(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年7月17日07時10分
青森県むつ小川原港南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第五大宝丸 |
漁船第三十三勝進丸 |
総トン数 |
13トン |
4.7トン |
全長 |
18.68メートル |
14.30メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
584キロワット |
235キロワット |
3 事実の経過
第五大宝丸(以下「大宝丸」という。)は、小型いか釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成13年12月27日に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するA受審人ほか1人が乗り組み、するめいか漁の目的で、船首0.6メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、平成15年7月16日18時50分青森県小泊漁港下前地区を発し、同県むつ小川原港南東方沖合の漁場に向かった。
翌17日07時06分少し過ぎA受審人は、陸奥塩釜灯台から077度(真方位、以下同じ。)8.5海里の地点に達したとき、針路を310度に定め、機関を半速力前進にかけて8.0ノットの対地速力(以下「速力」という。)とし、自動操舵により進行した。
針路を定めたとき、A受審人は、正船首方1,000メートルのところに、船首を東方に向け、船尾にスパンカーを展張して漂泊中の第三十三勝進丸(以下「勝進丸」という。)を視認できる状況にあったものの、左舷側至近を漁場に向けて北上中のいか釣り漁船群に気をとられ、前路の見張りを十分に行っていなかったので、このことに気付かなかった。
07時09分A受審人は、陸奥塩釜灯台から075度8.3海里の地点に達したとき、正船首250メートルのところに、船首を090度に向けて漂泊中の勝進丸を視認することができたが、依然として左舷側至近を北上中のいか釣り漁船群に気をとられたまま、前路の見張りを十分に行っていなかったので、同船の存在に気付かず、これを避けることなく続航した。
大宝丸は、A受審人が原針路、原速力を保ったまま、漁場に向かって進行中、07時10分陸奥塩釜灯台から074度8.2海里の地点において、その船首が勝進丸の右舷前部外板に前方から40度の角度をもって衝突した。
当時、天候は曇で風力2の東風が吹き、潮候は下げ潮の中央期であった。
また、勝進丸は、いか釣り漁業に従事するFRP製漁船で、平成13年11月21日に交付された一級小型船舶操縦士免状を有するB受審人ほか2人が乗り組み、操業の目的で、船首0.3メートル船尾1.8メートルの喫水をもって、同月17日04時40分青森県三沢港を発し、同港北東方沖合の漁場に向かった。
05時40分B受審人は、陸奥塩釜灯台から095度7.9海里の漁場に至り、操業の段取りを終えたのち、06時10分ころ両舷から560本の釣り針を全て下ろして釣りを始め、いか40キログラムを獲たが、その後、釣果が得られなくなったことから、前日釣果があった3海里ほど北方の漁場に移動することとし、同時30分5ノットばかりの速力で北上を開始した。
07時06分B受審人は、前示衝突地点付近に至り、前もって作動させていた魚群探知機に魚影の反応があったので、機関を停止し、折からの東風に船首を立てて漂泊し、船首部で甲板員に周囲の見張りを行わせながら、釣り針の投入作業を始めた。
07時09分B受審人は、前示衝突地点で、船首を090度に向け、釣り針を下ろしていたとき、右舷船首40度250メートルのところに、自船に向首し、衝突のおそれがある態勢で接近する大宝丸を視認したが、更に接近すれば、他の僚船がいつも行っているように自船を避けるものと思い、大宝丸に対して避航を促すことができるよう、注意喚起信号を行うことも、衝突を避けるための措置をとることもなく、釣り針の投入作業を続けた。
勝進丸は、07時10分わずか前B受審人が釣り針の投入を終えて待機していたとき、その方位に変化のないまま、間近に迫った大宝丸を視認して衝突の危険を感じ、機関を後進にかけ、わずかに後進行きあしがついたが、及ばず、前示のとおり衝突した。
衝突の結果、大宝丸は、球状船首に凹損を生じ、勝進丸は、右舷船首部を圧壊したが、のちいずれも修理された。また、勝進丸甲板員が右大腿打撲などを負った。
(原因)
本件衝突は、青森県むつ小川原港南東方沖合において、第五大宝丸が、見張り不十分で、漂泊中の第三十三勝進丸を避けなかったことによって発生したが、第三十三勝進丸が、注意喚起信号を行わず、衝突を避けるための措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
A受審人は、青森県むつ小川原港南東方沖合において、単独で船橋当直に当たって漁場に向かう場合、前路で漂泊中の第三十三勝進丸を見落とすことのないよう、前路の見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、左舷側至近を漁場に向かって北上する漁船群に気をとられ、前路の見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、漂泊中の第三十三勝進丸を見落とし、同船を避けることなく進行して衝突を招き、同船の右舷船首部外板を圧壊させ、自船の球状船首に凹損を生じさせるとともに第三十三勝進丸の甲板員に右大腿打撲を負わせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
B受審人は、青森県むつ小川原港南東方沖合において、漂泊中、自船に衝突のおそれがある態勢で接近する第五大宝丸を視認した場合、避航を促すことができるよう、同船に対して注意喚起信号を行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、更に接近すれば、他の僚船がいつも行っているように第五大宝丸が自船を避けるものと思い、注意喚起信号を行わなかった職務上の過失により、衝突を避けるための措置をとることもなく操業を続けて同船との衝突を招き、前示損傷を生じさせ、甲板員に前示負傷を負わせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。