(事実)
1 事件発生の年月日時刻及び場所
平成15年8月29日17時40分
北海道落石岬南南東方沖合
2 船舶の要目
船種船名 |
漁船第六十三幸福丸 |
漁船第3北翔丸 |
総トン数 |
141トン |
19トン |
全長 |
36.91メートル |
18.20メートル |
機関の種類 |
ディーゼル機関 |
ディーゼル機関 |
出力 |
592キロワット |
573キロワット |
3 事実の経過
第六十三幸福丸(以下「幸福丸」という。)は、さんま棒受け網漁業に従事する鋼製漁船で、A受審人ほか16人が乗り組み、ロシア連邦のオブザーバー1人を乗せ、操業の目的で、船首2.0メートル船尾4.3メートルの喫水をもって、平成15年8月29日11時15分北海道花咲港を発し、同港の南南東方沖合50海里ばかりの漁場に向かった。
17時00分A受審人は、落石岬灯台から149.5度(真方位、以下同じ。)47.6海里の漁場に至り、霧のため視程が50メートルに狭められた状況下、操業開始の日没時刻まで間があるので、機関を停止して漂泊を開始し、間もなく航行中の動力船が掲げる灯火のほか集魚灯などを点灯したが、視界制限状態における音響信号(以下「霧中信号」という。)を行わず、操舵室左舷側のいすに腰を下ろして時折レーダー監視を行いながら単独の船橋当直に当たった。
17時30分A受審人は、前示地点において、船首を225度に向けて漂泊中、右舷船尾65度1.7海里に第3北翔丸(以下「北翔丸」という。)のレーダー映像を探知し、同時35分同映像が方位変化のないまま1,550メートルに近づき、同船と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めたが、そのうち北翔丸が自船を替わしていくものと思い、北翔丸に対し汽笛を連続吹鳴するなどの注意を喚起する措置をとらず、折から在橋していたオブザーバーと雑談しながら漂泊を続けた。
17時40分わずか前A受審人は、甲板にいた乗組員の大声を聞き、右舷間近に迫った北翔丸を認めたが、どうすることもできず、17時40分落石岬灯台から149.5度47.6海里の地点において、幸福丸は、船首を225度に向けたまま、その右舷船首部に北翔丸の船首部が後方から55度の角度で衝突した。
当時、天候は霧で風力1の南西風が吹き、視程は50メートルであった。
また、北翔丸は、電気ホーンを装備した、さんま棒受け網漁業に従事するFRP製漁船で、B受審人(昭和49年12月一級小型船舶操縦士免許取得)ほか6人が乗り組み、操業の目的で、船首0.8メートル船尾1.3メートルの喫水をもって、同日12時30分花咲港を発し、同港の南南東方沖合60海里ばかりの漁場に向かった。
出港操船に引き続き単独の船橋当直に就いたB受審人は、霧のため視程が約100メートルに狭められた状況下、航行中の動力船が掲げる灯火のほか黄色閃光灯1個を点灯し、安全な速力とせずに機関を10ノットばかりの全速力前進にかけ、霧中信号を行うこともなく、時折レーダー監視を行いながら南下した。
17時00分B受審人は、益々視程が狭まる中、落石岬灯台から148度41.1海里の地点に達したとき、針路を160度に定め、10.0ノットの対地速力とし、依然として安全な速力とせず、霧中信号を行わないまま自動操舵により進行し、同時10分定時無線連絡の時刻となり、僚船の操業情報を入手するため、操舵室後部にある無線機の前で傍受を開始した。
17時35分B受審人は、落石岬灯台から149度46.8海里の地点で、正船首1,550メートルに漂泊中の幸福丸のレーダー映像を認めることができ、その後同船と著しく接近することを避けることができない状況となったが、無線連絡の傍受に気を取られ、レーダーによる見張りを十分に行わなかったので、これに気付かず、針路を保つことができる最小限度の速力に減ずることも、また、必要に応じて行きあしを停止することもなく続航し、同時40分少し前無線連絡が終了したので操舵室前部に戻って前方を見たところ、船首至近に幸福丸の集魚灯を認め、右舵一杯としたものの及ばず、北翔丸は、170度を向首したとき、原速力のまま前示のとおり衝突した。
衝突の結果、幸福丸は、右舷船首部外板に擦過傷などを生じ、北翔丸は、左舷船首部外板に亀裂などを生じた。
(原因)
本件衝突は、霧のため視界が著しく制限された北海道落石岬南南東方沖合において、漁場向け南下中の北翔丸が、安全な速力とせず、霧中信号を行わなかったばかりか、レーダーによる見張り不十分で、漂泊中の幸福丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、針路を保つことができる最小限度の速力に減じず、また、必要に応じて行きあしを停止しなかったことによって発生したが、幸福丸が、霧中信号を行わなかったばかりか、北翔丸と著しく接近することを避けることができない状況となった際、同船に対し注意を喚起する措置をとらなかったことも一因をなすものである。
(受審人の所為)
B受審人は、霧のため視界が著しく制限された北海道落石岬南南東方沖合において、漁場向け南下する場合、前路で漂泊中の幸福丸を見落とすことのないよう、レーダーによる見張りを十分に行うべき注意義務があった。しかるに、同人は、無線連絡の傍受に気を取られ、レーダーによる見張りを十分に行わなかった職務上の過失により、幸福丸と著しく接近することを避けることができない状況となったことに気付かず、針路を保つことのできる最小限度の速力に減ずることも、また、必要に応じて行きあしを停止することもなく進行して同船との衝突を招き、幸福丸の右舷船首部外板に擦過傷などを、北翔丸の左舷船首部外板に亀裂などをそれぞれ生じさせるに至った。
以上のB受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第2号を適用して同人の小型船舶操縦士の業務を1箇月停止する。
A受審人は、霧のため視界が著しく制限された北海道落石岬南南東方沖合において、漂泊中、レーダーにより北翔丸と著しく接近することを避けることができない状況となったのを認めた場合、同船に対し汽笛を連続吹鳴するなどの注意を喚起する措置をとるべき注意義務があった。しかるに、同人は、そのうち北翔丸が自船を替わしていくものと思い、北翔丸に対し注意を喚起する措置をとらなかった職務上の過失により、同船との衝突を招き、両船に前示の損傷を生じさせるに至った。
以上のA受審人の所為に対しては、海難審判法第4条第2項の規定により、同法第5条第1項第3号を適用して同人を戒告する。
よって主文のとおり裁決する。