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平成16年函審第34号
件名

漁船第23宝亀丸漁船第三十五晴興丸漁船十一号勇勝丸衝突事件(簡易)

事件区分
衝突事件
言渡年月日
平成16年7月27日

審判庁区分
函館地方海難審判庁(黒岩 貢)

理事官
阿部房雄

受審人
A 職名:第23宝亀丸漁労長兼一等航海士 海技免許:五級海技士(航海)

損害
第23宝亀丸・・・船首索の切断及び船尾部左舷側外板に凹損等
第三十五晴興丸・・・船首索の切断及び船首尾の探照灯各1台に損傷
十一号勇勝丸・・・船首部外板にペイント剥離

原因
第23宝亀丸・・・速力過大(岸壁係留時の速力調整不適切)

裁決主文

 本件衝突は、第23宝亀丸が、岸壁に係留する際の速力調整が不適切で、過大な後進行きあしのまま、船尾方に係留中の第三十五晴興丸及び十一号勇勝丸に向け後退したことによって発生したものである。
 受審人Aを戒告する。
 
裁決理由の要旨

(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
 平成14年9月5日09時00分
 北海道厚岸港
 
2 船舶の要目
船種船名 漁船第23宝亀丸 漁船第三十五晴興丸
総トン数 155トン 99トン
全長 36.10メートル  
登録長   27.44メートル
機関の種類 ディーゼル機関 ディーゼル機関
出力 647キロワット 882キロワット
船種船名 漁船十一号勇勝丸  
総トン数 69.99トン  
登録長 27.12メートル  
機関の種類 ディーゼル機関  
出力 514キロワット  

3 事実の経過
 第23宝亀丸(以下「宝亀丸」という。)は、バウスラスターを装備したさんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか14人が乗り組み、ロシア連邦の漁業監視員1人を便乗させ、操業の目的で、平成14年9月2日07時15分北海道厚岸港を発し、同港の東南東方90海里から南南東方40海里にかけての漁場においてさんま漁を行い、同月5日04時10分厚岸灯台から145.5度(真方位、以下同じ。)37.5海里の地点においてさんま約50トンを漁獲したところで操業を切り上げ、船首2.2メートル船尾4.2メートルの喫水をもって、同地点を発進し、厚岸港への帰途についた。
 当時、宝亀丸では、漁場、基地間の船橋当直を、船長及び甲板長に甲板員6人を加えた計8人を4班に分け、2時間交代4直制で行っており、入出港操船は、船長またはA受審人が担当することにしていたが、この日船長の体調が悪く、A受審人が入港操船を行うことにしていた。
 また、厚岸港は、厚岸湾内奥の厚岸湖入口に南北に架かる厚岸大橋両端に広がる港で、同橋の北側が湖北地区、南側が湖南地区と称され、同橋北側基部から西北西方に800メートルほど延びる岸壁が、魚市場のある湖北岸壁で、水揚げ漁船の係留場所となっており、宝亀丸も同岸壁に係留することにしていた。
 発進時A受審人は、針路を厚岸湾入口の大黒島西方に向け、まもなく甲板員2人に当直を引き継いで休息し、07時05分厚岸灯台南方3海里付近に達したとき、再び昇橋、単独の船橋当直に就いて厚岸湾を北上し、07時42分アイカップ埼を右舷側500メートルに通過してからは徐々に減速して予定岸壁に向かった。
 07時59分A受審人は、厚岸港灯浮標を左舷側至近に並航したとき、湖北岸壁に水揚げ漁船が多数係留し、空きがないのを認め、08時00分厚岸港南防波堤灯台(以下「防波堤灯台」という。)から044度1,440メートルの、湖北岸壁西端の南西方200メートルばかりの地点に至って漂泊を開始した。
 08時50分A受審人は、湖北岸壁中央部の、防波堤灯台から056.5度1,850メートルのところに係留していた漁船が出航し、50メートルばかりの空きができたことを認め、同所に左舷付けで係留することとし、主機遠隔操縦装置をポータブルコントローラーで操作できるように切り替え、操舵装置も別のコントローラーによる遠隔操舵とし、前示漂泊地点において針路を092度に定め、機関を極微速力前進にかけ、2.4ノットの速力(対地速力、以下同じ。)で進行した。
 08時56分A受審人は、防波堤灯台から055度1,780メートルの地点に達したとき、針路を着岸予定地点わずか沖合に向く097度に転じ、機関回転数を徐々に減じながら右舵一杯、バウスラスターを左回頭一杯として続航した。
 08時59分少し過ぎA受審人は、防波堤灯台から057度1,850メートルの地点に至り、着岸予定地点に接近したところで機関を停止し、船首索を岸壁のビットに取り、次いで左舵一杯、バウスラスターを右回頭一杯とし、機関を後進にかけて岸壁と平行に後退することとした。
 ところが、A受審人は、着岸を急ぎ、極微速力後進と機関停止を繰り返して後退するなど、後進速力の調整を適切に行うことなく、機関を5.0ノットの微速力後進とし、後進行きあしがついたところで微速力前進に切り替えたが、機関の前進操作が若干遅れたため、クラッチが切り替わらないうちに後進行きあしが過大となり、船首索が切断してもさらに後退し、09時00分宝亀丸は、防波堤灯台から056度1,830メートルの地点において、110度を向首したまま後退したその船尾が、後方に係留中の第三十五晴興丸(以下「晴興丸」という。)の船首部に約3ノットの速力で衝突し、その衝撃で晴興丸の船首索が切断して同船は後退し、同船の船尾部が後方に係留していた十一号勇勝丸(以下「勇勝丸」という。)の船首部に衝突した。
 当時、天候は晴で風力1の南南東風が吹き、潮候は上げ潮の初期であった。
 また、晴興丸は、さんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、船長兼漁労長Bほか17人が乗り組み、水揚げの目的で、湖北岸壁に110度を向首して左舷付けで係留中、前示のとおり衝突した。
 一方、勇勝丸は、さんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、船長Cほか14人が乗り組み、水揚げの目的で、湖北岸壁に110度を向首して左舷付けで係留中、前示のとおり衝突した。
 衝突の結果、宝亀丸は、船首索の切断及び船尾部左舷側外板に凹損等を、晴興丸は、船首索の切断及び船首尾の探照灯各1台に損傷を、勇勝丸は、船首部外板にペイント剥離をそれぞれ生じた。 

(原因)
 本件衝突は、北海道厚岸港において、宝亀丸が、前後に他船が係留する岸壁に横付け係留する際、速力の調整が不適切で、過大な後進行きあしのまま船尾方に係留中の晴興丸及び勇勝丸に向け後退したことによって発生したものである。
 
(受審人の所為)
 A受審人は、北海道厚岸港において、前後に他船が係留する岸壁に横付け係留する場合、極微速力の前後進と機関停止を繰り返すなど、速力の調整を適切に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、着岸を急ぎ、速力の調整を適切に行わなかった職務上の過失により、過大な後進行きあしのまま後退して船首索を切断し、船尾方に係留中の晴興丸との衝突を、更にその衝撃で同船と船尾方に係留中の勇勝丸との衝突をそれぞれ招き、自船の船尾部左舷側外板に凹損等を、晴興丸の探照灯等に損傷を、勇勝丸の船首部外板にペイントの剥離をそれぞれ生じせるに至った。
 以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。


参考図
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