、自船が興富丸を追い越す態勢となったが、同船に対する動静監視を十分に行わなかったので、この状況を確認できず、依然、同船までの距離が十分あるので同一針路のまま航行しても大丈夫と思い、同船を確実に追い越し、かつ、同船から十分に遠ざかるまでその進路を避けることなく進行した。
A受審人は、書類等の記録を続けながら北上中、01時45分陸奥塩釜灯台から074度6.3海里の地点において、甚宝丸は、船首が右方に振れて010度を向いたとき、原速力のまま、その右舷船首部が興富丸の左舷船尾部に後方から10度の角度で衝突した。
当時、天候は曇で風力3の北西風が吹き、潮候は上げ潮の初期で、降雪は止んで視界は良好となり、付近海上には波高2.5メートルのうねりがあった。
また、興富丸は、可変ピッチプロペラを装備し、鮫角から尻屋埼までの各沖合間において、毎年9月から翌1月までいか沖合底びき網漁業に従事する鋼製漁船で、B受審人ほか13人が乗り組み、氷4トンを載せ、操業の目的で、船首2.6メートル船尾3.7メートルの喫水をもって、レーダーを作動させ、法定灯火を表示したほか、後部甲板上のマスト上方に後方に向けた4個の作業灯をそれぞれ点け、同日00時00分八戸港を発し、尻屋埼北西方7海里沖合の漁場に向かった。
発航後、B受審人は、10隻ほどの同業船がほぼ同時に出航して同じ漁場に向かっているのを知り、自船が中程にいたうえ、速力が同業船のなかで最も遅いので、航行中に追い越されるものと考え、出港操船を終えたのちも引き続き2時間ほど船橋当直を行うこととした。
B受審人は、中央防波堤の北端を右舷側に替わしたとき、自動操舵にして北上を始め、00時39分東防波堤灯台から124度5.3海里の地点で、針路を000度に定め、機関を翼角17度の全速力前進にかけ、11.0ノットの速力で進行した。
01時10分B受審人は、陸奥塩釜灯台から128度7.8海里の地点に達したとき、レーダーで正船尾方0.9海里のところに、速力の速い同航の甚宝丸がいることに気付き、同船が自船を避けて追い越すものと考え、船橋内左舷側に立ち、窓越しに前路を見続けていたため、甚宝丸の動静を監視しない態勢で続航した。
01時42分B受審人は、陸奥塩釜灯台から079度6.2海里の地点に達したとき、甚宝丸が正船尾少し左方140メートルばかりになって自船を追い越す態勢となったが、依然、甚宝丸が自船を避けて追い越すものと思い、甚宝丸に対する動静監視を十分に行わなかったので、このことに気付かず、警告信号を行うことも、更に間近に接近するに及んでも、右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行中、原針路、原速力のまま、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、甚宝丸は、右舷側前部外板に擦過傷、右舷錨架台にずれを生じ、興富丸は、左舷側後部外板に凹損を生じたが、のちいずれも修理された。
(原因)
本件衝突は、夜間、青森県むつ小川原港南東方沖合において、興富丸を追い越す甚宝丸が、動静監視不十分で、興富丸の進路を避けなかったことによって発生したが、興富丸が、動静監視不十分で、警告信号を行わず、衝突を避けるための協力動作をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、夜間、青森県むつ小川原港南東方沖合において、肉眼とレーダーとで前路に速力の遅い興富丸の船尾灯とその映像とを認め、右舷側近距離に同船を追い越す場合、同船を確実に追い越し、かつ、同船から十分に遠ざかるまで、興富丸に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、レーダーで興富丸まで1.4海里あるのを認めたことから、同船までの距離が十分あるので同一針路のまま航行しても大丈夫と思い、興富丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、同一針路のまま北上を続けて同船との衝突を招き、甚宝丸の右舷側前部外板に擦過傷、右舷錨架台にずれを、興富丸の左舷側後部外板に凹損をそれぞれ生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
B受審人は、夜間、青森県むつ小川原港南東方沖合において、レーダーで後方から接近する速力の速い甚宝丸を認めた場合、引き続き同船に対する動静監視を十分に行うべき注意義務があった。しかしながら、同人は、甚宝丸が自船を避けて追い越すものと思い、甚宝丸に対する動静監視を十分に行わなかった職務上の過失により、自船を避けないで接近する甚宝丸に気付かず、同船に対して警告信号を行うことも、更に間近に接近するに及んでも、右転するなどの衝突を避けるための協力動作をとることもなく進行して同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。